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本格化するシステム運用マネジメント強化の取り組み
本格化するシステム運用マネジメント強化の取り組み

第3回:システム運用のマネジメント強化のアプローチ

著者:野村総合研究所  浦松 博介   2005/6/29
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マネジメントありきであって、手段ありきではない

   ITILを適用して適切な運用マネジメントやITサービスのマネジメントを実現するためには、その構成要素である「ヒト(People)」、「プロセス(Process)」、「ツール(Product)」の3つの「P」の成熟が不可欠である事はITILの書籍の中でも謳われている。

   ところが、我々が運用改革の支援を行う際に遭遇する中には、リソース(ヒト)のITILに対する理解や、自らが提供している運用やITサービスを行う上で何をマネジメントすべきかという考えが不十分・未成熟のまま、プロセスの標準化やツールの整備の検討が行われることが多い。

   本来は「自分たちが所属する組織の中で求められているものは何か(組織の位置づけやミッションの明確化)」や「これらに対して自分たちは何をすべきなのか(自分たちが本来マネジメントすべき事の明確化)」を十分に検討、理解した上で、現状の役割分担やプロセス、ツールの整備状況を勘案しながら、新たな管理プロセスやそれに必要となるツール類の検討を行うべきと考える。


システム運用マネジメントを強化するための道具であって、ベンダーがツールを売るための道具ではない

   最近ではITIL準拠と冠して、さまざまな運用ツールが市場に出回るようになってきている。

   IT関連ベンダーがITILなどのデファクトスタンダードの登場に合わせてツールを提供すること自体を責めるつもりは毛頭無い。ただし、ITILはフレームワークであるため、管理すべき事項や管理プロセスは企業毎に異なる事に着目したい。つまり、単にITIL準拠の機能を装備しているツールを購入しても、それによって企業が自分たちのやりたいことを実現できるかどうかは保証の限りではないのである。

   現在ITIL準拠と言われているツールは、元々は運用の自動化ツールやコールセンターのソリューション、IT資産管理系ソフトであったものをITILのフレームワークに合わせて拡張したものが多い。このような生い立ちにも起因して、ツールの機能には得意・不得意分野があったり、また、余分な機能が付いていたりする事が多いのである。特に、サービスレベル管理会議体で報告すべき事項のレポーティング機能やキャパシティ管理報告資料については、運用マネージャの要望に対してツールベンダーの改善努力が必要とされる部分であると感じることが多い。

   これらのことも鑑み、ツールの導入にあたっては、ITIL準拠と言うことで単純に飛びつくのではなく、自社が管理したい事項や最適化を行いたいプロセスの優先順位、並びにこれまでの運用ツールの整備状況などを勘案しながら、RFI(Request For Information)やRFP(Request For Proposal)などの調達手法も取り入れつつ、多角的な評価・検討を行うべきと考える。


当たり前のことであって、魔法の玉手箱ではない

   ITILが国外の多くの企業において広く受け入れられ、デファクトスタンダード化した事実や、IT業界特有の英語略称であることから、ITILが何か優れた方法論であるといった印象を持っている企業が少なくない。

   しかし、ITILで記述されている事は、ITサービスのマネジメントの強化を行う際の非常に優れた方法論を企業に与えているわけではない。

   ITILは、ITサービスを提供するために必要となる管理業務を、1つの機能と10の管理領域に体系化し、それぞれの領域毎にベストプラクティスと比較できるようにしたものであり、具体的な活動はほとんどの日本企業においてこれまで実施してきたシステム運用改善の取り組みそのものである。

   重要なことは、ITILのフレームワークをベースに企業が自社のシステム運用業務の質の改善を励行する事にある。


質の高い運営を継続的に実現するのであって、終わりはない

   日々のITサービスの質の向上に必要となるマネジメントの領域を整理・体系化し、企業が組織的にマネジメント改善・改革に取り組むための地ならしをした事がITILの大きな功績である。

   これらの取り組みは、今後も永続的に取り組むべき内容であり、ITILを適用して、コストが削減できたとかサービスの質が向上したから終わりという一過性の取り組みではないのである。


まとめ

   今回は、システム運用マネジメントの強化に向けたアプローチとその具体的な手段として、最近脚光を浴びているITILの概要及びITIL適用時の留意事項について述べた。

   次回は、ITILなどのフレームワークを適用して、システム運用マネジメントの強化が実現された次に、企業が検討すべき情報化運営の全体最適化の取り組みについて考察を行う。

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野村総合研究所株式会社 浦松 博介
著者プロフィール
野村総合研究所株式会社  浦松 博介
野村総合研究所 システムコンサルティング事業本部 産業ITマネジメントコンサルティング部 システムマネジメントグループマネージャ。入社後、アプリケーションエンジニアや海外留学などを経て現職。現在はシステムコンサルタントとして情報システムの運用改革や調達支援、プロジェクトマネジメント支援などの業務に携わる。


INDEX
第3回:システム運用のマネジメント強化のアプローチ
  システム運用のマネジメント強化のアプローチ
  システム運用マネジメント強化のための有効なツール=ITIL
  サービスデリバリ
マネジメントありきであって、手段ありきではない