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IssueHuntが目指すオープンソースの新たな経済圏

2018年6月21日(木)
鈴木 教之(Think IT編集部)

完全無料のクラウドソーシングのモデルともいえるオープンソースの世界に、クラウドファンディングの概念を持ち込んだようなサービス「IssueHunt」が6月20日にローンチした。手がけるのはエンジニア向けツールBoostnoteやBoostlogの開発元でもあるBoostIOだ。CEOの横溝氏に狙いを聞いた。

GitHubの”Issue”とHuntingで「IssueHunt」

IssueHuntは、オープンソースとクラウドソーシング、クラウドファンディングをあわせたようなサービスです。僕たちは「Boostnote」というエンジニア向けのEvernoteのようなプロダクトを1年半ほど前から開発してきました、現在GitHub上で8,000以上のスターを獲得しています。ユーザーは90%が欧米、コントリビューターに関してはほぼ100%が海外の方です。コード自体のコントリビューションに加えて、20ヶ国語ほどの翻訳のコントリビューションもあります。このBoostnoteを通じて世界中のオープンソースの開発者と開発する楽しさを学びました、そしてコード以外のかたちでもオープンソースにコントリビュートできるのではないかということを考え始めました。

BoostIOの横溝 一将氏

BoostIOの横溝 一将氏

Boostnoteの開発はドネーションサービスであるOpen Collectiveを通じ、6,000ドル超の寄付を頂いています。しばらくオープンソースのマネタイズを調べていたのですが、ここ数年間あまり変わっていないなと。開発者はもちろん、コントリビューターにも何かしらお金を稼げる仕組みを提供できないかーーそこでCTOのJunyoung Choi(Sai)とアイデアを詰めて、いまのIssueHuntへたどり着きました。

IssueHuntのサービスは非常にシンプルです。GitHubアカウントでログインし、GitHub上で自分がメンテナンスしているリポジトリをIssueHunt上に登録します。するとGitHub上のIssueがIssueHuntへ自動的にインポートされ、それらのIssueに対して誰でも寄付できるようになります。そこで集まった寄付金の8割をそのIssueに対するコントリビューター(Pull Requestがマージされた人)、残り2割をリポジトリの管理者が得られるという仕組みです。類似サービスは他にもあったのですが、まだまだオープンソースへのコントリビューションとしての寄付行為は一般化していません。コミュニティを巻き込んでムーブメントを起こし、新しいオープンソースのエコシステム作りにチャレンジしていきたいです。

IssueHunt

IssueHunt

ちなみに、寄付の仕組みにはStripe等の決済サービスを通じて送受金を行っていますが、近々暗号通貨決済を取り入れる予定です。また、僕らの独自トークンも設計を始めており、遠くない未来に実装を行うと思います。

オープンソースのマネタイズの難しさ

たとえば数百、数千万のユーザーが依存している有名なライブラリでも、作者はそれ(オープンソース)だけでは食えていない、お金になっていません※1。どこかの企業で働きながら、オープンソース開発はパートタイムジョブとしてボランティアベースでやっているのが実状ではないでしょうか。それはちょっとおかしいというか、もったいないなと。オープンソース専業で自分の好きなプロジェクトだけをひたすら開発できる環境が整えば世界はもっと良くなっていく、「OSS専業のメンテナを1万人輩出する」のが、直近の僕らの目標です。

僕らができるのはデベロッパーを集めることだと思っています。そのために、先駆けてBoostlogを作った背景もあります。実際にBootnoteのプロジェクトではこちらがまったく意図していなかった機能をユーザー自らPull Requestで送ってくれています。そうしたコントリビューションがなかったらBootnoteは間違いなく成立できなかったでしょう。ただ、これまではコントリビューターに対して恩返しができていませんでした。彼らのキャリアに役立てばいいなと、ブログで紹介をする程度です。このBootnoteでの経験がIssueHuntにつながっていて、すでにBootnoteのコアコントリビューターにはIssueHunt経由で対価のお支払いができています。実際にベータ運用の段階では、Boostnoteに投銭した3,000ドルのうち、700ドルほどが一週間でPull Requestとして送られてきた実績があります。ありがとうという言葉以外でも感謝の気持ちを伝えられる場所として機能し始めたことを確信しました。

また、コントリビューションの実績は確実にエンジニアとしてのキャリア形成に役立つと考えています。GitHubでもコミットログを追えるのですが、IssueHuntであればサービス上で稼いだお金が実力として見える化される。履歴書代わりにも使ってもらえるのではないでしょうか。

※1: 編注:参考記事「Linux FoundationがCore Infrastructure Initiativeの下、OpenSSLのフルタイム開発者2人を支援

IssueHuntが目指す世界

最近は日本でもフルタイムのメンテナが増えてきて素晴らしいことだと思います、ただオープンソースに対してもっと優しくなって欲しいなと。ここ最近ニューヨークやサンフランシスコに行く機会が多いのですが、向こうではオープンソースへのコントリビューションやドネーションが当たり前の文化として根付いています。企業がオープンソースに積極的で、逆にそうしないと開発者のエコシステムに乗っかれないという危機意識さえあります。もはや開発者を抱えている会社でオープンソースを使っていない会社はないでしょう。日本でもオープンソースを使うだけでなく還元していく文化をもっと広げていければ、企業のプレゼンスを上げていける可能性があると思います。

向こうに行って感じたのが日本人の開発者に対するリスペクトです。オープンソースのコミュニティではどうしても英語の壁がありますが、決して舐められているわけではないと(笑)。ただ、成果物をオープンにしてもっと日本人のプレゼンスをあげていきたいですね。そのためには、日本発のオープンソースを増やしていくこと、また企業からの寄付を増やしていく必要があるのではないでしょうか。OpenCollectiveではtrivagoやCoinbaseといった新興企業でさえ、数千ドル単位でオープンソースに寄付しています。例えば、日本のIT企業も、CSRへの一環としてオープンソースへの寄付を行えば、直接的に開発者は助かりますし、副次的に企業のプレゼンスも上がり、ますます世の中が良くなっていくと確信しています。

IssueHunt以外にも、Open CollectiveやPatreon等、素晴らしいサービスはたくさんあります。ぜひ活用して頂きたいですね。

OpenCollectiveのBabelのページ

OpenCollectiveのBabelのページ

僕らはずっと開発者のためになるものを作りたいという想いでツールを作ってきました。そこからいまは「新しい仕組みをつくる」というビジョンを掲げています。IssueHuntは働き方3.0になると思っていて、一般的な社員としての雇用形態が1.0、プロジェクト単位でマネージャーが業務を発注するクラウドソーシングが2.0だとすると、オープンソースではユーザーによる課題に対してコントリビューションがうまれ改善されていく、より自立分散的な働き方ができる3.0の世界だと感じています。将来的には、オープンソース以外のより多くのプロジェクトに対しても一般的なワークフローとしてIssueHuntを提供できたらいいなと考えています。

著者
鈴木 教之(Think IT編集部)
株式会社インプレス Think IT編集グループ 編集長

Think ITの編集長兼JapanContainerDaysオーガナイザー。2007年に新卒第一期としてインプレスグループに入社して以来、調査報告書や(紙|電子)書籍、Webなどさまざまなメディアに編集者として携わる。Think ITの企画や編集、サイト運営に取り組みながらimpress top gearシリーズなどのプログラミング書も手がけている。

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