OpenStack Summit 2018、Yahoo!ジャパンが共同開発するGimbalとは?

2018年6月29日(金)
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
OpenStack Summit 2018でYahoo!ジャパンとHeptioが共同開発するロードバランサーGimbalが紹介された。

OpenStack Summit 2018 Vancouverの参加者は約2600名ということで、北米での開催ということを考慮しても少なめという印象だ。だが、カンファレンス自体はお祭り騒ぎが終わって実際に使ったうえでのユースケースやインテグレーションに関するものが多く、開発者や運用担当がじっくり話をする時間が多かったという印象だ。そしてなによりも、OpenStackにこだわらず他のオープンソースソフトウェアやプロジェクトとも協調しながらエコシステムを拡げようという意図を感じる内容のセッションも多かったのが特徴だろう。今回は、それらのなかからYahoo!ジャパンがHeptioと共同で開発を進めるロードバランサーGimbalに関するセッションを紹介したい。Heptioは、Kubernetesの元開発者であるJoe Beda氏らが率いるスタートアップだ。

OpenStack Summitでセッションを行っていたGimbalだが、実はコペンハーゲンで行われたKubeConのHeptioブースでも紹介されていた。ビデオを見てもらえばわかるが、GimbalはOpenStackのインフラストラクチャーからCloud FoundryとKubernetesによるアプリケーションインフラストラクチャーに移行するために必要なコンポーネントと位置付けられて開発されている。具体的には、仮想マシンベースのワークロードとコンテナベースのワークロードの両方をサポートするL7のロードバランサーが必要とされていたということだ。

そしてそのためにYahoo!ジャパンはHeptioをパートナーに選んだということである。オープンソースソフトウェアとして開発し、コミュニティからのフィードバックや貢献を得るためには、自社だけで行うのではなくKubernetesに経験の深いHeptioとの協力が必要ということで、声を掛けて開発が始まったという経緯があるようだ。しかしOpenStackのVMベースのインフラから、クラウドネイティブなインフラストラクチャーに移行しようとするYahoo!ジャパンの計画がベースにあることを考えると、OpenStack SummitにおいてGimbalのセッションを行うことは少し皮肉っぽく響くかもしれない。

Yahoo!ジャパンとHeptioによるGimbalのセッション

Yahoo!ジャパンとHeptioによるGimbalのセッション

登壇したのはHeptioのCraig McLuckie氏と、Yahoo!ジャパンの井上龍太郎氏だ。

ここでMcLuckie氏は「クラウドネイティブ」について「Googleなどのインターネットジャイアントなベンダーが運用しているようなシステム」そのものを指すのではなく「それをエンタープライズ企業が自社の問題を解くために応用すること」であると解説したのは非常に興味深いと言える。いわゆる、GoogleやFacebookなどのインターネット企業のやっていることをそのまま持ち込むのではなく、それを自社に合うように応用することが重要だというのが、Heptioによる提案と言えるだろう。

エンタープライズ企業における「クラウドネイティブ」の定義とは

エンタープライズ企業における「クラウドネイティブ」の定義とは

そしてKubernetesだけが企業の持つワークロードではなく、既存の仮想マシンベースのワークロードに対しても解が必要であることを強調した。そのひとつが、今回のL7のロードバランサーであるGimbalということになるのだろう。

Gimbalが解決するのはダイナミックなプロセスに対応できるロードバランサー

Gimbalが解決するのはダイナミックなプロセスに対応できるロードバランサー

Yahoo!ジャパンが求めたのは、コンテナベースのダイナミックなワークロードに対応しつつ、仮想マシンにも対応し、KubernetesをスケールアウトできるIngressトラフィック用のロードバランサーであったということがわかる。

そしてその開発のスタイルはゼロから全てを開発するのではなく、すでにあるものを使い、ミニマリスト的な発想で、ということを説明したのが以下のスライドだ。

Gimbalの内部ではEnvoyやHeptioが開発したContourなどが使われている。オレンジ色の部分がGimbalだ

Gimbalの内部ではEnvoyやHeptioが開発したContourなどが使われている。オレンジ色の部分がGimbalだ

EnvoyはCloud Native Computing Foundation(CNCF)でホスティングされているProxyサーバーで、元はLyftで開発されたものだ。サービスメッシュを実現するIstioでも利用されている軽量のサーバーである。

ここではKubernetesで構成されたクラスターとOpenStackのクラスターそれぞれにGimbalのサービスディスカバリーを行うプロセスが存在し、それがルーティングを行うContourとEnvoyをコントロールするという構成が理解できる。またモニタリングにはPrometheus、可視化にはGrafanaが使われている。

Gimbalそのものはまだ始まったばかりで、実際の機能追加やバグなどのフィードバックは、これから行われるのだろう。以下のロードマップを見ても、まだまだこれから機能が追加される予定であることがわかる。

Gimbalのロードマップ。まだv0.1という若いソフトウェアだ

Gimbalのロードマップ。まだv0.1という若いソフトウェアだ

今回の発表は、Gimbalというソフトウェアそのものの紹介よりも重要なポイントがあるように思えた。それは、Yahoo!ジャパンがすでにレガシーなインフラストラクチャーと見做しているOpenStackと、新しいKubernetesという二つのインフラストラクチャーを同じようにロードバランスしたいというニーズがあること、それに応えるためにオープンソースソフトウェアとしてGimbalの開発を進めたこと、そしてそのためにHeptioというKubernetesの知見を持っている企業と組んだということだ。これは、エンタープライズ企業にとっては大いにヒントになるのではないだろうか。

特に「自社のソフトウェアをオープンソースソフトウェアとして拡めたいが、どうやったらいいのか分からない」「すでに公開してみたが、コミュニティが拡大しない」というような場合に、海外ですでに多くの経験を持っているベンチャー企業と組むのは、アイデアとしては悪くない方法論だろう。

今後のGimbalの発展に注目していきたい。

GimbalのGitHubページ

HeptioとYahoo!ジャパンが共同で行ったセッションの動画はこちら。:KEYNOTE: Gimbal- Bringing the World of Kubernetes and OpenStack Together

著者
松下 康之 - Yasuyuki Matsushita
フリーランスライター&マーケティングスペシャリスト。DEC、マイクロソフト、アドビ、レノボなどでのマーケティング、ビジネス誌の編集委員などを経てICT関連のトピックを追うライターに。オープンソースとセキュリティが最近の興味の中心。

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