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「即活用!企業システムにおけるプロジェクト管理」

第5回:品質管理

著者:システムインテグレータ  梅田 弘之   2005/1/7
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説明の中で、(I1)や(S2)などの記号が出てきますが、これは第1回で使ったプロジェクト管理状況チェック表のNo.と対応しています。チェック表で明らかになった問題点に対応する部分は、特に注意して読んでみてください。
品質とは

   PMBOKにおける品質管理は、品質計画(計画)→品質保証(実行)→品質管理(管理)という3つのプロセスから構成されています(第3回表1参照)。品質について最初に考えなければならないのは品質基準です。品質の良し悪しは相対的なものなので、目標とする品質を品質基準書にはっきりと記述してからプロジェクトをスタートするようにしましょう(Q1)。

   ところで「品質の良いソフトウェア」とはどういうものなのでしょうか。「プログラムのバグがないこと」という答えが返ってきそうですが、その答えは「品質=障害のないこと」という発想をしていた30年前のものです。近代的な品質管理は、「品質=ユーザー満足度」という定義になります。プログラムのバグがないだけでは十分とは言えず、ユーザーの使い勝手の良いシステムを提供できて、はじめて品質の良いソフトウェアと言えるのです。

   このような前提に立った場合、当然のことながらプログラムバグ(設計書とプログラムの不一致)だけでなく、設計バグ(ユーザーニーズと設計書の不一致)も障害として改善される対象となります。今、我々が考えるべき品質は、当然この近代的解釈に立ったものであり、それをプロジェクトメンバー全員に浸透させることが品質向上の第一歩となります。



 当たり前品質と前向き品質

   ユーザーから見て、その製品が当然備えているべき品質特性を「当たり前品質(または後向き品質)」と言います。これに対し、プラスアルファの魅力が備わったものが「前向き品質(または魅力的品質)」ということになります。現代は、当たり前品質だけでは競争に勝てない時代になっています。最初は当たり前品質の高度さを武器に成長してきた日本の製造業も、今日ではアジア各国の追い上げを付き放すべく前向き品質の高さで勝負しています。

   われわれソフトウェアエンジニアの中に、使い勝手の悪さやパフォーマンスの悪さなどを指摘されて「これはバグじゃない」と言い放つ人がいます。これは、その人が「最低限動けば良い」的な古い考えに基づいているからでしょう。このような個人の主観による前向き品質の欠如を防ぐためには、最初にきちんとした品質基準書を作る必要があります。前向き品質をきちんと品質目標に組み入れ、メンバー全員で共有することで使いやすいソフトウェアが作成できるのです。
品質改善活動と品質安定活動

   QCとTQC(TQM)をモデルに「品質管理活動」について考えてみましょう。前者がQCサークルを中心にボトムアップで品質を向上させるものなのに対し、後者は全社的な見地で組織の品質改善を図るものです。これをソフトウェア開発における品質管理活動に当てはめてみると、「品質改善活動」と「品質安定活動」の2本柱になります。

   一般的な製造業の製品に比べて、ソフトウェアの品質は個人のスキルに依存する部分が大きいという特徴があります。そのため、プロジェクトメンバー1人ひとりの品質意識を高めるという土壌作りから始めなければなりません。土壌が悪ければ後から肥料や水をあげてもなかなか良い作物が取れないのと一緒です。逆に言えば、土壌さえしっかりしていれば、多少天候不順になっても負けないのです。

   良い土壌を作るには、各人が自分の頭で考えるという「品質改善活動」が効果的です。上から言われたままをやるのに比べ、自分たちで主体的に行う方がはるかに良い品質を生み出せるのです。

   一方、企業や部門など組織全体が一定の品質基準に達し、それが安定維持されるには、組織レベルの「品質安定活動」を行う必要があります。「品質基準」「標準化」「テスト体制」などに関する自社なりの品質管理手法を確立し、全社レベルで推進することになります。組織全体の品質向上のためには、この2つの活動をベースにした2面的なアプローチを取ることが効果的です。そのためには、後者に強いPMBOKだけでなく、QCの長所もうまく取り入れた品質強化プランが良いと考えています。



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著者プロフィール
株式会社システムインテグレータ  梅田 弘之
東芝、住商情報システムを経て1995年にシステムインテグレータ社を設立。 常駐・派遣主体の労働集約的な日本のソフトウェア業の中で、創造性にこだわってパッケージビジネスを行っている。 国際競争力のない日本のIT産業が、ここから巻き返しを図るための切り札は「プロジェクト管理」だと信じ、実践的なプロジェクト管理手法「PYRAMID」を自社開発している。


INDEX
第5回:品質管理
  品質管理は日本の得意分野
品質とは
  品質計画と品質基準書
  品質保証とテスト