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BCM
事例から学ぶBCMの本質

第5回:大規模震災に向けたBCMのあり方

著者:みずほ情報総研  多田 浩之   2007/3/9
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地域の防災・減災における企業の果たす役割

   国および自治体は、広域・大規模震災時に、すべての被災地域に対して同時に救援・救助に向かうことはできないため、被災地の救援・救助活動が遅れる可能性があります。このため、日本政府は、公助に限界があるとして、自助・共助を主体とした地域レベルでの防災・減災の推進を求めています。

   特に、大都市で大規模地震が起きた場合には、生活インフラが壊滅的な損傷を受けるとともに、死傷者が数多く発生する可能性があります。

   大規模な被害を受けた地域においては、倒壊家屋に閉じ込められた住民などの捜索・救助活動、避難場所の確保、被災住民への食料・飲料水・生活用品の配給などの救援活動を迅速に行うことが必要になります。

   そのため、地域で主体的にこれらの対応を行うことを想定し、地域内で相互に助け合う仕組み(共助)を整備することが必要になります。

   企業は大規模震災において、地域から共助の一環として被災住民の救援や避難場所の提供などについて期待される面が大きいと考えられます。実際、ハリケーン・カトリーナ危機において、ウォルマートの従業員が行った被災地域住民への自主的な支援活動は賞賛に値するものであり、全米で非常に高い評価を受けました。

   一方、企業としても、大規模震災においては、すべての局面において独自に応急・復旧対応が実施できるとは限りません。地域および住民から様々な形で支援を受ける事態が生じる可能性があると考えられます。特に中小企業の場合には、近隣企業などと連携して相互支援関係を築くとともに、地域との密接な共助関係を構築していくことが重要になると考えられます。

   以上の観点から、企業はBCMの一環として、大規模災害時における地域との共助関係(相互支援)を確立していくとともに、自主的な地域支援(可能な範囲で)を企業文化の1つとして位置づけていくことが重要になると思います。


最後に

   現在、世界的に壊滅的な自然災害や地球温暖化、環境破壊に起因する異常気象が多発しています。これは、あくまで筆者の私見ですが、今地球は物理的に大きな変動を起こしつつあるのでないかと考えています。

   2007年2月2日に「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」は第4次報告書を発表しました。その中で、人間の経済活動による温室効果ガスの増加が地球温暖化(気候変動)をもたらした原因であることを断定し、それにともない地球規模での自然災害の発生が加速していくことについて警告しました。

   また最近、震度7〜8クラスの地震(その多くは海域を震源とするもの)が多発しています。メディアで大きく取り上げられていませんが、世界的にも陸上火山および海底火山の噴火が多発しており、海底地形の変動も認められています。

   このような状況の下、大多数の人々は日常の生活と経済発展を最優先事項として活動を行っており、地球規模で一体何が起きているのかを現実的に捉えようとしない傾向にあるのではないでしょうか。筆者はこれについて大きな危機感を持っています。その理由は、先に述べた地球の変化や変動がここ10年間で急速に顕著になってきているからです。

   筆者は、今こそ国際社会が地球レベルの視点で危機管理を行っていく必要があると考えています。企業は人間の日常生活と活動を支える源(生活に必要なモノとサービスおよび生活環境と職場を提供する)であり、政府とともに地球レベルの危機管理を実現する上で重要な鍵を握っています。

   その大きな理由は、地球規模での災害が起きた際、各国政府が一致団結し、国内および世界の企業が相互に、かつ密接に連携・協調することによって、被災者の多くを救い、社会の復旧・復興のための原動力となる潜在的可能性があるからです。

   各国および国際社会がこのような考え方を持つことによって、企業は、これまでとは異なる役割と機能を担うことになり、社会・経済活動の概念を根本から変えることになると考えられます(真の共存・共栄の世界)。これこそ、究極のBCMではないでしょうか。

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みずほ情報総研株式会社 多田 浩之
著者プロフィール
みずほ情報総研株式会社
多田 浩之

情報・コミュニケーション部 シニアマネジャー
1984年、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)大学院工学研究科修了、富士総合研究所(現みずほ情報総研)に入社。専門は非常時通信、危機管理および産業インフラリスク解析。現在、ICTを活用した産学連携安全安心プラットフォーム共同研究に携わる。中央防災会議「災害教訓の継承に関する専門調査会」下の小委員会・分科会委員、内閣府「消費者教育ポータルサイト研究会」委員などを歴任。


INDEX
第5回:大規模震災に向けたBCMのあり方
  BCMのあり方を考える
  ハリケーン・カトリーナ危機に対するBCM成功のポイント
地域の防災・減災における企業の果たす役割