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新たな潮流企業通貨〜通貨エボリューション〜 |
第5回:企業通貨は「第二の通貨」になり得るか
著者:野村総合研究所 安岡 寛道 2007/2/13
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企業通貨の課題
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以上、全5回にわたって企業通貨について論じてきたが、実は課題も多い。
例えば、顧客囲い込みや優良化のためにポイントを活用してランク付けした場合、明らかに格差社会を助長することになる。例えば税金へのポイント付与を考えた場合、ユニバーサルサービスを基本とする行政が格差社会を助長することになり、クリアすべき壁は大きいといえよう。
また税金逃れをするために、タックスヘブンの国々に移住(住所地のみならず金銭だけの移住など)することも考えられるため、もし導入される場合には考慮すべき点が多い。
法的な問題点の詳細は別文献に譲るが、現時点ではこれらの企業通貨全体をカバーする法律はなく、既存の法律を適用しているだけであり、ポイント発行企業が潰れれば、ポイントの価値はなくなってしまう(したがって、発行量が多い企業は、経済に与える影響を考えると潰せないかもしれない)。
逆に、国際的に「通貨」として認められていないことを利用し、マネーロンダリングを行うことも当然あり得る。すでにゲーム内通貨がRMT(リアルマネートレード)に発展し、問題を起こしているケースもある。
これは多少飛躍した話になるが、国家間のやり取りにもポイントが利用される可能性もある。あくまで企業間同士の企業通貨のやり取りであり、通貨自体の動きはないため、この手法を発展させていくと国際的なマネーロンダリングにつながる可能性がある。
また企業通貨のプログラムとして、どこで儲けるのかという点も考慮すべきである。それは本業への顧客回帰の他にも、企業通貨販売、企業通貨交換差益、バックエンドのシステム開発および運用など様々である。
そもそも「通貨」のようにポイントを発行することによって、通貨発行益もメリットとして考えていかなければならない。この収益面のみならず、通貨発行企業の保有IDの確からしさも当然、企業価値(時価総額)に影響すると考えられるため、これまでの相互送客としての単純なID数の競い合いも検証していく課題であろう。
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まとめ |
企業通貨を媒体に企業間の提携などによって、あらゆるビジネス展開の可能性がある。企業としては今後、本当に送客効果があったのかなどについて、提携自体を検証していく段階に差し掛かっているといえよう。さらに、今後は公共サービスや「官」がこの企業通貨に対して、囲い込みなどの可能性とその課題を踏まえた上で、導入の是非を問う段階を迎えていると考えられる。
これらの消費者向けだけでなく、企業向けも含めた企業通貨市場は、より一層膨張していく可能性は高く、1971年からの統計調査史上はじめて2005年に前年同月比で減少した国内のリアル貨幣の流通量に、さらに影響を与えていくものと予想される。
ただし、このような影響を考えつつも、単に規制するのではなく、健全で新たな決済手段に育成し、未来の日本の産業や業態構造の変革を促す起爆剤にしていくべきであろう。
今回を持って、「企業通貨」シリーズは幕を閉じることとする。読者の方々からの忌憚のないご意見、および企業通貨を活用した今後の発展の可能性のアイデアやその課題を募りたいと考えている。ぜひThinkITへの問い合わせを通じて、いろいろとご意見いただきたい次第である。
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著者プロフィール
株式会社野村総合研究所 安岡 寛道
慶應義塾大学大学院理工学研究科電気工学専攻(修士)修了、1994年に株式会社野村総合研究所入社。2000年に一旦退社後、事業会社にて新事業を立上げ、外資系コンサルティング会社を経由し、2003年に再入社。その間、米国の通信制大学院にてDBA(経営学博士)取得。情報・通信分野を中心に、CRMおよびマーケティング戦略立案からオペレーション改革までを手掛けている。またインターネット新事業立上げの経験をもとに、各種の新事業に関する提言も行っている。
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