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即活用!企業システムにおけるプロジェクト管理
「即活用!企業システムにおけるプロジェクト管理」

第5回:品質管理

著者:システムインテグレータ  梅田 弘之   2005/1/7
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品質管理は日本の得意分野

   第1回にも書きましたが、日本のIT業が世界と互して戦うためのポイントは、「プロジェクト管理」だと思っています。中でも「品質管理」は、本来日本の得意技です。自動車や電気製品など他の業界を見ても、"品質"を武器に国際競争力を身に付けているので、それを見習わない手はありません。残念ながら日本のIT業界は世界に遅れをとっていますが、品質だけは負けていませんので、これを原動力にして巻き返しを図りたいものです。

   しかし、今のところ、日本人の真面目さという個人の資質に依存していて、体系的に品質をコントロールするという発想が欠けています。この弱点をきちんと認識して改善すれば、製造業と同じように"日本は品質が高い"という競争力が持てるはずだと思います。


PMBOKとQCD

   PMBOKは、8つのマネジメント項目とそれを統合する「統合マネジメント」の合計9つの管理エリアで構成されています。中でも「品質」「コスト」「スケジュール」の3つは、直接成果に関る管理項目として重要です。この3つは、Q(Quality)、C(Cost)、D(Delivery)という生産管理の3要素としてQCDとも呼ばれており、日本の製造業の強さの源となっています。

   PMBOKは、この3要素に加えて「スコープ管理」や「組織管理」「コミュニケーション管理」「リスク管理」「調達管理」などを管理項目としてクローズアップしています。PMBOKをかじった人が、「これまでのQCDだけでは不十分、これからは9つの管理が必要」などと言いますが、これは少し誤解を招きやすい発言です。プロジェクト管理手法にPMBOKを取り入れたとしても、あくまでもプロジェクト自体の目標はQCDです。他の6つはこの3項目の成果を得るための管理項目です。

   QCDは、プロジェクトのアウトプットである品質、コスト、納期を目標に定め、それを達成するための手段を講じたものです。これに対して、PMBOKはQCDを達成するための手段を管理項目として同列に並べ、アウトプット(結果)だけでなくプロセス(過程)の管理も重要視しているのです。これは、例えばQCDのDは「納期」というアウトプットなのに対し、PMBOKでは「Time(スケジュール)」というプロセスを管理項目にしていることを見ても分かります。

   先ほどの発言を丁寧に言うならば「これまでのQCDという結果だけを管理するのでは不十分、これからは9つのプロセスを管理することが必要」ということになります。つまり、「結果だけでなくプロセスを重視」という姿勢が最近のトレンドであり、この考えは最近の「間違った成果主義」導入の失敗を見ても正しいアプローチだと言えます。


QCとTQCを取り入れる

   製造業が日本を代表する産業に成長できたのは、米国で誕生したQC(Quality Cotrol)をうまく取り入れたからだと思います。QCとは「品質管理活動」のことで、「1人ひとりが品質向上を意識して改善提案を行い、全社的な品質(TQC:Total Quality Control)を向上しよう」という前向きな取り組みを意味します。真面目でこつこつ努力するのが得意な日本人気質に合っていたのでしょう。瞬く間に日本の産業界に広まり、今日の経済成長の基盤となりました。この活動を自主的に行う小グループは「QCサークル」と呼ばれ、伝統のある製造業を中心に幅広く定着しています。

   しかし、日本の製造業発展に貢献したQC/TQC活動も、現在は2つの問題を抱えています。1つは、QC/TQC活動の形骸化です。いつの間にか「タテマエ」と「ホンネ」が乖離してしまい、QC大会で発表するための寸劇に成り下がったと批判されることさえあります。もう1つは、全社的視点の不足です。QCという現場主体のアプローチに依存し過ぎて、全社的に品質を管理/コントロールできていないという点を指摘され始めています。これらの反省からTQM(Total Quality Management)という考え方も登場しました。TQMでは、問題解決型だけでなく、課題達成型の戦略的な品質管理の手法が新しく取り入れられています。

   IT業界でもソフトウェアという製品を作る"製造業"的要素がかなりあります。ところが現在のところ、QCやTQCという観点で品質向上に取り組んでいるシステム会社は少ないようです。これは常駐/派遣ビジネスに甘んじていて、製造業というよりもサービス業として事業展開している会社が多いからかも知れません。しかし、ソフトウェア業の品質向上を考えた場合、QCやTQC、TQMといった先輩産業の良いところを見習うのも有効だと思います。プロジェクトチームを1つのQCサークルとし、いかに品質を向上させるかという問題意識をメンバー1人ひとりが持つような「改善提案」の仕組みを作ってはいかがでしょうか。

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システムインテグレータ
著者プロフィール
株式会社システムインテグレータ  梅田 弘之
東芝、住商情報システムを経て1995年にシステムインテグレータ社を設立。 常駐・派遣主体の労働集約的な日本のソフトウェア業の中で、創造性にこだわってパッケージビジネスを行っている。 国際競争力のない日本のIT産業が、ここから巻き返しを図るための切り札は「プロジェクト管理」だと信じ、実践的なプロジェクト管理手法「PYRAMID」を自社開発している。


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