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SLAによるITマネジメントのあり方

第4回:企業とベンダーが結ぶSLAとは

著者:アイ・ティ・アール  金谷 敏尊   2007/4/13
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ベンダーSLAとは

   今回は、企業のIT部門や購買部門がベンダーと締結するSLA(本連載では、ベンダーSLAと呼ぶ)について、市場での利用状況を概観し、導入の留意点について解説していく。また、ベンダーSLAで話題になることの多い「ボーナス&ペナルティ」などのインセンティブプランについても言及する。
ベンダーマネジメント環境の変化

   ここ十数年、IT市場の拡大や技術の発展によって企業の情報システムは大きく様変わりし、情報システムを取り巻くベンダーとの付き合い方もまた変化してきている。

   今日では、オープン化やアウトソーシングの需要が高まったことでベンダーの提供する技術やサービスも複雑化・多様化が進んだ。企業は、特定のベンダーに依存することなく、多数の候補の中から目的に合致したベンダーを選定して効果的に使い分けることを求められている。同時に、そうしたベンダーと締結するSLAも委託業務のタイプに適合した内容となっていなければならない。

   なお、このような環境変化は調達先の選択幅を広げるだけでなく、少なからずベンダーマネジメントの難易度を高め、ITマネージャや購買担当者の管理負荷の増大をもたらしている。ベンダーと付き合う際にはベンダーマネジメントについても留意が必要であるが、こちらは次の機会に解説したい。


ベンダーSLAの種類

   さて、一般的に「ベンダー」というとハードウェアベンダーを想起する読者が多いと思われる。本連載では表現が煩雑になるのを避けるため、ここでは受託開発/ソフトウェア/SI/アウトソーシング/通信サービスなどのIT製品やサービスを提供する事業者を総称してベンダーと呼ぶことにする。

   ベンダーSLAにはいくつかのタイプがある。通常、受託開発やSIにSLAを適用することは稀であり、定型処理を主とした汎用性の高いサービスへの適用例が多い。代表的なものとして、「通信ネットワーク」「データセンター」「ホスティング」の3種のサービスがある。今回はこれらのサービスにおけるSLAについて、その概要を解説していこう。


通信ネットワークのSLAとは

   通信ネットワークの市場において、SLAは積極的に採用された経緯があり、今日では広く普及している。昨今では適用されるサービスも増え、ATM/IP-VPN/広域イーサネット/DSL/インターネット接続サービスなどでSLAを利用することができる。

   ただし、通信キャリアによって適用サービスが限定され、保証項目や条件もかなり異なってくるため、注意が必要である。もちろん帯域や品質を保証しないベストエフォートのサービスも少なくない。

   通信ネットワークのSLAで保証される代表的な評価項目を以下に示す(表1)。これらの項目は月単位で計測され、企業のWebサイトで公開されるケースもある。

評価項目 説明 サービスレベル
保証値(例)
遅延時間 キャリア網内のパケット伝送における平均往復時間 35ms以下
可用性 保証区間内における通信サービスの可用性(障害・故障による停止時間を除く利用可能な時間の割合) 99.9%以上
障害通知
時間
保証区間内における障害検知後、顧客の連絡窓口に通知するまでの時間 30分以内
障害回復
時間
保証区間内における障害検知後、障害復旧の完了を確認するまでの時間 1時間未満

表1:通信キャリアのサービスレベル評価項目の例
出典:ITR

   通信キャリアと締結するSLAの場合、保証値の違反時にペナルティとして返還金あるいは料金の減額を設定するケースがほとんどであり、これは他のIT分野と比べて特徴的な点といえる。ただし、ネットワーク、とりわけ基幹網や重要拠点間の通信が機能しなければ多くの業務に影響がおよぶため、高い管理レベルを要求されることも確かだ。

   通信キャリアに限った話ではないが、SLAのペナルティ制度で還元される金額は到底業務上の経済的損失を補えるものではない。そもそも、ペナルティ制度は牽制することが目的であり、業務損失の補償を期待することには無理がある。

   よってSLAに対して過度に依存することは禁物であり、冗長化対策や迂回経路の確保などを鑑みた予防措置を自発的に講じておくことがより賢明な選択であるといえよう。また、通信キャリアの責任範囲をポート番号ごとに把握し、自己責任となるネットワーク機器への対策にも注意を払っておきたい。

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株式会社アイ・ティ・アール 金谷 敏尊
著者プロフィール
株式会社アイ・ティ・アール
金谷 敏尊

シニア・アナリスト
青山学院大学を卒業後、マーケティング会社の統括マネージャとして調査プロジェクトを多数企画・運営。同時にオペレーションセンターの顧客管理システム、CTIなどの設計・開発・運用に従事する。1999年にアイ・ティ・アールに入社、アナリストとしてシステム・マネジメント、データセンター、アウトソーシング、セキュリティ分野の分析を担当する。著書「IT内部統制実践構築法」ソフトリサーチセンター刊。


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第4回:企業とベンダーが結ぶSLAとは
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