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SLAによるITマネジメントのあり方

第4回:企業とベンダーが結ぶSLAとは

著者:アイ・ティ・アール  金谷 敏尊   2007/4/13
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データセンターのSLAとは

   昨今のデータセンターでは、SIやBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)を手掛ける事業者も増えてきたが、事業の根幹を成すのは依然としてハウジングとホスティングであろう。ハウジングはユーザのサーバ資産を、ホスティングは事業者のサーバ資産を用いた、いわゆる「場所貸し」である。

   データセンター事業者は地震対策(耐震/免震)や空調、電源、通信、入退室管理などに関わる堅牢な設備を備える点が特徴となっており、その分SLAへの期待も大きい。データセンター(サーバホスティング)の代表的なサービスレベル評価項目としては以下があげられる(表2)。
評価項目 説明 サービスレベル
保証値(例)
サーバ可用性
(単体)
単体サーバ使用時のサーバにおける可用性 99.50%
サーバ可用性
(HA)
冗長構成されたサーバにおける可用性 99.90%
障害回復時間 ハードウェア、OSの障害検知後、障害復旧の完了を確認するまでの時間 2時間以内
障害通知時間 保証対象範囲での障害検知後、顧客の連絡窓口に通知するまでの時間 30分以内
ネットワーク
可用性
保証区間内(データセンターと顧客サイト間など)における通信の可用性 99.9%以上
遅延時間 保証区間内におけるパケット伝送の平均往復時間 80ms以下
パケット
損失率
保証区間内におけるパケッット損失の比率 1%以下

表2:データセンターのサービスレベル評価項目の例
出典:ITR

   データセンターやISPが大規模なホスティングを提供する場合は、上記に加えて「コンテンツ更新処理時間」や「バックアップ成功率」「キャパシティ増強時間」「データベース可用性」といった項目も有効であろう。データセンターは共有リソース(人的、設備的リソース)を使用するサービスが多いため、評価項目も定型的なことが多いが、ユーザは要求に合致するようにSLAの保証・報告内容については可能な限り交渉を行うことが望ましい。


アウトソーシングのSLAとは

   アウトソーシングには様々な種類があるが、ここではIT分野のシステム運用のアウトソーシングを考えてみよう。代表的な評価項目には以下があげられる(表3)。アウトソーシングのSLAは多種多様であるため、あくまでも参考例としてみていただきたい。

評価項目 説明 サービスレベル保証/目標値(例)
システム
可用性
システム(アプリケーション、ハードウェアを含む)の可用性 99%
障害回復
時間
システム障害・不具合の検知後、障害復旧の完了を確認するまでの時間 優先度1:2時間以内
優先度2:8時間以内
優先度3:3日以内
障害通知
時間
システム障害の検知後、顧客の連絡窓口に通知するまでの時間 15分以内
重大障害
発生件数
重大障害(別途定義が必要)の年間発生件数 4件以下
保守要員
到着時間
センターコール後、保守要員が到着するまでの時間 1時間以内
レスポンス
タイム
リクエスト後、画面や処理結果が表示されるまでの時間 8秒以内
問合せ
対応時間
コールの受付から対応完了までの時間に対する目標達成率 70%
ユーザ
満足度
システムに対するユーザの満足度評価 3.5pt以上(5pt満点)

表3:アウトソーシングのサービスレベル評価項目の例
出典:ITR

   アウトソーシングは個別要件に対応する受託業務であるため、サービスレベルの設定はある程度の時間と労力を要する。通常、アウトソーシングベンダーはSLAのモックアップを作成しても、正式合意するまでに半年から1年の検証期間を設け、実運用を通じて適正化をはかることが一般的だ。

   アウトソーシングベンダーからすれば、自社で設計・構築したシステムならまだしも、それまで扱ったことのないシステムの品質を担保しなければならないので、検証期間の設定は当然の行為といえる。例えば、プロのレーシングドライバーであっても、はじめて乗るマシンでいきなり一定のラップタイムを約束するのは難しいだろう。

   このような背景からも、アウトソーシング契約においてサービスレベルを「保証する」という考え方はあまり浸透していない。ベンダーは、本来ベストエフォートで対応したいところであるが、SLAを提示しなければ並み居る競合他社に肩を並べていくのはもはや難しい。そこで、ペナルティ制度の扱いは将来的な改善目標に留め、当面は適用を避けるのが一般的である。この場合、サービスレベルは保証されるのではなく、目標値として実績管理されることとなる。

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株式会社アイ・ティ・アール 金谷 敏尊
著者プロフィール
株式会社アイ・ティ・アール
金谷 敏尊

シニア・アナリスト
青山学院大学を卒業後、マーケティング会社の統括マネージャとして調査プロジェクトを多数企画・運営。同時にオペレーションセンターの顧客管理システム、CTIなどの設計・開発・運用に従事する。1999年にアイ・ティ・アールに入社、アナリストとしてシステム・マネジメント、データセンター、アウトソーシング、セキュリティ分野の分析を担当する。著書「IT内部統制実践構築法」ソフトリサーチセンター刊。


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第4回:企業とベンダーが結ぶSLAとは
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