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企業通貨
新たな潮流企業通貨〜通貨エボリューション〜

第5回:企業通貨は「第二の通貨」になり得るか

著者:野村総合研究所  安岡 寛道   2007/2/13
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基軸通貨への動き

   先の項目で説明してきた企業間の提携によって、顧客である利用者が企業通貨を集約しようとしていく動きが生まれる。

   その結果、集約・保有することで他よりも価値が生じる企業通貨が「第3回:企業通貨の導入・運用におけるキーファクター」で示した「基軸通貨」となる。「基軸通貨」とは、リアルマネーでいえば、米ドルにあたる存在である。

   では、どうような業種の企業通貨が「基軸通貨」として有望であろうか。成功要因の3つから見ると、図4のようになる。
どの企業が基軸通貨となるか
図4:どの企業が基軸通貨となるか
(画像をクリックすると別ウィンドウに拡大図を表示します)

   すでに、航空業界のJALとANAのマイレージは基軸通貨の双璧であるが、Tポイントや楽天スーパーポイントにように、主に流通業界から起点とした企業通貨も「基軸通貨」であろう。他に、通信のNTTドコモ、通信・流通(eコマース)などのYahoo!などもあげられるが、今後はエンターテインメントや金融なども「基軸通貨」となってくる可能性は十分にある。


企業通貨はどの領域まで広がるか

   提携を繰り広げ「基軸通貨」へと繋げる動きは、民間企業のみならず、ここ数年で公共系のサービス企業にまで浸透してきた。通信(電話など)ではすでに規制緩和された携帯電話を中心にかなり導入が進んでいる。また電力ではオール電化促進で、ガスでも電力対抗で、それぞれ提携したクレジットカードを通じて、企業通貨(ポイント)の制度を活用している企業もあらわれている。

   公共サービスに目を向けると、水道は各自治体が主体のために現在のところ提携はないが、病院や新聞、NHKなどでは決済にクレジットカード払いが適用されてきており、次に企業通貨(ポイント)の制度の導入は欠かせないであろう。

   今後、規制緩和に伴った競争激化に対応した顧客囲い込みが進むと考えられるため、このポイント制度の導入は欠かせない要素の1つであろう。さらなる可能性としては、さらに公共的な(官の)税金や年金・健康保険料などにも、他自治体などに対する囲い込みのため、ポイント制度が導入されていくかもしれない。


2007年の大きな動き

   少し戻って特に今年に目を転ずると、春にセブン&アイ・ホールディングスが電子マネー「nanaco」を発行する。それと同時に付随するポイント制度の提供も行う予定であり、セブン・イレブンをはじめとする約1万2,000店舗でポイントが付くサービスが開始されることになる。また電子マネーであり、JR東日本の乗車券でもあるSuicaも、利用金額や利用回数に応じてポイントが自動的に貯まるサービスを今年6月から開始する予定である。

   なお、その前の3月18日に関東の私鉄(パスネット・バスICカード株式会社)が乗車券IC化として「PASMO」を導入し、Suicaと相互利用できるようにもなる。これは乗車時にもポイントを付与する予定であり、消費者は単に乗車券を買うより、こちらのメリットを享受しようとするであろう。

   このIC化の流れは、関西ではJRのICOCAや私鉄のPiTaPaですでに導入され、東海のTOICAの他に、北海道や九州においてもJRや私鉄で導入する予定である。

   さらに、今年10月には、郵政民営化が控えている。全国2万超の郵便局を窓口とする日本郵政がポイントを発行したいと表明しており、それに対抗して金融機関や物流事業者、小売店がポイント制度を強化(導入や付与率アップなど)することも予想される。

   郵便局のポイント提供は、公共サービスにもその波が押し寄せていることを意味する。要するに、規制が緩和され、競争が激化すると、顧客を囲い込むために、ポイント制度を導入する。これらはしごく当然のことあり、この流れが民間から公共サービスと来れば、次は自治体や国がポイント制度を導入する可能性も、自然の流れともいえる。


企業向けの企業通貨の登場

   消費者向けの企業通貨だけでなく、企業向け(法人間)の企業通貨も増えていく可能性がある。例えば、金融機関を通して企業間での取引手数料の削減のため、自社の企業通貨を活用する場合である。

   これには、国内では大きなグループ企業間取引が当てはまる。グループ企業の候補としては、通信、電力、鉄道、自動車、家電、機械など、国内の有数グループがあげられる。また、中小企業にかわって、一部の物流企業が金流も取り込むために、共通の企業通貨のプラットフォームを提供する可能性もある。

   この他にも、企業内の業務評価や貢献に対するポイント制度を導入していくことも考えられる。これは外部向けでなく、社員のような内部向けの企業通貨である。例えば、派遣業者のフジスタッフでは派遣社員の囲い込みのために、ポイント制度を導入している。また、ソニーやリコーなどは環境に配慮した従業員の寄付行動にポイント制度を活用しようとしている。

   さらに、福利厚生のカフェテリアプランの提供に合わせてポイント制度を導入する場合など、単なる報酬以外の企業通貨の導入も当然考えられる。こういった社員や契約社員などの付加的な評価や貢献に企業通貨を活用する場合も、今後ますます増えていくであろう。

   また、企業内のみならず、企業と株主を繋ぐ株主優待としての企業通貨も有り得る。すでに検討している企業も存在し、今後の展開として広がる可能性も十分あるだろう。

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株式会社野村総合研究所 安岡 寛道
著者プロフィール
株式会社野村総合研究所  安岡 寛道
慶應義塾大学大学院理工学研究科電気工学専攻(修士)修了、1994年に株式会社野村総合研究所入社。2000年に一旦退社後、事業会社にて新事業を立上げ、外資系コンサルティング会社を経由し、2003年に再入社。その間、米国の通信制大学院にてDBA(経営学博士)取得。情報・通信分野を中心に、CRMおよびマーケティング戦略立案からオペレーション改革までを手掛けている。またインターネット新事業立上げの経験をもとに、各種の新事業に関する提言も行っている。


INDEX
第5回:企業通貨は「第二の通貨」になり得るか
  企業通貨の今後の展望
  企業通貨を活用した提携と基軸通貨の流れ
基軸通貨への動き
  企業通貨の課題