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企業通貨
新たな潮流企業通貨〜通貨エボリューション〜

第2回:企業通貨がもたらすインパクト

著者:野村総合研究所  梶野 真弘   2006/12/18
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企業通貨を自社顧客の囲い込みに利用した成功例

   一見、ロイヤリティの高い顧客を多数抱えているように見える航空会社のマイレージサービスではあるが、年に数回しか飛行機を利用しない顧客に対して、どのようにロイヤリティを上げていくかが、航空会社の課題の1つになっている。この課題に対して全日空(以下、ANA)では、自社のマイルと電子マネーのEdyとアライアンスを組むことにより、課題解決の方策を見いだしている。

   具体的には、自社マイレージの会員がEdyで買い物をするたびに、少額ではあるがマイルを付与するという提携だ。この電子マネーという日常的に使うサービスと提携することで、ANAブランドを連想してもらう機会を増やし、希薄になりがちな低利用顧客との距離感を埋め、ANAブランドへのロイヤリティを高めることを狙いとしている。
電子マネーのEdyとアライアンス効果
図5:電子マネーのEdyとアライアンス効果

   ポイントプログラムに携わっている担当であれば、真っ先に顧客への還元率などのコストへ目が向くだろう。この点について当該の航空業界では「コストにも目を向けるが、マイレージを貯めるだけではなく、使っていただいたときに顧客へのロイヤリティが最大化される」と考えている。

   つまり、貯まったマイルをできる限り使ってもらう機会を増やすことが、顧客満足度を上げるという考えであり、この概念に従って、様々なプロモーションを行っているのだ。この考えに立脚して、ANAでは自社のマイレージを電子マネーのEdyに交換するという、顧客サービス向上に寄与するサービスを展開しているのである。

   これには2つの意味が込められている。1つ目は、従来、顧客から見てメリットの大きいマイレージの交換先は、国内の無料往復航空券であったが、交換には15,000マイルが必要という高いハードルを超える必要があった。それを10,000マイルでEdyの10,000円分に交換という一段下げたハードルを用意することによって、15,000マイルに達さない顧客にもメリットを提供し、顧客満足度が向上する機会を増やした。

   2つ目は、超優良顧客に対してである。超優良顧客は頻繁に飛行機に乗るため、マイルを消費する以上に、マイルが大量に貯まってしまう傾向が強い。この顧客に対して、多量に保有しているマイルを有効に活用してもらうため、汎用性の高い電子マネーと交換できるルートを作ることによって、「マイルを使っていただいたときに顧客へのロイヤリティが最大化」を実現している。


拡大する企業通貨市場

   元来、ポイントやマイレージの原資は企業の販売促進費から賄われており、その販売促進費の極一部が、ユーザにポイントとして還元されていた。その日本の販売促進費は、年間約13兆円に達している。

   しかし、前述の「フロント型企業」と「イネーブラー型企業」の間で、ポイントやマイレージといった企業通貨を介してのアライアンスが展開される際に、企業の広告宣伝費から賄うという考えが出はじめている。

   先ほどの航空会社と紳士服チェーンの例に見られるように、「フロント型企業」という新しい広告媒体を介して顧客を送客してもらい、成功報酬ベースでその広告宣伝費用をマイル購入という形で支払うという流れである。

   日本の広告宣伝費は年間約6兆円であり、いわばマス広告などに流れていた費用の一部を直接顧客にポイントとして還元したともいえる。折しも、マス広告の費用対効果・宣伝効果に一部の企業が疑問を呈しはじめた背景も重なり、この種の企業間の提携が確実に増えてきている。この日本の販売促進費13兆円と広告宣伝費6兆円をあわせた19兆円をバックに、「企業通貨」の発行額は拡大しているのである。


今回のまとめ

   企業通貨を戦略的に活用することにより、自社だけのチャネルやプロモーションだけでは獲得できなかった「新規顧客」を獲得する効果やポイントを貯めやすく・利用しやすくなるため、自社顧客の満足度の向上させる効果が期待できる。さらにフロント型企業では、ポイントの売買する際の売却益なども期待できる。

   企業通貨の市場規模は、企業との提携が拡大するにつれ、販売促進費に加え広告宣伝費から支出されるようになるため、確実に拡大していくだろう。

   次回は、企業通貨を活用するためのKFS(Key Factor for Success)や企業通貨を活用したアライアンスのパターン・事例について解説を行っていく。

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株式会社野村総合研究所  梶野 真弘
著者プロフィール
株式会社野村総合研究所  梶野 真弘
東北大学大学院工学研究科原子核工学修了。92年野村総合研究所入社。ポイントプログラムの導入に関する全般的な支援に加え、情報通信分野、消費財分野の事業戦略立案、マーケティング戦略立案、新規事業支援、アライアンス支援などのコンサルティングに従事。


INDEX
第2回:企業通貨がもたらすインパクト
  業態変革からみた企業通貨
  企業通貨を利用した航空会社と紳士服チェーンの成功事例
企業通貨を自社顧客の囲い込みに利用した成功例