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未来が近づく、新世代ネットワーク!

【ネットワーク教習所】
未来が近づく、新世代ネットワーク!

第2回:これが新世代ネットワークの設計図だ!

著者:情報通信研究機構 中内 清秀

公開日:2008/03/10(月)

AKARIアーキテクチャの基本構成要素

前述したような設計要求や設計原理をもとに、AKARIプロジェクトでは個々の基本構成要素の研究開発に取り組んでいる。ここでは現在検討中のAKARIアーキテクチャの基本構成要素の中から3つだけとりあげて紹介する。

最初に紹介するのが「光パス・光パケット統合技術」だ。これは光パケット交換技術と光パス交換技術という性質の異なる技術を用途に応じて使い分ける共通制御機構であり、資源共用機構である。

光パケット交換とは、従来電気処理を駆使して交換していたパケットを光信号化し、光信号のままルーティングするという先進的な技術である。一方、光パス交換とは、ノード間で事前にパスを設定し、中継ノードにおいてあらかじめ設定された出力インタフェースに光信号のまま交換する回線交換技術である。これは、インターネット(パケット交換)と電話網(回線交換)の比較と同じである。

光パス・光パケット統合技術は、光パケットによる帯域利用効率向上と、光パスによる品質保証の両立を可能とする。それぞれ別々に作って使い分ければよいと考える人もいるかもしれないが、それではネットワーク資源の無駄遣い、冗長な制御機構ということになる。そこで、ネットワーク資源の共用化および制御機構の共用化を図る。これはAKARI設計原理「KISS原則」に従うものである。

制御機構の共用化を図るための1つの具体的な方式として、パケット交換用リンクを使って光パス制御用信号を送ることが考えられる。制御用信号の送受信を共通インターフェースで共用する。

図3:光パス・光パケット統合技術
(画像をクリックすると別ウィンドウに拡大図を表示します)

ネットワーク移行のための技術も検討中

次は「ID・ロケータ分離技術」である。ID・ロケータ分離技術とは、端末の識別子(ID)と接続位置(ロケータ)を分離し、通信相手の指定にはIDを、ルーティングにはロケータをそれぞれ利用しつつ、その対応付けを行う技術である。これはAKARI設計原理「現実結合原則」に従うものである。

インターネットでは、識別子としてFQDN(Fully Qualified Domain Name)が、ロケータとしてIPアドレスが使用されている。FQDNとIPアドレスはDNSにより対応付けられている。つまりIPアドレスが識別子とロケータという2つの異なる目的で使用されている。

この「IPアドレスの二元性」が問題を生む。例えば、端末の移動やマルチホーム接続リンクの切替えにより生じるIPアドレスの変化が、IPsecによるセキュリティやTCPコネクションの維持を困難にする。

AKARIでは、ID・ロケータ分離技術として「3層ノード識別子アーキテクチャ」の検討を進めている。具体的には、ヒューマンリーダブルでローカルユニークな「Local name」(例えば「phone」「my.pc」など)、FQDNライクな「Global name」(例えば「phone#networks.com」)、Global nameのハッシュ値である「ID」から構成される。これらをうまく対応付ける「識別子レイヤ」を導入することで、IPアドレスの二元性問題を解決している。

3つ目は「ネットワーク仮想化技術」である。ネットワーク仮想化技術とは、物理ネットワークの構成やルータのハードウェア構成を変えることなく、その上に複数の異なる論理ネットワークを仮想的に構築する技術である。

これは実ネットワーク上でのAKARIアーキテクチャの実証実験やAKARIアーキテクチャへの移行には必須の技術である。また、さまざまな機能を素早く実ネットワーク上に展開できるという点で、AKARI設計原理「持続的進化可能原則」に従う。

ネットワーク仮想化技術は、オーバーレイネットワーク技術と仮想マシン技術を融合させたものである。つまり、ルータ上で仮想マシンモニタを起動させ、各仮想マシンをそれぞれのユーザ(アーキテクチャ)に割り当てる。異なるネットワークアーキテクチャを1つの共通インフラの上に同時展開し、互いに干渉させることなく並存させることができるのである。

AKARIでは、オーバーレイネットワーク技術、ソフトウェアルータ技術、仮想マシン技術、データプレーンハードウェア化技術などを駆使して、柔軟性の高いネットワーク仮想化環境を構築する方法を検討している。

以上、駆け足でAKARIで検討中の3つの例について説明したが、他にもアーキテクチャとして必須となる基本構成要素すべてについて検討を進めている。詳細については2007年4月にAKARIプロジェクトのWebページにも公開した「新世代ネットワークアーキテクチャAKARI概念設計書」を参照してほしい。

3月17日公開の第3回では、無線通信をぐっと快適にするコグニティブ無線について紹介する。 タイトルへ戻る




独立行政法人 情報通信研究機構  中内 清秀
著者プロフィール
独立行政法人 情報通信研究機構 中内 清秀
新世代ネットワーク研究センター ネットワークアーキテクチャグループ 研究員
2003年、通信総合研究所(現 情報通信研究機構)入所。以来、ネットワークアーキテクチャ、ユニバーサルアクセスネットワーク、P2Pネットワーク、オーバーレイネットワーク、高速トランスポートネットワークなどの研究開発に従事。所属するネットワークアーキテクチャグループでは、グループの総力をあげてAKARIプロジェクトに取り組んでいる。
AKARIプロジェクト


INDEX
第2回:これが新世代ネットワークの設計図だ!
  白紙から設計する新世代ネットワーク
  インターネットの破綻と2015年の設計要求
AKARIアーキテクチャの基本構成要素