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本格化するシステム運用マネジメント強化の取り組み
第3回:システム運用のマネジメント強化のアプローチ
著者:
野村総合研究所 浦松 博介
2005/6/29
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サービスデリバリ
サービスデリバリでは、システム運用サービスの利用者と提供者の間とのコミュニケーションの向上及び中長期的なITサービスコストの適正化に資するマネジメント領域について、表3に示す5つの管理プロセスをフレームワークとしてまとめている。
機能・管理領域
対象業務
サービスレベル管理
顧客、利用者と合意したサービスレベルが維持されているか、中長期的な管理及びサービスレベルの継続的な見直しを行う
ITサービス財務管理
情報化の予算を基に費用対効果を考慮した投資配分、課金がなされているかを管理する
キャパシティ管理
ITサービスの利用状況や需要予測に基づいて、適切なリソース供給計画を立案し、その実行を管理する
可用性管理
災害や障害発生時を考慮し、費用対効果が高く持続可能なITサービスの可用性レベルを設定し管理する
IT継続性管理
ITサービスの信頼性、保守性、サービス性、セキュリティ等を管理する
表3:サービスデリバリの概要
サービスデリバリでは、ITサービス財務管理、キャパシティ管理、可用性管理、継続性管理のそれぞれの管理プロセスが「計画(Plan)」〜「実行(Do)」〜「確認(Check)」〜「見直し(Action)」のプロセスから成り立っている。そしてそれらのプロセスを、顧客や利用者とITサービスの提供者がサービスレベル管理のPDCAサイクルを運営しながら管理していくという流れになる(図5)。
図5:サービスデリバリの概要
ITILを適用する際の留意事項
次に、現場の運用業務の改善に向けて、ITILを適用する際の留意事項について述べる。
Whatであって、Howではない
ITILでは、それぞれの書籍の冒頭にベストプラクティス(成功事例)を集めた「フレームワーク」であることを明言している。
この「フレームワーク」とは、日本語で「骨組み」や「枠組み」、「構成」を意味する外来語である。つまりITILでは、管理領域毎に「本来何をすべきか」という取り組みの概要について描かれているが、具体的な詳細プロセスや役割分担までは表現されていないのである。
適用であって、導入ではない
大辞林の第2版によると、「導入」とは「導き入れること」とあり、「適用」とは「法律・規則・原理などを当てはめて用いること」とある。
先述の通り、ITILはフレームワーク(枠組み)であるため、導入すべき詳細なプロセスはITILの書籍の中には存在しない。自力で新しい管理プロセスを検討し生み出すか、既存のプロセスを有効に活用する必要がある。
したがって、現時点でITILを使ってシステム運用のマネジメント改革を行うのであれば、ITILを「導入」すると言う表現はあまり適切ではない。ITILの考え方や概念を自社の運用業務やITサービスに「適用」すると表現した方が誤解は少ないだろう。
中長期的な効果を目指すためのものであって、目先の効果を得るためのものではない
ITILは、ITサービスの管理を組織的に運営するためのものであり、これはソフトウェア開発で言うCMMなどの「組織としての成熟度」と同様の考え方をITサービスのマネジメントに適用したものである。
したがって、個人がITILを理解していても、それが組織としての行動に表れなくてはITILの適用が成功したとは言い難い。ITILの考え方を組織として共有し、その効果が具体的な形となって現れてくるまでには、ある程度の期間(通常3年程度)が必要となる。
全社の課題解決であって、運用部門の問題解決だけではない
ITILはITサービスのマネジメント領域のフレームワークとして紹介されているが、これをシステム運用部門内部の業務の改善・改革手法として捉えられている事が多い。
しかし、システム運用業務のプロセスの標準化や管理方法を変えるということは、何も運用部門の中に閉じた話ではない。情報システムの企画〜開発〜運用〜事後評価などの、情報化運営サイクル上の役割分担の見直しといった情報化運営全体のプロセスの見直しや、顧客とのSLAや協力ベンダーとのOLA(Operational Level Agreement)の見直しなど、契約レベルの検討も必要となる。
したがって、ITILの適用を行う際には、企画・開発部門や利用者、経営者なども巻き込んで検討を進めるべきである。
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著者プロフィール
野村総合研究所株式会社 浦松 博介
野村総合研究所 システムコンサルティング事業本部 産業ITマネジメントコンサルティング部 システムマネジメントグループマネージャ。入社後、アプリケーションエンジニアや海外留学などを経て現職。現在はシステムコンサルタントとして情報システムの運用改革や調達支援、プロジェクトマネジメント支援などの業務に携わる。
INDEX
第3回:システム運用のマネジメント強化のアプローチ
システム運用のマネジメント強化のアプローチ
システム運用マネジメント強化のための有効なツール=ITIL
サービスデリバリ
マネジメントありきであって、手段ありきではない