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システム統合の要点
システム統合の要点となるビジネス−IT−組織のアラインメント

第5回:BAに整合したISAの構築
著者:東京工業大学   飯島 淳一   2007/5/22
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ビジネスにおける構造

   一方、ビジネスの世界に目を転じたとき、例えば「製品P1、P2を製造・販売しているX社では、各々の製品を製造するのに、3種類の原料M1、M2、M3を必要としているとしよう。いま、P1、P2をそれぞれ1トン製造するのに必要な原料の使用量と各原料1日あたりの使用可能量、さらに各製品1トンあたり利益が与えられているとき、利益を最大にする製品の1日あたりの製造量はどのようなものか」という問題がある。

   これと「ある商品について、mヶ所の発送地からnヶ所の目的地に運びたい。発送地と目的地の、各々の供給量と各需要量、および発送地と目的地間のそれぞれの輸送費用はわかっているとしたとき、どのように輸送すれば、輸送費用を最小にすることができるか」という問題は見かけは全く異なるが、いずれも「線形計画問題」と呼ばれる目的関数が線形関数で、制約条件が線形の不等式で記述できる問題であることが知られている(オペレーションズリサーチなどの標準的な教科書を参照されたい)。

共通点を抜き出す訓練

   このような共通点は、表面的な現象にとらわれず、その背後に潜む構造に着目することによって、見いだすことができる。これはもちろん、そう簡単なことではないが、そのための訓練方法として、筆者はなぞ掛け(三段なぞ)を推奨している。なぞ掛けというのは、A「何々と掛けて」、B「何々と解く」、C「その心は○○」、という形式の言葉遊びである。ここで、Aをカケ、Bをトキ、Cをココロと呼ぶ。

   手順としては、まずAが持つ性質、音、様態などの特徴を列挙し、次にそれをアレンジする。たとえば同じ音で異なるもの、同じもので異なる使い方などである。そしてCの候補を見つけ、最後にそれと関連のあるものを探す(Bの候補)、というものである。

   たとえば、江戸時代の「黒繻子の帯」(1862年頃)に次のなぞ掛けがある(注5)。

※注5: 渡辺信一郎、「江戸の洒落 絵入り言葉遊びを読む」、東京堂出版、2000.

  • 「下戸」と掛けて、
  • 「小田原町の大風」と解く、
  • その心は、「さかなあらし」

   ここでは、「酒を飲む間が保てないので肴だけを盛んに食べる」という「下戸」の特徴から、「肴」をそれと同じ音を持つ「魚」にアレンジすることによって、「さかなあらし」というCを見つけ、最後に「魚の嵐」をイメージするものとして、「小田原町の大風」を探し出している。

   ここで「小田原町」は当時、日本橋室町にあった横丁で通称魚河岸と呼ばれた魚店が300軒以上もあったところで、大風が吹き荒れると道端に並べてある大小の魚が吹き飛ばされて「魚嵐」となったといわれている。


同じとみなすとは

   それでは、見かけが異なるものを「同じとみなす」ということはどういうことだろうか。「aとbとは同じとみなせるが、aとcは違う」ということをどう表現すればよいだろう。aとbを同じとみなすということをa〜bと表現することにすると、同じとみなすとは、次の3つの条件を満たす関係として考えることができる。

  1. ある対象aとそれ自身は同じとみなせる「a〜a」

  2. ある対象aと別の対象bが同じとみなせるときには、bとaは同じとみなせる「a〜bならば、b〜a」

  3. ある対象aと別の対象bが同じとみなせて、またbと第3の対象cが同じとみなせるときには、はじめの対象aとcは同じとみなせる「a〜b & b〜c ならば、a〜c」

表:同じとみなす条件

   実はこの「同じとみなす」という対象間の関係は、数学的には同値関係と呼ばれており、「構造」を表す基本中の基本の関係なのである。

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東京工業大学  飯島 淳一氏
著者プロフィール
東京工業大学  社会理工学研究科  教授   飯島 淳一
1982年東京工業大学・大学院博士課程修了。1996年より現職。2006年4月より経営情報学会会長。主な研究分野は,情報システム学と数理的システム理論。主な著作は『成功に導くシステム統合の論点(共著,2005)』『入門 情報システム学(2005)』ほか。


INDEX
第5回:BAに整合したISAの構築
  ISAの意味:ビジネスアーキテクチャを写し取る
ビジネスにおける構造
  同値類=ブロック