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事例から学ぶBCMの本質

第4回:ハリケーン・カトリーナ災害から学ぶ〜小売企業の対応事例

著者:みずほ情報総研  多田 浩之   2007/2/23
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ウォルマートがハリケーン・カトリーナ危機において実施した具体的な応急対策・対応の例

   表4および表5に、ハリケーン・カトリーナ再上陸前と再上陸後に分けて、同社が実施した具体的な応急対策・対応の例を示します。
対策・対応期間 具体的な応急対策・対応の例
ハリケーン・
カトリーナの
フロリダ半島
上陸前後
ハリケーン・カトリーナがフロリダ半島に上陸する2日前(バハマ南東で発生した熱帯性低気圧が熱帯性暴風となり、「カトリーナ」と命名された時期)に、ハリケーン危機管理計画を発動。潜在的に影響を受ける地域の店舗、施設等を識別し、店舗用および予測される地域コミュニティのニーズに対応するため、緊急用商品の配送開始。
関係者(マネージャー50名)がEOCへ参集。応急対応チームおよび発電機を待機。物価上昇阻止対策を実施。高気温による商品の損失回避のため、ドライアイス配送を完了。各店舗での災害準備対策を完了。
ハリケーン・カトリーナがフロリダ半島に上陸後、影響を受けた地域の消費者のニーズに応えることができるように、当該地域の店舗に商品を搬送。
ハリケーン・
カトリーナ
再上陸前
ハリケーン・カトリーナの再上陸に備え、応急対応チームを待機。
契約している民間の気象予報士から、ハリケーン・カトリーナが西に移動するとの予報を受信(全米ハリケーンセンターによる予報よりも前)。この情報に基づき、ルイジアナ州に至る西部地域の店舗に対して警報の発令を開始。
応急対応資源をアラバマ・ミシシッピ・ルイジアナ州へシフト。ハリケーン・カトリーナ再上陸前に商品搬送を開始。応急対応チームを当該地域に展開。発電機を待機させ、従業員の避難を実施。
警察、応急対応作業者などを店舗に避難。

表4:ウォルマートが実施したハリケーン・カトリーナ再上陸前の
具体的な応急対策・対応の例
(上院聴聞会のビデオ・資料、その他公開資料を参考にみずほ情報総研作成)

対策・対応期間 具体的な対応の例
ハリケーン・
カトリーナ
再上陸後
ハリケーン・カトリーナ再上陸後、EOCと店舗間の通信が途絶えはじめ、店舗の在庫状況の自動更新を行うコンピュータ・システムが停止。事業継続部長が、自ら電話による各店舗からの要請に対処。
ハリケーン・カトリーナが勢力を弱め、北部に抜けるとともに、営業再開が可能な店舗が営業を開始。応急対応チームが、コンタクトを失った従業員の捜索、店舗の被災状況の評価、復旧オペレーション、政府職員との復旧活動の調整、救援物資の搬送などを開始。
食料、医薬品、避難場所等の提供から緊急車両のタイヤ交換に至るまで、様々な形で被災住民、応急対応作業者、病院などを支援。最初の3週間で、トレイラー2,500台分の緊急用物資(寄付および商品)をニューオリンズ市内に配送。
被災したメキシコ湾沿岸地域およびテキサス州の地域住民に対して、トラック100台分の食料、飲料水、生活用品などを無料で提供。
被災者安否確認のための掲示板(写真やメッセージの掲載可能)を、同社の企業サイトなどからアクセスできるWebサイト上に創設(5万3,000件の掲載、500万件のアクセスあり)。150箇所の避難所にインターネットにアクセス可能なコンピュータを設置。
ミシシッピ・ルイジアナ・テキサス州の避難所や地方政府のEOCに対して350万ドル相当の商品を寄付。
災害救援機関(ブッシュ−クリントン カトリーナ基金、米国赤十字など)に1,700万ドルを寄付。
被災して他の地域に仮住まいしている従業員およびその家族に対して、最初に生活必需品および現金250ドルを支給。同社の従業員向け災害救援ファンドを通して、1人当たり最高1,000ドルを支給(この制度により、1万9,000人以上の従業員に対して総額1,350万ドルを提供)。
被災した地域に戻れない従業員に対して、彼らが望む店舗や施設での雇用を提供。

表5:ウォルマートが実施したハリケーン・カトリーナ再上陸後の
具体的な応急対策・対応の例
(上院聴聞会のビデオ・資料、その他公開資料を参考にみずほ情報総研作成)

   ウォルマートは、危機管理の局面において、「1. 従業員の安全と生活支援」「2. 臨機応変な業務の再編成」「3. 地域支援」の3つを優先事項としてあげています。表4および表5に示した内容は、これを裏付けるものであったことがうかがえます。

   また、同社が、ハリケーン・カトリーナ危機において実施した災害対策準備、応急対応、救援などの活動の規模は、考え方によっては国のレベルに匹敵するものであったといっても過言ではないと思います。

   特に、当該危機で実証された同社の高度なロジスティックス能力は、その後のFEMAのロジスティックス・システムの改善のために参考にされました。

   最終回の次回は、これまで述べてきた当該危機における米国政府の教訓や、企業のBCMの事例を踏まえて、大規模災害に向けたBCMおよび地域ベースの防災・減災のあり方について考察したいと思います。

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みずほ情報総研株式会社 多田 浩之
著者プロフィール
みずほ情報総研株式会社
多田 浩之

情報・コミュニケーション部 シニアマネジャー
1984年、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院工学研究科修了、富士総合研究所(現みずほ情報総研)に入社。専門は非常時通信、危機管理および産業インフラリスク解析。現在、ICTを活用した産学連携安全安心プラットフォーム共同研究に携わる。中央防災会議「災害教訓の継承に関する専門調査会」下の小委員会・分科会委員、内閣府「消費者教育ポータルサイト研究会」委員などを歴任。


INDEX
第4回:ハリケーン・カトリーナ災害から学ぶ〜小売企業の対応事例
  ハリケーン・カトリーナ危機に対するBCMに成功した米国企業
  ウォルマートのBCMの基本方針とその対応
ウォルマートがハリケーン・カトリーナ危機において実施した具体的な応急対策・対応の例