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第4回:アウトソーシング成功の秘訣は協業&マネジメント体制の構築

著者:有田 若彦   2007/2/26
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3. アウトソーサを理解せよ

   アウトソーシングは戦術の1つで、サッカーでいえばオフサイドトラップのようなものだ。使い方を誤ると大やけどをするので、十分に内容を理解しておく必要がある。

   アウトソーシングには3つの形態があることは既に述べたが、各形態ごとにアウトソーサ自身の得意不得意があることを理解しておかなければならない。

   というのも、筆者の経験からいえば、アウトソーサは「請け負えそうな仕事、請けない仕事」を選り分けることからはじめているからだ。そのためA社では請け負えないことがB社で可能であったり、あるいはその逆のケースが当たり前に発生する。

   したがって、アウトソーシングを導入する際には、業務分析の方法やアウトソーシングするか否かの判断基準、どういったスキルや経験を備えた担当者が携わっているかについて、事前に調査しておくことが重要だ。

   この段階で納得がいかなければ、やり方を見直したり、業者をかえるなりの断固とした対応を取るべきである。

   また、人的アウトソーシングの場合は、アウトソーサ自身のマネジメント手法や要員の育成方法、ノウハウの共有方法に至るまで確認しておきたい。アウトソーシングは結局、対応する人材の能力に左右されるからだ。

   最初は、上手くいっていたアウトソーシングが担当者の昇格や異動、組織変更をきっかけにマネンリ・停滞に陥ることは少なくない。実際に、筆者はアウトソーサの現場の雰囲気が良くないと感じたので調査したことがある。すると、プロパー社員と派遣社員が混在しており、意識の差からコミュニケーションギャップが発生していたことがあった。

   アウトソーシングは委託契約だが、成果ででるように発注者が積極的に口出ししていくことが肝要だと自覚しなければならない。

4. PDCAループを確保せよ 〜企画と実施部分の個別最適化が原因

   業務をアウトソーシングしている企業に共通する悩みには、次のようなものがある。

  • 実行ノウハウが自社に残らない
  • コストや成果を精査できなくない
  • ベンダにコントロールされる度合いが多くなった
  • ニーズに柔軟に対応できない

表6:アウトソーシングを行っている企業の悩み

   こうした結果を生んだケースを見てみると、企画は発注側、実施はアウトソーサという分業形態をとっていることが圧倒的に多い。企画部分と実施部分の個別最適化と、別企業体であることによる情報断絶が要因のようだ。

   これを少しでも解消しようと、組織交流をはかったり、進捗管理を徹底するなどで対処している企業が多い。

   だが、これは本質的な解決になっていないと筆者は考える。建設工事のように、明らかに事前に設計図を確立できるならともかく、それが難しいソフトウェアとではやり方が異なる。仕事のやり方に工夫が必要だ。

   アウトソーシングの企画と実施をPDCAのライフサイクルで考えると、ループが回るというよりも各パートで、何度も行きつ戻りつしている。このためP、D、C、Aの各パートが、分業によってギャップが発生することは絶対に避けなければならない。

   そのためには、発注側は自身で統制できるPDCAサイクルを保持しつつ、能力不足の部分をアウトソーシングする、機能別分業の方が妥当だろう(図2)。

PDCAループを確保する方法の変遷
図3:PDCAループを確保する方法の変遷
(画像をクリックすると別ウィンドウに拡大図を表示します)

   こうすれば、自社で最低限度のノウハウとコントロール力を保持でき、しかも機能単位で得意なアウトソーサを選択できる自由度が増す。

   アウトソーシングコントロールは、すべて自社で担える体制を作る、という姿勢がポイントになる。コントロールの空白域は絶対に作ってはならない。


5. アウトソーサのマンネリ対策を施せ 〜共同目標の不在が関係のマンネリ化を招く

   アウトソーシングの依頼元と依頼先の関係がマンネリ化する一因として、共同目標の不在、または不適当な目標設定があげられる。

   部下を評定するときはアレコレ目標設定をするものの、ことアウトソーサとなると手が緩んでしまうのはなぜだろうか。少なくとも、コストやスピード、品質については目標を設定すべきだし、達成できたならば成果をわかちあわなければならない。これが共同の目標というものだ。

   コスト面では共同のコスト削減目標を設定し、利益が出たなら折半するのが良いだろう。

   スピード面では、納期目標や回答時間目標を無理なく設定し、双方で協力して達成を目指す。発注者側の遅延で、アウトソーサが納期遵守できないこともあるのだから、当然だ。

   品質面では、エラー率や歩留まりを評価するのはもちろんだが、共同でシステム監査を受審するのが望ましい。エラーの陰に潜んでいる統制・管理の問題まで切り込んでくれるからだ。

   だが、こうした対策を施してもマンネリを完全に回避することは難しい。特に運用管理・維持メンテといった下流工程のアウトソーシングの場合は、日々が同じことの繰り返しになるので、気持ちがどうしてもトーンダウンしてしまいがちだ。そこで、当社では常に新しいことにも共同でチャレンジしていくようにしている。例えば、新しいインフラ技術の評価や配備、新しい活用方法の模索と実装といったことだ。

   こうすることで、単調な仕事を創造的なものに転換でき、同じ運用形態をとる限りは同じような成果しかだせないといった、悪循環を回避することもできる。

   以上、アウトソーシングの注意点を考えてきたが、特別な仕掛けは何もない。論理的に考え、着実に対処していくだけだ。

   ところが現実には、発注側は社内に残さない仕事だからと精査せず、アウトソーサは仕事ほしさにリップサービスと安易な受注を繰り返し、双方が不幸な結末を迎えるケースは多い。

   アウトソーシングは外部のプロの手を借りて、自社のウイークポイントを強化するための戦略的手段だ。だからこそ、社内のIT部門と協業体制を築き、マネジメントする意識がなければ、成功はおぼつかないと肝に銘ずるべきである。

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有田 若彦
著者プロフィール
有田 若彦
製品開発技術者やFAエンジニア、SEなど、一貫して製造業のエンジニアリングを歩む。現在は、某化学メーカーの情報システム部に所属。グループウェアの全社展開やDWH/BI、汎用機ダウンサイジングなどのプロジェクトのほか、EUCやEUDの案件を経験。目下は、IT企画やITマネジメント、IT教育、システム監査など多方面を担当。システムアナリスト、CISA公認システム監査人、ITC公認ITコーディネーター、経営品質協議会認定セルフアセッサー、行政書士。


INDEX
第4回:アウトソーシング成功の秘訣は協業&マネジメント体制の構築
  アウトソーサーの目的
  1. アウトソーシングの活用戦略を熟考せよ
3. アウトソーサを理解せよ