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第1回:HAクラスタの基本とLifeKeeper
著者:サイオステクノロジー  羽鳥 正明   2005/11/17
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HAクラスタの基本的なコンセプト

   HAクラスタはあらゆる種類のサーバの信頼性向上のアプローチであるが、本連載ではIAサーバでの導入を中心に考えていく。先ほども述べたが、IAサーバのハードウェアに対する冗長化にはコストがかかるため、そのコスト分をHAクラスタの構築にあてるということも1つの考え方である。

   「クラスタ」の定義として、複数のサーバをあたかも1つのシステムのように見せると述べた。要するに同じ環境のサーバを複数台用意して、あらかじめ稼働系と待機系に分けておくということだ。

   そのため、サーバがハードウェア的にもOSを含めたソフトウェア的にも冗長化されていることになる。さらに複数台のサーバがそれ自身ハードウェアレベルで冗長化されていれば、なお堅牢になる。

   HAクラスタとは、発想が大変簡単で明快なソリューションといえる。予備機を準備しておき、稼働機に障害が生じた場合に人の手を介して予備機に切り替える「コールドスタンバイ」というアプローチは以前からあったが、HAクラスタはこの予備機への切り替えを自動的に行い、復旧時間の短縮と運用リソースの削減を可能にしたシステムである。サーバ同士が一定間隔で監視を行う仕組みをソフトウェア上で行い、反応がなくなればシステムダウンとみなし予備機への切り替えを行うのだ。


アプリケーションの冗長化

   ハードウェアやOSの障害というのは比較的容易に検知が可能なので、それをきっかけにシステムを切り替えることができる。しかしながら例えば、あるアプリケーションだけがストールしてしまった場合、ハードウェアやOSとしては通常通り稼働しているため、自動的に検知するにはそれなりの仕組みが必要になってくる。これはハードウェア的にいくら冗長化を施しても防げないトラブルである。

   HAクラスタを構築するには、現在複数のソフトウェアの選択肢があり、それぞれ特徴がある。アプリケーションごとに細かく監視を行うことが可能なソフトウェアもあり、その場合はシステム全体の障害はもちろんのこと、サーバ上で稼働している1つ1つのリソースごとの状態監視を行い、想定されたあらゆるトラブルから復旧することができる。


HAクラスタの復旧時間

   気をつけていただきたいのは「障害からの復旧時間にある程度の時間が必要」ということである。HAクラスタというソフトウェアでのアプローチでは、瞬時に予備機への切り替えを行うのは難しい。

   まず、どれだけ反応がない場合に「障害」とみなすかという考えがある。

   例えばシステムの設計上、どうしても負荷が高くなるとパフォーマンスが落ちる場合があるとしよう。ただしパフォーマンスが低下していても障害ではないので、システム上どうしてもパフォーマンスが落ちることがあらかじめ想定される場合は、監視間隔を大きく取って、障害だと誤検知しないように設定する必要がある。

   しかしこの設定で万が一本当の障害が発生した場合、監視間隔が大きく検知に時間が掛かってしまうため、予備機への切り替えに時間を要してしまうという弊害が生じる。

   またHAクラスタでは、予備機はホットスタンバイであってもアプリケーションやインスタンスは起動していない状態にしておくため、障害時にはアプリケーションが起動するまではシステムが使えない状況になる。

   アプリケーションによっては起動するのに数分かかるものもあるため、HAクラスタを導入する際には、復旧時間にどれくらい時間がかかるのかをあらかじめ検証することをお勧めする。HAクラスタを導入したからといって、まったくダウンタイムがなくなるわけではないことを覚えておいて欲しい。

   そのため社外向け基幹業務システムなどの一時も停止が許されないようなシステムには、HAクラスタよりも構築費用がはるかに高いフォールトトレラントシステムを導入することを検討すべきである。表1に一般的にいわれている高可用性システムの比較を紹介する。

高可用性システムの比較
表1:高可用性システムの比較


HAクラスタの仕組みを導入するのに適したシステム

   では、どのようなシステムに対してHAクラスタを適用するのがよいのだろうか。簡単に考えれば、長時間も停止しては困るが数秒から数分のダウンタイムくらいなら何とかなるようなレベルのものになるであろう。

   例えば、24時間立ち上げている必要がある「社外向けWebサーバ」や社内向けの「DBサーバ」、リアルタイム処理が必ずしも要求されない「メールサーバ」や「グループウェア」などが考えられる。

   このようなシステムの場合、ハードウェアの冗長化だけではカバーしきれない信頼性が必要となり、HAシステムを導入するのに適しているといえよう。最近はWebサーバといっても、単純にApacheなどのWebサーバだけが稼働していることは稀で、LAMP(Linux、Apache、MySQL、PHP/Perl/Python)に加え、TomcatなどのWebアプリケーションサーバなどが同時に稼働していることがほとんどである。そのため、様々なアプリケーションを1つ1つ監視できるHAクラスタソフトウェアが望ましい。

   最近の傾向として、Linuxを使用したIAサーバでのHAクラスタ導入率が年々高まっている。UNIXという上流からのリプレースや新規導入が盛んで、元々UNIXでのHAクラスタのニーズが高いという理由からであろう。また、コストパフォーマンスの観点から、OSSの企業システムへの活用が今後伸びてくると予想されるが、このOSSを利用してエンタープライズシステムを構築するケースも急激に増えており、それに対応したHAクラスタソフトウェアが望まれてきている。

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サイオステクノロジー株式会社 羽鳥 正明
著者プロフィール
サイオステクノロジー株式会社  羽鳥 正明
インフラストラクチャービジネスユニット マーケティング部 マーケティンググループ グループマネージャー
1991年、日本ユニシスに入社、PCのマーケティングとして米国ユニシスのリエゾンを経験。その後コンパックコンピュータにてIAサーバのマーケティングを担当。現在はサイオステクノロジーにてLinuxならびにOSSのマーケティングを統括。


INDEX
第1回:HAクラスタの基本とLifeKeeper
  はじめに
HAクラスタの基本的なコンセプト
  SteelEye LifeKeeperとは