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ERP+SOA
ERPへのSOA適用による企業システム構築の新たなアプローチ

第1回:ベストプラクティスといわれたERPの落とし穴

著者:オープンストリーム  赤穂 満   2006/12/13
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ERPベストプラクティスといわれた落とし穴

   ERPとはEnterprise Resource Planningの略で、直訳すると企業資源計画ということになる。

   本来はヒト・モノ・カネといった経営資源を企業全体で統合的に管理することで、「経営状況がリアルタイムに可視化され環境の変化に迅速に対応できるアダプティブマネジメントが可能になる」という壮大な経営手法でありコンセプトである。

   今では統合業務パッケージというソフトウェアのカテゴリを指す言葉としてすっかり定着してしまったが、それは元のERPという言葉が定義したゴールがあまりに当たり前すぎる課題であり、実装を伴わないコンセプトとしては単独で生き残ることを許されなかったと考えられる。

   ERPは1990年頃に基幹業務の全域に渡った「企業のベストプラクティス」という触れ込みでC/S(クライアントサーバ)型のERPパッケージが投入され、ここ十数年の期間で着実に浸透してきた。これほどの規模になったのは、ターゲットとした業務の普遍性を狙っていたためと考えられる。

   しかし今日ほどビジネス変化の著しい状況はない。顧客要求、調達先さらには提供するサービスをも変更しなければ、企業は生き延びられないという状況に迫られているからである。したがって、多くの投資をして導入したERPも陳腐化してしまい、自社のビジネスモデルの硬直化を引き出している元凶となっているのである。

   本来、企業がERPに期待していた導入効果は以下の3つがある。
第一の効果「業務データの高度活用」
業務の遂行に伴うすべてのデータについて「欲しいデータをリアルタイムに入手・分析できる」「国内・海外の事業所のデータを入手・分析できる」「すべての業務データを抽出することができる」とう点があげられる。
第二の効果「業務改革」
ERPは欧米の先進企業の業務(ベストプラクティスと呼ぶ)を基に開発されている。ERPを導入し、それに合わせた業務改革を行うことにより、欧米の先進企業のビジネスモデルに近づき追いつくことが可能になる。
第三の効果「レガシーシステムからの脱却」
ERPが騒がれはじめた1990年代前半は、オープン化の潮流にあわせて2000年問題という大きな環境の変化が見られた時期でもあった。「統合業務パッケージ」という名の下、「全業務を刷新」する手段として大企業の多くがERPの導入に踏み込んだ背景がある。

表1:ERPに期待していた効果

   これら表1にあげた期待効果に対して、導入した結果はどうだったのか。2006年5月のガートナー調査から以下のような結果が得られている。

ERP導入の期待効果と実態 出展:ガートナー調査結果(2006年5月)
図3:ERP導入の期待効果と実態
出展:ガートナー調査結果(2006年5月)
(画像をクリックすると別ウィンドウに拡大図を表示します)

   図3の結果からも明らかなように、ほとんどの結果において期待効果と実態の差が10〜20%開いている。

   これらの要因としては、先に述べたERPに合わせた業務改革(第二の効果)に関して、多くの日本企業の場合、「カンバン方式」に代表されるように、生産管理や在庫管理といった業務は欧米より進んでいる場合が多く、業務をERPに合わせた場合、これまでの日本企業で培ってきた生産性や品質を著しく低下させることになりかねないことがあげられる。

   また業務データの高度活用(第一の効果)についても、ERPパッケージの機能と企業が目指す業務の「To-Beモデル」との間にギャップが存在し、結局は経理・人事と販売系などの一部のモジュールを中心に導入する企業が多く見られる。

   その他のモジュールは従来のレガシーシステムに頼る状況になっているケースが多々あり、このことがレガシーシステムからの脱却(第三の効果)を妨げている要因にもなっている。


ERPの適用範囲

   製薬メーカーなどの場合、新薬における研究開発が研究開発の源泉と考えられる。多くの製薬メーカーでは、購買・生産・出荷・配送といった業務にERPを導入し、効果を出している。この事例から明確なことは、企業は競争力を必要としない付加価値のないところには、簡素化・標準化による効率追求を行い、ERPを適用して効果を出せるということだ。

   言い換えれば、競争力を要する業務については、他社のベストプラクティスに頼らず、自社の英知と経営資源を集中させ、独自のシステムを作り上げることが必要であるといえる。


次回は

   このようにERPの導入にはカスタマイズが必要であることは、読者の皆さんもご存知の通りである。ではそこにSOAを適用するとどうなるだろうか。次回では、SOAを適用したERPの導入アプローチについて解説していく。

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株式会社オープンストリーム  赤穂 満
著者プロフィール
株式会社オープンストリーム  赤穂 満
サービス推進兼SAXICE推進担当 統括ディレクタ
活動状況:これまでに、製品ライフサイクル、製品構成情報管理やビジネスモデルなどに関する解説記事、論文多数。
所属学会:日本設計工学会、経営情報学会、ビジネスモデル学会、正会員。


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第1回:ベストプラクティスといわれたERPの落とし穴
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ERPベストプラクティスといわれた落とし穴