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リッチクライアントの現状と今後の動向
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第3回:リッチクライアントの適用事例
著者:野村総合研究所  田中 達雄   2005/3/28
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HTMLクライアントからリッチクライアントへ移行した事例
会社Dの業務系アプリケーション

  移行前 移行後
クライアント HTML Flash
サーバ BroadVision ColdFusion + WebSphere
開発環境    
C/S接続   Flash Remoting

   会社Dは、顧客のe-ビジネスを実現するためのコンサルティング、システム開発、運用までを請け負う会社であり、以前まではクライアント/サーバ・システムの開発およびHTMLベースのWebアプリケーションの開発を手掛けてきた。

   以前までの業務系アプリケーションはHTMLクライアントを採用していたが、表7のような問題が顕在化していた。

コンテンツ管理費の増加
  • 運用受託費にはコンテンツの保守も含まれているが、このコンテンツ管理費が増加傾向にあった
  • 運用管理費の約6〜7割がコンテンツの保守に費やされていた
  • 画面の見栄えの修正に多くの労力を費やしていた
  • 画面の修正がビジネスロジックに影響を与えた
  • 画面の修正だけなのにテストはほとんどをやり直した
  • 画面に修正を加えていくと見栄えが劣化した
  • 最初の画面は専門デザイナーが作成するが、以後の修正作業はSEが行っていた
  • 画面生成のロジックとビジネスロジックが分離されていなかったため、画面の修正を専門デザイナーに依頼できなかった
ユーザの操作性の劣化
  • ユーザの操作性が、クライアント/サーバ・システムと比べ下がった
  • ドラック&ドロップができない
  • ページのリフレッシュが多い
  • グラフ表示、印刷機能が脆弱
  • OSやブラウザのバージョンによって動作や表示が変わる
  • 入力項目が多くなると画面が分割され操作が煩雑となる

表7:会社Dの以前のクライアントアプリケーションの問題点


   特にコンテンツ管理費の増加はビジネス存続を左右する大きな問題であり、コンテンツ管理を50%削減するには、どのような技術を使うべきかを調査検討した。その結果、Flashを用いたリッチクライアントへの移行し、表8のような問題を解決している。

コンテンツ管理費の削減
  • 運用費を30%削減
  • プレゼンテーション・ロジックとビジネス・ロジックを分離できるため、画面修正時のテスト工数が大幅に削減できた
  • プレゼンテーション・ロジックとビジネス・ロジックを分離できるため、画面の修正を専門デザイナーに依頼することができ、見栄えの劣化を防ぐこともできた
ユーザの操作性の向上
  • クライアント/サーバ・システムで当たり前にできていたことが、できるようになった

表8:会社Dのリッチクライアント導入後の問題点


   会社Dでは、リッチクライアント採用で工数削減を実現しているが、その内訳は以下の図のようになっている。これを見ると、トータルコストでは削減しているが、一時的に開発工数が増加し、テスト工数に至っては1.5倍程に増加している。テスト工数増加の原因は、適当なツールがなく、パフォーマンスやキャパシティテストに多くの工数がかかっているとのことだ。

会社Dの工数削減内訳(概算)
図:会社Dの工数削減内訳(概算)


   会社Dでは、リッチクライアントは業務系アプリケーションに向いているとしながらも、表9のような課題が新たに顕在化したと語っている。

開発生産性の低下
  • プログラムの開発とテスト工程で生産性が低下した
  • 特にキャパシティ/パフォーマンステストに関してはツールがなく、多くの時間を費やした
  • またFlashクリエイターの単価が高く、開発費が増加した
人材不足
  • Flashクリエイターの人数が少なく、また単価も高い
設計方式の欠如
  • クライアント側で処理すべきこと、サーバ側で処理すべきことを、今後、標準化する必要がある

表8:会社Dのリッチクライアント導入後の問題点


   今回4つの事例を紹介したが、冒頭で解説したとおり、利用しているリッチクライアント製品/技術によりそのデメリットに多少の違いが見受けられる。共通するメリットには高いユーザビリティが実現可能であることや、アプリケーションプログラムの配布が容易であることがあげられたが、開発環境や人材に伴う開発コストやライセンスに伴う運用コストなどには違いが見られた。

   次回、第4回では、これら現在提供されているリッチクライアント製品/技術を整理し解説する予定である。

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野村総合研究所
著者プロフィール
株式会社野村総合研究所  田中 達雄
1989年4月に富士通株式会社に入社。ソフトウェア工学を専門分野とし「UMLによるオブジェクト指向開発実践ガイド(技術評論社出版)」を共著。2001年2月に野村総合研究所に入社。現在、情報技術本部にてIT動向の調査と分析を行うITアナリスト集団に所属。Webサービス/BPMなどの統合技術、エンタープライズ・アーキテクチャなどが専門。


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