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仮想化とパッケージアプリケーションの今
仮想化とパッケージアプリケーションの今

ディスクの仮想化による3つのメリット

著者:日本アイ・ビー・エム  佐藤 千晴   2007/9/28
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パフォーマンス管理

   さらにパッケージアプリケーションからみた仮想化ディスクの活用例として、データベースパーティショニングとの組み合わせによるパフォーマンス管理のメリットについて触れる。

   データベースパーティショニング機能を使うことで、1つのデータベースを複数のパーティションに分割した状態で利用することができる。このとき、属性を区別してレコードを格納することによりデータベース管理がより容易に行えるようになる。現在、データベースパーティショニング機能はOracleデータベースやIBM DB2などで提供されている。

   一般的にITデータには参照の局所性があり、より新しいデータの方が頻繁にアクセスされる傾向があるとされている。つまり、去年の売上げデータよりも今期の売上げデータの方が頻繁に参照されやすいというわけだ。

   このためITデータのパフォーマンス管理におけるゴールとは「より最近のデータをより高速にアクセスし、古くなってしまったデータは格納コストが安いディスクに保管する」ということになる。これは現在運用のトレンドとなっており、「情報ライフサイクル管理(=ILM)」と呼ばれている。

   このILMに、複数のディスク装置を管理可能である仮想化ディスクを併用することで、データベースパーティショニング機能のさらなる活用が可能となる(図4)。

仮想化ディスクとデータベースパーティションの連携 Copyright IBM Corporation 2007 / Copyright IBM Japan, Ltd. 2007
図4:仮想化ディスクとデータベースパーティションの連携
Copyright IBM Corporation 2007 / Copyright IBM Japan, Ltd. 2007

   まず、仮想化ディスクに高速なパフォーマンスを備えたディスクと一般的なディスクの2種類を接続する。

   高速パフォーマンスディスクは格納コストが高いため、主に当期分のデータを格納できる容量を確保する。これに対して一般的なディスクは、高速パフォーマンスディスクよりも格納コストが安価なものを選択し、長期にわたって大容量データを格納できる十分な容量を確保する。

   仮想化ディスク装置の定義例としては次のような形になる。まず高速パフォーマンスディスクのみで構成した論理ボリュームを本番用データベースパーティションとして定義する。そのうえで一般的ディスクのみで構成したデータベースパーティションと区分し、パフォーマンスが異なる2種類のパーティションを用意しておく。

   このように定義し、直近のデータから参照頻度が減少したデータを高速パーティションから一般パーティションへと順々に移動させることで、本番用データベースパーティションに空き容量がなくなったとしても、高価な高速パフォーマンスディスクをむやみに買い足さずに済むという訳だ。

   もちろん仮想化ディスクでは、本番データの移動は本番業務中に実施することができ、アプリケーションからみたディレクトリ構造にはいっさい変わりはない。このためソフトウェア的なパラメータ変更は不要であり、パフォーマンスチューニングも同様に行える。

   ちなみに、パッケージアプリケーションでデータベースの本番運用に使用される高速パフォーマンスディスクは、1つ1つのハードディスク容量をより小さくしたり、RAID-10方式を選択することで、さらにパフォーマンスを高めることができ、お勧めだ。

   また一般的ディスクには、IT要件によってはより格納コストの安い、容量が300GB程度のものを使ったり、RAID-5方式を選択するといった構成が可能となる。


SAPクローン

   代表的なパッケージアプリケーションであるSAPシステムでは、SAP社が決めた保障期間を過ぎるとソフトウェアメンテナンスが有料になる場合がある。そのため、SAPを定期的にバージョンアップしていくことが、検討されるケースが少なくない。

   SAPのバージョンアップでは、現行SAPから新バージョンのSAPへと移行した場合に、これまで使い込んできたアプリケーションが無事に稼動するかどうかが重要なポイントとなってくる。

   そこで行われるのが、現行SAPシステムの本番環境をSAP検証システムに構築し、バージョンアップ作業の確認やアプリケーションの動作確認を行うという作業だ。しかしこの作業には、移送処理やテープを介したバックアップリストアに思いのほか時間がかかってしまう。特に繰り返しテストを行いたいときにはテスト環境の構築だけを取ってみても、作業時間はばかにならない

   こうしたSAPテスト環境構築時にも、仮想化ディスク装置の高速コピー機能が威力を発揮する(図5)。

SAPシステムのクローニング(複製) Copyright IBM Corporation 2007 / Copyright IBM Japan, Ltd. 2007
図5:SAPシステムのクローニング(複製)
Copyright IBM Corporation 2007 / Copyright IBM Japan, Ltd. 2007

   仮想化ディスク装置の高速コピー機能は、データへのポインター情報をコピーすることによって、あたかも2つの同一ディスクが作成されたかのようにみせるというものだ。

   この仮想化ディスク装置の高速コピー機能を利用すれば、SAP本番環境からテスト用環境を瞬時に作成すること(SAPクローニング)ができるので、バージョンアップテストの準備時間を大幅に節約し、テスト回数やその頻度をアップする余地がでてくる。

   また、仮想化ディスクの高速コピーを行う場合、バックアップのケースと同様に、本番SAPは稼動したままで行うことができる。つまりテスト環境の構築におけるSAPサービス停止時間は基本的に不要だ。

   実際に、仮想化ディスクの高速コピーを使っている事例では、約10分以内にSAPクローニングを完了し運用されている。

   ちなみに、仮想化ディスクの高速コピーではデータへのポインタ情報をコピーした後に自動的に実データをコピーする仕掛けになっている。このためディスクを使ったバックアップとして利用することもできる(Disk-to-diskバックアップ)。

   また、仮想化ディスク装置がサポートしていれば、異なるベンダーのディスク間で高速コピーを行うことができるため、より柔軟なディスク運用が可能である。


まとめ

   このように、仮想化ディスク装置はパッケージアプリケーションに大変便利な機能を提供するソリューションである。

   特に、本番システムが使用するディスクの空き容量管理やパフォーマンス管理、バージョンアップテストなどの様々な顧客からの要件に対し、オンライン中に動的にディスク環境を柔軟に変更可能な点でユーザに多くのメリットをもたらすことができるのである。

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日本アイ・ビー・エム 佐藤 千晴
著者プロフィール
日本アイ・ビー・エム株式会社  佐藤 千晴
ACP-シニアITスペシャリスト
Storage Networking Industory Association - Certified Professional 2006
1988年、日本アイ・ビー・エムに入社。グローバルISV・コンピテンシー・第一所属。SAPをはじめとした各種ISVパッケージのテクニカルサポート業務に従事。


INDEX
ディスクの仮想化による3つのメリット
  ディスクの「仮想化」にはどのようなメリットがあるのか
  ストレージ環境の仮想化とは何か
パフォーマンス管理