【ネットワーク教習所】
未来が近づく、新世代ネットワーク!
第2回:これが新世代ネットワークの設計図だ!
著者:情報通信研究機構 中内 清秀
公開日:2008/03/10(月)
白紙から設計する新世代ネットワーク
本連載では、新世代ネットワークの研究開発の取り組みなどを紹介する。第2回の今回は、新世代ネットワークアーキテクチャのグランドデザインを確立することを目的とし、2015年に新世代ネットワークを実現することを目指している「AKARIプロジェクト」を紹介しよう。
驚くかもしれないが、今日のインターネットは今後20年、30年とますます発展する情報社会の基盤にはなり得ないとみられている。なぜなら、インターネットは急激な発展の中で、その場しのぎの機能拡張や追加を繰り返してきた「継ぎはぎだらけ」のネットワークだからだ。
インターネットの原型であるARPANETが軍事目的で設計されたのが1960年代である。それから40数年後の現在、インターネットを構成する端末の種類や特性、ネットワークの規模が大きく様変わりし、当時からすれば想定外の使われ方をしている。
それにもかかわらず機能していること自体一種の驚きなのであるが、やはり見えないところではさまざまな歪みや問題が生じてきている。その歪み、問題を解決するためにさまざまなネットワーク技術の研究開発が行われてきたが、その一貫性のない機能拡張・追加により結果的にでき上がったものは「機能の継ぎはぎ」でがんじがらめになり、限界に達しつつある今日のインターネットなのである。
そこでAKARIプロジェクトでは、未来社会において新たに発生するであろう技術的、社会的要求に耐えるために、白紙から設計した新しい概念の新世代ネットワークが必要と考えている。
新世代ネットワークの位置付け
AKARIプロジェクトでは、2015年以降の要素技術および社会的要求を精査、予測し、それを前提とした上で理想のネットワークアーキテクチャを白紙から設計し、最後に現実のネットワークからの移行を考えるというアプローチをとる。
現在のネットワーク技術の研究開発の多くは、インターネットありきで進める傾向が強く、インターネット技術の改善に終始してしまっている。これまで培ってきたノウハウや教訓は確かに重要であるが、それだけでは次のイノベーションへはつながらない。
「次世代ネットワーク(NGN)」サービスがいよいよ開始するが、NGNと新世代ネットワークはどう違うのであろうか。NGNはITU-Tにおいて標準化作業が進められており、その根幹はサービスストラタム(機能アーキテクチャ)とトランスポートストラタム(伝送ネットワーク)のIPによる結合である。いわば従来のIPネットワークに、セキュリティ、認証、QoS機能を追加したものである。
NGNは確かに想定しているような高品質でセキュアなサービスを提供するための1つの解ではあるが、次のような懸念も払拭しきれていない。例えば、IPネットワークそのものが本来持つQoS保証技術の難しさ、セッション管理によるスケーラビリティの欠如、ハイエンドIPルータによる大きな消費電力、既存サービスの置換や独自のANI(Application-Network Interface)の定義による柔軟性の欠如などである。
新世代ネットワークはNGNの次の世界を目指しており、今後のネットワーク研究開発の指針となるだけでなく、NGNの今後の展開への示唆を与えることまで視野に入れている。次に具体的な新世代ネットワークの設計原理を紹介しよう。 次のページ