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情報化による業務システム改善
情報化による業務システム改善

第5回:BPRの効果を多面的に評価するBSC手法
著者:みずほ情報総研   片田 保   2006/7/11
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4. BPRポイントを抽出して実施方法を検討する

   次に、情報システム導入後、運用改善後の評価を行う(詳細は「第2回:業務プロセスの改革方法とその効果」を参照されたい)。

   今回の事例では、BPRを検討する視点として、表5にあげるように「統合・廃止」「確実化・厳密化」「簡素化・削減」「集約・集中」「分散化・自己責任化」「連携・同時処理」「効率化・自動化」「汎用化・標準化・パターン化」などがある。
統合・廃止 処理全体そのものを見直し、処理全体の削減を進める
確実化・厳密化、簡素化・削減 処理の全体像を確定した段階で、確実性を高める箇所、簡素化する箇所を明らかにし、処理方法を見直す
集約・集中、分散化・自己責任化 決定した処理方法に従って、どのような体制で誰が処理するのかを決める
連携・同時処理、効率化・自動化 処理方法・処理体制が確定した段階で、データ連携・同時処理を行い、システムによる定型自動処理の範囲を拡大し、効率的に処理を行う方法に改善する
汎用化・標準化・パターン化 個々の処理フローを検討するのではなく、同様の手続であると考えられる処理を標準化してパターンに分け、各々について具体的な検討を行い、より効率的・網羅的なBPRを実践する

表5:決裁・文書管理事務のBPRポイントの例

   そして、BPRポイントに基づいて、表6のように具体的なBPR方法を洗い出す。

  • 起案文書と供覧文書の区別
  • 決定関与者の厳選、決定後供覧者の活用
  • 流れ回付と同時回付の併用
  • 決定結果の周知
  • 承認、却下、処理変更ルールの標準化
  • 処理の安全性確保
  • 文書の原本管理、写しや控え文書の廃止
  • 収受・発議件名簿の一元化・全庁共有
  • 対内文書の電子施行・施行先収受の廃止

表6:決裁・文書管理事務におけるBPR方法の例

   さらに、決裁・文書管理事務における「収受・発議 → 起案 → 回付 → 施行 → 保管・保存 → 廃棄 → 情報公開」の段階ごとに、改善すべき個々の課題(事務運用ルール・事務プロセスなど)を明らかにして各々のBPR方法を具体化する。

   ここではBPR方法のうち、情報システムによって実現すべきものを「システム機能要件」として整理する。まとめられた項目は、システム調達を行う際の仕様の基礎資料になるほか、運用・保守におけるサービスレベル(SLA:Service Level Agreement)を決める際にも活用できる。


5. BPR前後の効果を析出する

   決裁・文書管理事務をBSCに基づいて各々の効果を測定すると、図4のレーダーチャートのようになる。

決裁・文書管理に関する評価結果の例
図4:決裁・文書管理に関する評価結果の例

   一番内側のチャート(網掛けの濃い箇所)は、「現状」を示している。次の「システム化後」は、情報システムを導入するだけの場合、どれくらいの効果があるかを示している。一番外側の「運用改善後」は、情報システムの導入の際にあわせてBPRを実施した場合である。

   図4の分析結果からわかるように、情報システムを導入しただけだと、総合得点で50〜60ポイントに留まっている。一番外側のチャートは、「運用改善後」つまり情報システムの導入に併せてBPRを実践したときの効果である。情報システムの導入に併せてBPRを行うか否かで、約20〜30ポイントの差が生じている。

   特に注目して欲しいのは、この情報システム導入前後のギャップである。情報システムを導入(調達)する側は、当初の期待値として、この一番外側のチャートをイメージしがちだ。しかし、BPRにまで手が回らない(あるいは、面倒なのでBPRを実施しない)場合には、情報システムを導入するだけの効果しか得られない。

   この期待値のギャップが20〜30ポイントも開いてしまうと、情報システムのベンダーに対する不平・不満が高まるだけでなく、情報システムを導入した後も使いこなせなくなってしまう。


BSC実践の留意点

   本来、BSCは全社的に導入して大所高所に立って経営戦略を行うための管理手法であるが、個別事業・サービス別や部署別に活用することもできる。今回紹介してきたように、情報システムの導入において、BPR実施の有無でどれくらい効果が異なってくるか、視覚的に分かりやすく表現することが可能である。

   また、目標に対する業績評価や進捗管理で効力を発揮するため、経営層と現場との間をつなぐ管理ツールとして導入を進めている企業や公共機関も少なくない。しかしながら、目標の設定にあたっては、現場主導で行うと全体的に甘くなり、経営層・管理部署が定めると厳しくなる傾向がある。

   現場の意見に耳を傾けつつも、経営層・管理部署が主導してBSCを実施するのが望ましい。そして、目標と現実のギャップの現実を直視し、何を見直して、どのように改革すれば効果を引き出せるか、具体的な数値ではかりながら取り組めば、社内だけでなく情報システムのベンダーとのコミュニケーションも容易になるだろう。

   さらに重要なポイントは、BSCによるBPR実践の取り組みをサイクル化することである。ここで作る戦略マップや指標は、現在の問題点や課題を克服するために設定されている。

   単発・単年度でBSCを活用してみる事例は多い。指標を用いた達成状況は毎年、戦略マップや指標の見直しは難易度にもよるが2〜3年くらいを目安に見直し、継続的に取り組むことが重要なのである。

   次回、BPR実施のための推進主体のあり方、評価・分析の留意点と、実際にBPRを実現した後の形態として、代表的なアウトソーシングの取り組み方を紹介する。

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みずほ情報総研 片田 保
著者プロフィール
みずほ情報総研株式会社  情報・コミュニケーション部
公共経営室長   片田 保

1991年、早稲田大学教育学部卒業、富士総合研究所(現みずほ情報総研)入社、2004年から現職。専門は、ITを活用した行政経営、地域経営。行政の経営改革に関するコンサルティング、自治体の政策アドバイザーなどの業務に携わる。世田谷区行政評価専門委員を務めるほか、大学・大学院非常勤講師、自治体セミナー講師、論文執筆多数。

INDEX
第5回:BPRの効果を多面的に評価するBSC手法
  コスト以外の効果も測る
  BSCで評価してみる
  2. 現状を分析して戦略マップを作る
4. BPRポイントを抽出して実施方法を検討する