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今だから知っておきたいXMLデータベースの成功ポイント
今だから知っておきたいXMLデータベースの成功ポイント

第2回:仮想事例から見るXMLデータベースシステムの開発

著者:ウルシステムズ  伊奈 正剛   2007/1/26
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半定型文書としての業務マニュアル

   まず、ビジネス上の目的が業務の効率向上であることから、その引き継ぎに膨大な時間を要するようでは意味がない。そのため、新しい商品に関して最適な取引手順を伝達するためのITによる支援が重要となる。

   そこで、商品の取り扱いに関する以下のような様々な業務手順を部品化し、それらを階層的に組み合わせることで、ビジネスの流れを伝達しやすい形でまとめることにした。
  • 商品の引き合い
  • 契約
  • 入出庫
  • 決済
  • 為替取引


   これらの一連の業務手順は、ビジネス全体を見た場合には共通な構造を持っているが、商品ごとの違いを考えると、バリエーションは数万にもおよぶ。そこで、商品取り扱いマニュアルシステムでは業務手順を部品化し、それらを階層的に組み合わせることで、マニュアル作成を行うことにした。

   図2に示すようにビジネスにおける各項目は、「取り扱い商品」や「購買担当者」などの情報と「契約」「入出庫」「決済」などの業務からなる。各業務は複数の業務パターンの組み合わせになっており、例えば「契約」には「海外の買い先」のパターンなどが含まれる。さらに業務パターンにおける詳細項目(例えば「買いの契約情報登録」)に対しては、定型化できる情報を選択できる複数のプロセス毎にビジネス項目をまとめ「共通マニュアル」を定義した。

階層化された商品取り扱いマニュアルのデータ構造
図2:階層化された商品取り扱いマニュアルのデータ構造
(画像をクリックすると別ウィンドウに拡大図を表示します)

   購買担当者が個々の商品に関するビジネスの流れを定義するには、適切な業務パターンと共通マニュアルを選択した上で、そこからの差分情報(たとえば具体的な「見積依頼書のサンプル」など)を「個別マニュアル」に入力していく。よって、ひとつの業務フローを管理する商品取り扱いマニュアルは業務パターンと共通マニュアル、個別マニュアルを組み合わせることで生成される。

   このように商品取り扱いマニュアルの全体だけでなく、それを構成する部品もXMLドキュメントにすることによって、新しい商品に対するビジネスの流れをマニュアル化する手間を大幅に効率化することが可能になる。つまりこのシステムでのXMLドキュメントの採用は、全体的には定型的であるが部分としては柔軟性を持つ半定型文書としての性質を効果的に活用するものであるといえる。


創造的で柔軟な業務への適用

   このシステムにおいて特に注意を払わなければならないのは、システム化によって購買担当者の創造的な活動を阻害してはいけないという点だ。購買業務は常に新しい商品開発をしていくものであり、新規の取り引き先との間で前例のない取引パターンが必要になったり、商品の新しいカテゴリが必要となるなどの変化が起きることも留意しなければならない。

   つまり、あらかじめ完全にビジネスの構造を規定し、部品をすべて用意しておくことはできず、内容の自由度や業務用件の変更に対応できる柔軟性が必要となる。この点を実現できなければ、共有すべき情報が電子化されずに埋もれてしまうことにもなりかねない。

   このため商品取り扱いマニュアルは、スキーマ定義不要のウェルフォームドXML(注1)で表現することが重要になる。ウェルフォームドXMLでは、自由に構造の追加・変更が可能な点から、創造的な業務に対する支援が行えるのである。

※注1: ウェルフォームドXMLとは、XMLの文法にそって記述されたドキュメントで、スキーマの定義が不要となる。


XMLデータベースによる十分な性能の獲得

   それぞれの業務現場で実用に耐える性能をだすためには、ウェルフォームドXMLで表現された大量のビジネス項目の蓄積と、それを高速に処理する性能が重要になる。

   扱われるデータは、取り扱う商品とそのプロセスの多さのため、100GB規模になる。また、ビジネスの内容を表現するデータは項目数が多く、階層の深い複雑なXMLデータとなっている。これらのパーツを組み合わせて作った共通/個別マニュアルの参照を行う際に、通常のWebブラウザを用いて数秒でレスポンスが返るような性能が要求される。

   こうしたシステムをリレーショナルデータベースを使って構築する場合、半定型の文書を表現するXMLデータを丸ごとテキスト型のカラムに格納する方法が考えられる。この方法を採用した場合、XMLデータを特定の項目で検索するには、アプリケーションでXML解析して検索する仕組みを自前で作ることが必要になる。このようなやり方では、データが少ないうちはよくても、蓄積された業務データが増大するに伴ってWebブラウザで表示するまでのレスポンスが低下してしまう。

   別の手法として、XMLデータを丸ごとテキストカラムにいれるのではなく、検索に対応する項目をカラムに格納するという方式も考えられる。この場合は、検索性能を高めることができるもののスキーマの変更が発生した場合の影響が大きく、ウェルフォームドXMLならではの柔軟性を損なってしまう。

   柔軟性を損なうことなく十分な性能を引き出すためには、ウェルフォームドXMLに対応で、かつフルオートインデックスの機能を持つ、第二世代のネイティブ型のXMLデータベースの中でもデータベース設計も必要としないスキーマレスなXMLデータベースの採用が現実的な選択肢になる。

   このようなXMLデータベースであれば、エンジン自体が構造を用いた検索に対応しているため、100GB規模の複雑なXMLデータでも十分な検索性能を得ることができる。また、ウェルフォームドXMLに対応しているので、ビジネスの構成要素をあらかじめ決める必要がなく、さらにフルオートインデックスによる容易なメンテナンス性も創造的な業務支援に有効に働くといえる。

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ウルシステムズ株式会社 伊奈 正剛
著者プロフィール
ウルシステムズ株式会社  伊奈 正剛
前職よりEDI、B2B、EAIといったシステム構築を中心に、XMLを駆使したシステムの開発に携わる。現職では、流通業界向けの次世代XML-EDIシステムの構築とその導入コンサルティングに従事するかたわら、XMLデータベースのビジネス活用に向けて検討を進めている。


INDEX
第2回:仮想事例から見るXMLデータベースシステムの開発
  企業システムへのXMLデータベースの適用指針
半定型文書としての業務マニュアル
  仕様変更に強い開発プロセスの実現