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SaaSモデルの仕掛けとは
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では、SaaSモデルのコスト構造を見てみるとどうだろうか。そのポイントはメンテナンスコストとサーバ運用に関わる人件費の圧縮ができるところにある。
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1. メンテナンスコスト
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まずメンテナンスコストが小さく抑えられている点にポイントがある。SaaSの場合は、全ユーザが常に最新の同じバージョンのシステム環境を利用するため、ベンダーとしても最新の1世代のみをサポートすればよい。OSなども原則、1種類となりメンテナンスも容易だ。
ユーザ数が増えても、問合せ件数が増える程度で、すべてがSaaSベンダー自身の環境下での話になるので、パッケージのように対応内容の複雑性が増していくことはない。
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2. バージョンアップ開発費、マーケティング費
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GUIでアプリケーションやデータベースの設計・設定が行えることは、「第1回」でみたようにユーザに対して高い利便性を提供しているのみならず、ベンダー側にとっても開発コストを下げることにつながっており、経済的合理性がある。
また「第2回」で見たように、SaaSはセールスフォースの「IdeaExchange」のような仕組みでユーザの機能追加要求を募り、それに基づいてバージョンアップ/機能拡張を行えるため、マーケティングリサーチ費用が少なくて済む。これもユーザ価値を提供していると同時にベンダー側のコストも圧縮しているという上手くできた仕組みである。
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3. サーバ運用の人件費
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SaaSが従来のASPサービスに比べ、ビジネスとして成立し得るようになってきた根本的な理由は、SaaSが「シングルインスタンス・マルチテナント型」のアーキテクチャを実現している点にあるといわれている。
シングルインスタンス・マルチテナント型アーキテクチャとは、1つの動作環境(インスタンス)の中で複数のユーザを管理する仕組みであり、アプリケーションコードなどのリソースを複数のユーザで共用可能とする。
さらに、各ユーザ企業の環境は仮想的なパーティションで区切られ、各パーティションには各ユーザ固有のビジネスルールやデータベーステーブル構成、使用フィールド、他システムへのインターフェースなどの内容を定義するメタデータが保存されている。これによって物理的に1つの動作環境の中にありながら、ユーザごとのカスタマイズを可能にしているのである。
セールスフォースが実現しているマルチテナントは、図1のようなイメージである。
このアーキテクチャは、ベンダーにとってのコストの圧縮に大きく寄与する。複数のユーザが同居しながらも物理的には1つのシステム環境であるために、パッチを当てたり、バージョンアップをしたり、何らかのトラブルに対応するといった作業が1回で済み、サーバ運用作業の大幅な効率化につながるのである。
もしこうしたアーキテクチャがない場合は、各ユーザごとに1台ずつサーバ環境を用意して(仮想マシンであっても)、原則1台ずつパッチを当てていくことになる。
例えばセールスフォースの場合、ユーザ企業は3万社以上あるので3万台分のパッチ当て作業が発生することになり、ユーザの増加に比例してベンダー側の作業負荷も高まる構図になっているのだ。
しかし、実際にはこのような作業の必要はなく、大幅に人件費を削減できるのである。
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著者プロフィール
みずほ情報総研株式会社 古川 曜子
金融ソリューション第2部
1999年、富士総合研究所(現みずほ情報総研)に入社。民間企業、中央官庁のナレッジマネジメントやEA関連のコンサルティング業務に従事。現在は、企業情報ポータル、検索エンジンなど、「エンタープライズ2.0」のソリューションを活用した企業内情報活用のためのシステム構築業務に携わっている。著書に、「ITとビジネスをつなぐエンタープライズ・アーキテクチャ」(中央経済社)、「サーチアーキテクチャ」(ソフトバンククリエイティブ)(いずれも共著)。
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