さまざまな新機能を搭載したRHEV 3.5

2015年4月24日(金)
平 初

RHEVとは

RHEV(Red Hat Enterprise Virtualization)は、複数のKVMの仮想化ホストと仮想マシンを統合管理するマネージメントソフトウェアだ。日本のユーザーでも、数十台の仮想化ホストと数百台レベルの仮想マシンまでは、RHEVで統合管理している実績がある。

単体KVMとRHEVの違い

単体KVMの管理は、コマンドラインのvirshや、GUIのvirt-managerを使って行われる。virt-managerはlibvirtというライブラリのリファレンス実装であり、つまりライブラリの関数のテスト用だと考えて頂ければと思う。筆者も毎日のように使っているvirt-managerは、一応、複数台のハイパーバイザーを認識させることもできるが、リソース管理の共通化や各種リソースに対するUUIDの統合的管理などは一切行わない。仮想マシンが数台のうちは、とても便利なツールであるが、ごくごく小規模向けだ。仮想マシンの台数が50台を超えると、仮想マシンの一覧表示も危うい。

単体KVMとRHEVによる管理

図1:単体KVMとRHEVによる管理

仮想マシンの管理機能

KVMには、仮想化管理ソフトウェアによくあるHA機能(仮想マシンレベルの高可用性実装)や、複数のハイパーバイザーにまたがるリソースの負荷分散機能などは実装されていない。このような付加価値の高い機能は、統合仮想化管理ソフトウェアであるRHEVに実装されている。RHEVを使うことで、ライブマイグレーションや、HA機能はもちろんのこと、ストレージの機能と連携したスナップショット機能や仮想環境のDR機能(災害対策)も利用可能だ。また、仮想マシンの利用権といった認証/認可の仕組みもActive Directory、Red Hat Directory Serverなどの外部認証基盤と連携することで、組織とマッピングされた権限付与を行った運用が行える。

デスクトップ仮想化

サーバー仮想化の仕組みだけではなく、RHEVにはデスクトップ仮想化の仕組みも提供されており、Windowsデスクトップ、LinuxデスクトップをVDI環境(Virtual Desktop Infrastructure)でリモートからSPICEやRDPといった画面転送プロトコルでアクセスすることもできる。

VDI(仮想デスクトップ)の仕組み

図2:VDI(仮想デスクトップ)の仕組み

ユーザーポータル

RHEVでは、管理者向けWebインターフェイス以外に、利用者向けに簡素化したユーザーポータルのWebインターフェイスを備えており、権限を付与することで仮想マシンの作成や、電源管理、テンプレートからの展開、仮想マシンのコンソールへのアクセスが可能だ。

RHEVユーザーポータル

図3:RHEVユーザーポータル

ISOからのインストール

OpenStackでは、原則としてゲストOSテンプレートから展開して、新しい仮想マシンを作成するが、RHEVではCD/DVDのISOイメージを使い、一からゲストOSをインストールしていくことも可能だ。つまり、VMware vCenterやMicrosoft Windows Server Hyper-Vなどの従来型の仮想化管理ソフトウェアと同じく、小回りの利く仮想化管理ソフトウェアといえる。Webの管理コンソールから操作を行うことで、仮想マシンのコンソールにも簡単に、どこからでもアクセスすることができる。

RHEV 3.5の新機能

2015年2月にリリースされた新バージョンのRHEV 3.5では、多くの新機能の追加と機能改善が行われている。ここでは主な新機能についてフォーカスしてご紹介しよう。

RHEL 7ベースのRHEV Hypervisor

RHEV 3.5から、ハイパーバイザーとして既存のRHEL 6ベースのRHEV Hypervisorに加え、RHEL 7ベースのRHEV Hypervisorも利用できるようになった。しかしながら、RHEL 7の新機能を本格的に活用するのは、2015年にリリースされる予定のRHEV 4.0をターゲットとされており、今回のRHEL 7ベースのRHEV Hypervisorは、RHEL 6相当の互換レベルの仮想マシンが提供される。つまり、来たるべきRHEV ManagerのRHEL 7化の前に、ひとまず、先にハイパーバイザーのみをRHEL 7ベースのものに移行しておくことができる。

ハードウェア面でRHEL 7対応のサーバーへリプレースを行う場合にも有効だ。なお、RHE L6ベースのRHEV Hypervisorで稼働する仮想マシンを、RHEL 7ベースのRHEV Hypervisorにライブマイグレーション機能でオンラインで移動することも可能だ。

RHEV-Mアプライアンスのイメージ提供

以前のバージョン(RHEV 3.3から)から、Self Hosted Engineという、RHEVの仮想化ホスト上に、RHEVの管理サーバーであるRHEV Managerを動作させる仕組みが実装されていたが、RHEV 3.5では、さらに仮想マシンアプライアンスとして、RHEV-Mアプライアンスが提供されるようになった。なお、RHEV-Mアプライアンスは、OVA形式のファイルとしてダウンロードすることができる。

RHEV-M アプライアンスの仕組み

図4:RHEV-M アプライアンスの仕組み

RHEV-M 3.5 Appliance

https://rhn.redhat.com/rhn/software/channel/downloads/Download.do?cid=24821

仮想NUMA、NUMAピニング

RHEV 3.5から、仮想マシンの中のNUMAの仕組みである、仮想NUMAの仕組みが実装された。これはNUMAアーキテクチャの仮想化ホストにおいて、仮想マシン内の仮想CPUに割り当てられている物理CPUから、距離的に近いメモリリソースを使えるようにする実装だ。また、仮想マシン内の仮想NUMAにマッピングするホスト側のNUMAも、明示的に指定して固定化(ピニング)することができる。これらを利用することにより、仮想CPUをたくさん持つ仮想マシンのメモリ割り当てを的確に行うことができ、仮想マシン内で複雑な分析処理の計算などを行うアプリケーションの、実行速度の向上が見込まれる。

仮想マシンのQLA管理/QoS制御

仮想マシンに対するSLAの管理およびリソースの帯域制御が細かく行えるようになった。CPUおよびディスクI/Oに対して、仮想マシンに許可するリソース利用の上限値を管理者が事前に付与することにより、特定の仮想マシンによる過剰なリソース消費を防ぐことができる。よって、予期せぬパフォーマンス上の問題の発生を回避することができるようになった。

oVirt Optimizerの追加

oVirt Optimizerというリソース計画および分析のためのツールが追加された。仮想化ホストに対する仮想マシンの最適配置を行ったり、新規仮想マシンを展開したりする際に、リソースが足りているかどうかもoVirt Optimizerで割り出すことができる。以前のバージョンまでは、リソース計画の場合には、RHEV Reportsのレポーティング機能でレポートを一度生成してから行わなければならなかったが、今回の新機能により、管理者はリアルタイムにリソースの状況を把握することができる。

OpenStackとの連携機能

最近のRHEVの新機能として、大きな割合を占めているのが、OpenStackとの連携機能だ。OpenStack Neutronの提供するネットワークへ、RHEVの仮想マシンをシームレスに参加させたり、OpenStack Glanceのテンプレートイメージの共用化(インポート/エクスポート)が行える。つまり、来たるべきプライベートクラウドの移行に向けて、従来型のワークロードをRHEV上で稼働させることで、クラウド環境に最適化されていないアプリケーションであっても、OpenStack環境の各種リソースをシームレスに共存させることができ、OpenStackのエコシステムの恩恵に与(あずか)ることができる。次のバージョンのRHEVでは、OpenStack Cinderも、RHEVから利用できるようになる見込みだ。

OpenStack連携機能

図5:OpenStack連携機能

ストレージドメインのDR(ディザスターリカバリー)対応

以前までは、RHEV-Mのデータベースが全損した場合や、災害対策で異なるサイトのRHEV-Mから、仮想マシンの実データが含まれているストレージドメインの内容を使って、仮想マシンを復旧させることは、サポートしていなかった。以前のバージョンでも、RHEV環境のDR構成は組めたが、RHEV-Mのデータベースも必ずリモートと同期する必要があった。今回のRHEV 3.5では、ストレージドメインからの仮想マシンの復旧がサポートされるようになり、万が一の場合のシステム修復方法の柔軟性が向上した。ただし、RHEV-Mのデータベースのバックアップは、引き続き怠らずに実施頂きたい。

まとめ

RHEVを使って、KVMベースの仮想化リソースを効率よく管理することが可能だ。もしもプライベートクラウドの導入ではなく、今使っている仮想環境のリプレースを考えているのであれば、OpenStack以外の選択肢として、RHEVも検討されてみてはいかがだろうか? 既存のアプリケーションのクラウド対応を行わないで移行する環境は、パブリッククラウドでもなく、OpenStackでもなく、RHEVが最適だ。

レッドハット株式会社

サービス事業統括本部 ソリューション・アーキテクト部
ソリューションアーキテクト&クラウドエバンジェリスト

商社系システムインテグレーター、外資系ハードウェアベンダーを経て、現在、レッドハット株式会社にてクラウドエバンジェリストとして活躍。2006年に仮想化友の会を結成し、日本における仮想化技術の普及推進に貢献した。

主な著書に「KVM徹底入門」(翔泳社)、「Xen徹底入門」(翔泳社)、「100人のプロが選んだソフトウェア開発の名著」(翔泳社)、「Red Hat Enterprise Linux 7がやってきた」(日経ITpro)がある。

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