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SaaSビジネスのコスト構造の分析
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本連載の「第1回:セールスフォースに見るSaaSの衝撃」、「第2回:SaaSが実現するエンタープライズIT社会の共存共栄モデル」を通して、SaaSの代表的サービスであるセールスフォース・ドットコム社(以下、SFDC社)のCRMソリューション「セールスフォース」を例に、なぜユーザやパートナー企業がSaaSに熱狂しているのかについて解説してきた。
これらのポイントをまとめると表1のようになる。
- SaaSのシステム上の特徴
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- カスタマイズフレキシビリティの高さ
- スピーディな初期導入
- バージョンアップの柔軟さ
- SaaSのビジネスモデル上の特徴
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- ユーザを巻き込んでバージョンアップ機能を検討していく仕組み
- パートナー企業にアプリケーション開発プラットフォームを提供することで、セールスフォース自身のサービスラインナップを絶えず拡張し続ける仕組み
表1:SaaSが加熱する理由
これらの要因がユーザやパートナーを引き付けているのだ。
今回は、SaaSモデルがパッケージソフト販売モデルと競争力を持ち、ついにはコスト破壊をもたらすほどの価格帯で優れたサービスを提供できるようになってきた背景および、ビジネスとして成立するコスト構造に迫っていく。
「コスト」の視点からみることでSaaSビジネスの裏側を探り、サービスを提供するベンダー側の構造を明らかにしていこう。
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ベンダーにとってのコスト構造
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まず、SaaSおよびパッケージモデルのコスト構造を比較してみたい。
サービス提供に当たって、ベンダー側にかかるコストを、固定費と変動費(主に、ユーザ数が増えることによる変動)の大まかに2つに分けて整理してみると、以下の表2のようになる。
費目 |
SaaS |
パッケージ |
バージョンアップ開発 |
固定(小) |
固定(大) |
販売・流通、マーケティング費 |
変動(小) |
変動(大) |
メンテナンス費 |
変動(小) |
変動(大) |
インフラ投資 |
変動(大) (注1) |
固定(小) (注2) |
サーバ運用費 |
センター維持費(スペース、電気代など) |
変動(大) (注1) |
固定(小) (注2) |
人件費(パッチ当て、バージョンアップ作業、トラブル対応など |
変動(小) |
固定(小) (注2) |
表2:ベンダー側から見たコスト構造
※注1:
災対環境なども含め大きなものとなる
※注2:
ベンダー側に設置される開発・テスト環境
初期開発費については、同程度の機能を持つSaaSとパッケージの場合はほぼ同等であると想定し、今回は表からは割愛する。
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パッケージ販売はメンテナンスコストが肥大化していくモデル
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まず、パッケージビジネスのコスト構造を見てみよう。
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1. メンテナンスコスト
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大きな負担となっているのは「メンテナンスコスト」、すなわち、各世代のアプリケーションのバージョン管理とそれに伴うユーザサポートコストであるといえる。
例えば、自社パッケージの2000年版、2003年版などのバージョンを複数並行でサポートしなければいけないことに加え、Windows 2000/XP/Vista、Oracle 10g/11gなどの関連ソフトウェアのバージョンも複数に対応する場合もある。さらにはWindows/Linuxや、Oracle/SQLServerなど、関連するソフトウェアベンダーも複数サポートする場合もあり、その組み合わせはかなりの数になる。なおかつ、各バージョンに対してユーザが個別にカスタマイズ開発を加えており、ベンダー側には制御できない領域もある。
その結果、ユーザの環境に依存した問い合わせが寄せられた場合に、ベンダーはまずユーザ環境の現状把握をし、毎回個別の問題に対応しなければならない。これは非常に負担が大きい。
またユーザ企業数が増えるほど、サポートすべきシステム環境のバリエーションは増えていく。ユーザ企業数に比例するかそれ以上の複雑さ・煩雑さで、ベンダーの対応負担は増していくのだ。適用業種、業務にもよるがユーザが増えることによって規模の経済や効率化が効きにくいモデルなのである。
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2. 販売・流通、マーケティングコスト
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販売・流通、マーケティングコストも、ユーザ企業数の増加に比例して膨らんでいく。製品バージョンアップのためのマーケティングリサーチや、代理店や販社を通じた製品の販売・流通に常に一定のコストがかかり、これはビジネスモデル上避けられない要素となる。
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3. インフラ投資・サーバ運用コスト
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インフラ投資やサーバ運用コストは、パッケージベンダー内に設置される開発・テスト環境分のみかかることになる。本番環境ではないため最低限のスペック構成で足りるうえ、常に処理稼動させているわけではなく、パッチ当てなどの作業も緊急を要するものではないため対応体力はそれほどかからない。よって、SaaSモデルに比べれば微小なものとなる。
では次にSaaSモデルのコスト構造を見てみていこう。
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著者プロフィール
みずほ情報総研株式会社 古川 曜子
金融ソリューション第2部
1999年、富士総合研究所(現みずほ情報総研)に入社。民間企業、中央官庁のナレッジマネジメントやEA関連のコンサルティング業務に従事。現在は、企業情報ポータル、検索エンジンなど、「エンタープライズ2.0」のソリューションを活用した企業内情報活用のためのシステム構築業務に携わっている。著書に、「ITとビジネスをつなぐエンタープライズ・アーキテクチャ」(中央経済社)、「サーチアーキテクチャ」(ソフトバンククリエイティブ)(いずれも共著)。
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