TOP業務システム> 同値類=ブロック
システム統合の要点
システム統合の要点となるビジネス−IT−組織のアラインメント

第5回:BAに整合したISAの構築
著者:東京工業大学   飯島 淳一   2007/5/22
前のページ  1  2  3
同値類=ブロック

   同値関係は様々なところで使われている。例えば図3に示すように、植物の分類でよく知られているリンネによる「雌雄ずい分類体系」は、おしべの数やめしべの形状などに注目して、同値であるものをまとめることにより、分類が行われている。
雌雄ずい分類体系
図3:雌雄ずい分類体系

   また音素については、調音点と調音様式によって導かれた同値関係によって、鼻音、破裂音、軟口蓋音などの分類が行われている。このような分類は、同値であるものを1つのブロック(これを数学の用語で同値類と呼ぶ)にまとめて名前をつけることによって行われる。つまりブロックの集まりと、同値関係とは表裏一体なのである。


同値関係とモデル

   代表的な同値関係には、射影によって定められるものがある。図4に示すように、円柱上の点を円(盤)上の点に射影することを考えてみる。このとき、xとyは、同じ点として見ることができる。このように、射影が同値関係を定めることは容易に理解できよう。

射影によって定められる同値関係
図4:射影によって定められる同値関係

   ところで、モデルを「対象のある側面に注目し、捨象することによって得られたもの」とすれば、モデルを作ることは対象に対して同値関係を設定し、その同値類を観察していることに他ならないことがわかる。

   第3回で取り上げたアーキテクチャ記述が、いくつかのモデルからなることを考えると、アーキテクチャは、複数の同値関係にもとづいて得られるものであることがわかる。


MECE

   さて、論理的に何かを伝えるための代表的な技法として、MECEと呼ばれる技法が知られている。MECEとは、Mutually Exclusive and Collectively Exhaustive の略で、「ある事柄を相互に重なりなく、しかも漏れのない部分の集合体として捉えること」である。数学的には、MECEとは、複数の同値関係による対象の分割のことである。

   たとえば「あなたの部門に入ってくる情報は全体としてどのようなものがあるか説明してください」という問題に対して、MECEアプローチでは、定期か不定期か、公開か非公開か、定期なら月間か週刊か、などの分類を用いてその構造を明らかにするとしている(注6)。実はMECEとは、数学的には、複数の同値関係による対象の分割のことに他ならないのである。

※注6: 照屋 華子、岡田 恵子著、「ロジカル・シンキング」、東洋経済新報社刊、2001.


概念データモデルの例:KDDIの事例

   図5はKDDIの業務について、「要」に注目して記述された概念データモデル(静的モデル)の例である。ビジネスの対象領域の「要」となる「実体」とその間の関連について、顧客、銀行口座、契約、などの実体とその間の関係がER図で記述されている。

   表現方法はともあれ、ビジネスの対象となる実体に何があり、その関係がどうなっているかについて、ありのままを書くのではなく、もっとも本質的なところだけを書くというのがここでのポイントである。

概念データモデル(静的)の一部
図5:概念データモデル(静的)の一部
(画像をクリックすると別ウィンドウに拡大図を表示します)

前のページ  1  2  3


東京工業大学  飯島 淳一氏
著者プロフィール
東京工業大学  社会理工学研究科  教授   飯島 淳一
1982年東京工業大学・大学院博士課程修了。1996年より現職。2006年4月より経営情報学会会長。主な研究分野は,情報システム学と数理的システム理論。主な著作は『成功に導くシステム統合の論点(共著,2005)』『入門 情報システム学(2005)』ほか。


INDEX
第5回:BAに整合したISAの構築
  ISAの意味:ビジネスアーキテクチャを写し取る
  ビジネスにおける構造
同値類=ブロック