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Ajax時代到来
Ajaxではじまるサービス活用

第2回:GoogleはWebの常識を塗り替えた

著者:ピーデー  川俣 晶   2007/1/12
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Ajax創始者としてのGoogleの特異性

   「Ajaxは、Google Mapsからはじまった」と見なされることは珍しくない。だが、ここで注意すべきことがある。Googleは「Ajaxを生み出した」わけではなく、「Google Mapsは初のAjaxアプリケーション」というラベルを付けて世に送り出されたわけでもない、という事実である。

   もちろん、GoogleをAjaxの創始者と見なすことは間違いではない。しかし、Ajaxという名前を考えたのはGoogleではなく、またAjaxを支える技術はGoogleによって開発されたものではないのである。

   このねじれ現象を正しく理解することが、Ajaxという技術の本質と、GoogleのAjax戦略の方向性を把握することにつながるといってもよいだろう。では、問題を整理するために、歴史の概要を順を追って見ていくことにしよう。

Ajaxの基礎技術はどこから来たのか

   Ajaxの技術的な基盤となるのは、Webブラウザ上でプログラムを実行する強力な機能である。これは「Dynamic HTML」ともいわれ、1995年頃にNetscape社がNetscape Navigator上で提供をはじめたものである。その後、同様の機能をマイクロソフトもInternet Explorer上で提供するようになった。さらにXMLや非同期通信の機能を備えたInternet Explorer 5.0が1999年にリリースされ、これでAjaxで使用されるDynamic HTMLはほぼ完成したといえる。

   つまり、Ajaxの基本技術はNetscapeが生み、マイクロソフトが育てたものであり、しかもAjaxブームを数年遡る1999年には、すでに環境は整っていたのである。この過程において、Googleの大きな関与は見られない。Googleの創業はWikiPediaによれば1998年9月7日であり、関与するための時間的な余裕もほとんどなかったといえるだろう。

   しかし、せっかく生まれたDynamic HTMLも、大々的に利用されることはなかった。その理由は大きく分けて2つある。1つはWebブラウザごとの互換性が乏しく、当時主流だったNetscape NavigatorとInternet Explorerの主要バージョンに対応させるだけでも大きな手間を要したこと。もう1つは、XMLや非同期通信の機能がNetscape Navigatorにいつまでも搭載されず、これらの機能を活用したサービスの作成が事実上不可能だったことである。

   結果として、Dynamic HTMLを大々的に活用したサービスを開発する機運は急速に縮小していった。その代わりに流行したのが、すべての処理をサーバ側で行う「サーバサイドWebアプリケーション」である。PHPやServelet、JSP、ASPなどの流行は、これにあたる。

   しかし、当然のことながら全ての処理をサーバ側で行うということは、何かをするごとにサーバにお伺いを立てるために待ち時間が発生するということであり、使い勝手を著しく損なう選択であった。まさに利用者不在の技術の都合による流行だったといえる。ここで、そのような流行に逆らい、使い勝手の良さを確保するために敢えて見捨てられたDynamic HTMLに固執した企業があった。それがGoogleである。


Googleが取った戦略とは

   Googleは、Dynamic HTMLの2つの問題に対して、以下のように対処した。まず非互換性に対しては、Webブラウザの種類ごとに異なるコードを実行するようにして解決した。膨大な手間が掛かるが、Googleはあえてその手間を惜しまなかった。

   そして、Internet Explorer以外のWebブラウザに必要な機能が足りない問題に対しては、もっと大胆な手段に出ている。この時期にNetscape Nanigatorに代わってInternet Explorerのライバルとして認知されていたのはFirefoxであるが、GoogleはFirefoxの開発に深く関わることで、これを解決したのだ。

   「何人ものGoogle社員がフルタイムでFirefoxのコードを書いている」という発言が見られるほどの深い関わりである。このような関わりの中で、Googleが必要とする機能がFirefoxに組み込まれていったことは間違いないだろう。

   特に、非同期通信を行う「XMLHttpRequest」という機能は、マイクロソフトが独自に開発したものであり、「開かれた標準」を標榜するライバルが採用する可能性は低いものである。それがFirefoxに組み込まれるにあたって、Dynamic HTMLの活用を目指したGoogleの関与がなかったとはいえないだろう。

   そして、Dynamic HTMLをフル活用する時代がようやく到来した。Googleは、Google Mapsを通して、ようやくあるべきWebアプリケーションの姿を世に問うことができたわけである。つまり、Googleから見れば、Google Mapsは長い道のりの1つのゴールなのである。

   ところが、Dynamic HTMLを過ぎ去った過去の1ページと思い込んでいた者達から見れば、Google Mapsとは画期的な新しいスタイルのWebアプリケーションだと見えたのである。Google以外の彼らこそが、Google Mapsをはじめとする新しいスタイルのWebアプリケーションに「Ajax」という名前を付けたのである。

   このような経緯からわかる通り、GoogleはAjaxの創始者と見なされているにも関わらず、Ajaxという言葉、概念、技術の発明者ではない。また、初期の段階においてGoogleは自身の提供するサービスをAjaxという言葉で呼んですらいない。

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株式会社ピーデー 川俣 晶
著者プロフィール
株式会社ピーデー   川俣 晶
株式会社ピーデー代表取締役、日本XMLユーザーグループ代表、Microsoft Most Valuable Professional(MVP)、Visual Developer - Visual Basic。マイクロソフト株式会社にてWindows 3.0の日本語化などの作業を行った後、技術解説家に。Java、Linuxなどにもいち早く着目して活用。現在はC#で開発を行い、現在の注目技術はAjaxとXMLデータベース。


INDEX
第2回:GoogleはWebの常識を塗り替えた
  Google Mapsの衝撃
Ajax創始者としてのGoogleの特異性
  サービスを他者に解放するGoogle
  JavaでAjaxアプリを書くGoogle Web Toolkit