【ネットワーク教習所】
未来が近づく、新世代ネットワーク!
第2回:これが新世代ネットワークの設計図だ!
著者:情報通信研究機構 中内 清秀
公開日:2008/03/10(月)
インターネットの破綻と2015年の設計要求
インターネットの根本的問題は何か。一言で言えば「プロトコル間の不整合」である。これは下位層と上位層のプロトコルで重複する機能を提供したり、本来の目的とは異なる用途で利用したりすることに起因する。
スペースの都合上詳細は割愛するが、例えば、インタードメイン経路制御の破綻やIPv4の32ビットアドレス空間や時間概念導入による破綻、IPsecの破綻などが挙げられる。
AKARIプロジェクトでは、2015年以降のネットワークにおける要求として図2(上部)に挙げるようなものを想定している。これらの想定は、現在のインターネットアーキテクチャの破綻を決定的にするものである。
AKARIアーキテクチャの設計原理とは
AKARIでは、新世代ネットワークアーキテクチャを設計する上で、個々の要素技術、基本構成が従うべき絶対的なルールを定めている。これを設計原理と呼んでいる。これまでのインターネットの研究開発から得られた教訓および将来の社会的要求からブレークダウンした基本要件をもとに、3つの設計原理を定義している。
第1の設計原理は「KISS原則」(Keep It Simple、Stupid:物事を複雑にせず簡素に考えよ)である。これはインターネットアーキテクチャに学ぶべき原理であり、またそれをより徹底したものである。システムをシンプルにすることが信頼性確保の第一歩である。また、機能拡張や多様なアプリケーション要求への対応も容易になる。
そこで、AKARIでは機能を最小限に抑えた「共通レイヤ」を設計、導入し、KISS原則に基づいて信頼性、拡張性、多様性を収容することを目指している。ただし、安易な機能拡張・追加による共通レイヤの複雑化は、教訓からシステムの破綻を招くことがわかっているため、次の第2の原理を取り入れる。
第2の設計原理は「持続的進化可能原則」である。将来登場するであろう未知のアプリケーションを予測し、それに適したネットワークアーキテクチャを事前に設計することは不可能である。ネットワーク自らが学習し、新しい要求が発生した場合に適応的に自らその機能や構造、特性を変化させるような仕組みこそが、50年、100年と持続発展できるネットワークに必須である。
そこで、AKARIではこのような「Self-*(アスター)特性」を持つアーキテクチャを設計する。具体的には、個々の端末やルータなどが完全に自律分散的に動作しつつも(局所的最適化)、全体では一貫性のある動作を実現する(大局的最適化)、自己組織型/自己創発型(エマージェント)ネットワークの実現を目指す。ネットワーク仮想化という概念はそのための方策の1つであろう。
第3の設計原理は「現実結合原則」である。インターネットでは、ホスト名やサービス名といった論理アドレス・ネーミング体系と、IPアドレスという物理アドレス体系とを混同してしまっている。
つまり、IPアドレスがその両方の目的で使用されている。そのため、モビリティやマルチホームといった端末の新しい接続形態に効率よく対応することができない。そこで、AKARIでは「物理アドレッシングと論理アドレッシングを分離」させ、このような問題が根本的に発生しないアーキテクチャの設計を行う。
次はいよいよ新世代ネットワークを支える代表的な要素技術を紹介する。 次のページ