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SLAによるITマネジメントのあり方

第4回:企業とベンダーが結ぶSLAとは

著者:アイ・ティ・アール  金谷 敏尊   2007/4/13
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何をコミットするのか

   さて、アウトソーシングのSLAでは、必ずしも的を射ていない評価項目の設定例がしばしば見受けられる。例えば、「定期保守の実施率」や「棚卸頻度」などの評価項目である。

   これらはベンダーの業務内容を示しているのであって、最終的にユーザが受けとるべき品質をあらわしているとはいえない。システム運用を全面的に委託する場合、これらの項目はサービスレベル報告の対象としてではなく、業務手順や条件として示すべきではないだろうか。

   では、ベンダーSLAでは何についてコミットされるのが理想的だろうか。これはベンダーのサービスがどのような価値を提供するかによって異なってくる(図1)。
ベンダーSLAによるコミットメントの対象 出典:ITR
図1:ベンダーSLAによるコミットメントの対象
出典:ITR

   これまで見てきたアウトソーシングやホスティングでは、SLMによってシステム品質の維持・向上を期待している。したがって、詳細なオペレーション内容やシステムコンポーネントを評価するのではなく、可用性や性能といった「サービスの総合的な成果」を評価するのが適当といえる。

   その際、ベンダーの責任範囲を明確にして相互に了解しておくことが重要である。例えば、アプリケーション保守がブラックボックス化し、アウトソーシングベンダーに任せられないとしたら、SLAはインフラレベルに閉じた評価で行わなければならない。

   同様に、リモート監視や保守サービスなどIT業務の一部を外部調達する場合は、オペレーションの品質を求めるべきであり、システム可用性について約束させることはできない。

   各種BPO(給与計算、物流など)やコールセンターなどの「業務」をアウトソースする場合はどうだろうか。これらの業務は一般に何らかのシステムを用いているが、期待されるのは業務品質の確保である。極端なことをいえば、採用するパッケージやライセンス料に関わらず、期待する業務効率や生産性を満たしてもらう必要がある。

   また、極めて稀ではあるが、BPOなどで成功報酬型のサービスを提供する例がある。この場合は売上や利益といった直接的なビジネス貢献が求められ、提供者は成果の程度に応じた成功報酬を受けとることになる。


ボーナス&ペナルティ

   サービスレベルの維持・改善は必要だが、SLAによって監視・評価されているだけでは、現場担当者のモチベーションの向上はあまり期待できない。また、いくらベンダーのパフォーマンスを定期的に評価しても、保証制度がなければ緊張感が損なわれる可能性もある。このため、士気向上や緊張感の持続を狙って刺激(インセンティブ)を与える仕組みが有効とされる。これが、インセンティブプランである。

   インセンティブプランは、よくボーナス&ペナルティという言葉に置き換えられる。これはベンダーの動機付けと牽制を狙った管理手法のことである。つまり、実績に応じて飴とムチを与えるという考え方だ。

   ベンダーに不満を抱える多くの企業では「ペナルティ」の側面だけをクローズアップする傾向が強い。先に述べた通信キャリアの例でも設定されているのはペナルティのみである。SLA違反時のペナルティ制度には以下のような方式がある。

ペナルティ方式 返還額(例) 返還額の
上限(例)
適用サービス(例)
特定の評価項目における保証値の未達成時に月額の一部を返還 障害通知等の違反時に月額の30分の1返還 月額の10% 通信
ネットワーク
特定の評価項目における保証値の未達成時に、程度に応じて事前に定められた料率を返還 可用性に応じて以下を返還 月額の50% ホスティング
98.0%〜99.8%:10%
95.0%〜97.9%:25%
評価項目を重み付けし、保証値の未達成時にプール分から違反分を返還 レスポンスタイムと可用性を40:60で重み付けし、プール分(月額の10%)から違反分を返還 月額の10% アウト
ソーシング
特定の評価項目における最高基準/最低基準のレンジを定め、レンジ内評価に応じてプール分から違反分を返還 可用性レンジを99%〜100%と見込み、保証値を99.7%とし、下回った分を返還 月額の20% アウト
ソーシング

表4:ペナルティ設定のパターン
出典:ITR

   アウトソーシング分野でのペナルティ採用例は最近でこそ増加しつつあるが、それでも数%にも満たないのが実情だ。ペナルティ制度を採用するベンダーに対しては、その姿勢を高く評価すべきであろう。

   通常、アウトソーシングにおけるSLA違反時のペナルティは最大でも20%といわれている(米国では10%が一般的)。ホスティングなどベンダーが構築・運用をコントロールできる環境においては、稀に月単位で全額補償するサービスもある。

   注意しなければならないのは、財務リスクを意識するあまり、ベンダーが極端に小さなスケールのペナルティ返還額を設定することである。例えば、同一筐体で稼働する10本のアプリケーションの総稼働予定時間に対する停止時間を月額に比例配布する方式などが考えられるが、これでは返還額は微々たる数字にしかならない。このような方式では牽制効果を得ることは難しいため、企業はベンダーが提示するペナルティ算出式を試算し、その有効性を検証しておくことが望ましい。

   一方、ペナルティを課すだけではなく、ボーナス制度についても忘れてはならない。ボーナスはベンダーへの報奨金などで対応することも考えられるが、現場担当者に直接働きかける方がより効果的であろう。例えば、表彰制度や臨時ボーナスの支給などを取り入れることが有効と思われる。ボーナス制度の活用例はペナルティ制度よりもさらに少ないと思われるが、血の通った品質改善を期待するなら、ぜひとも検討したいところである。

   ベンダーにとっての最上級の報酬とは、実績を認められたうえで案件の安定供給を約束されることではないだろうか。ベンダーSLAにより、実績評価のサイクルを確立することで、企業は効果的なベンダーマネジメントを目指すべきである。

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株式会社アイ・ティ・アール 金谷 敏尊
著者プロフィール
株式会社アイ・ティ・アール
金谷 敏尊

シニア・アナリスト
青山学院大学を卒業後、マーケティング会社の統括マネージャとして調査プロジェクトを多数企画・運営。同時にオペレーションセンターの顧客管理システム、CTIなどの設計・開発・運用に従事する。1999年にアイ・ティ・アールに入社、アナリストとしてシステム・マネジメント、データセンター、アウトソーシング、セキュリティ分野の分析を担当する。著書「IT内部統制実践構築法」ソフトリサーチセンター刊。


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