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スケジュールとコストに関する指標が一目瞭然にわかるEVM
スケジュールとコストに関する指標が一目瞭然にわかるEVM

第4回:ベースライン作成の鍵となるWBSの解説と事例紹介
著者:プライド   三好 克典   2006/4/17
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はじめに

   前回はベースラインの作成について解説した。今回はベースライン作成の鍵となるWBSについて解説した上で、3つの事例を紹介する。
WBS(Work Breakdown Structure)とは

   PMBOKではスコープ・マネジメントの章にてWBSがとりあげられている。プロジェクトを立ち上げた際、まずプロジェクトのスコープ(目標・範囲・前提条件など)を定義する必要がある。そのスコープ定義で取り決めた要素成果物を生成するために、要素成果物(注1)を階層的に分解したものがWBSであり、最も低い(分解された)レベルをワーク・パッケージと呼ぶ。

※注1:
要素成果物:プロセス、フェーズ、またはプロジェクトを完了するために生み出さなければならない、固有で検証可能なプロダクト、所産、またはサービス実行能力(PMBOKガイド 第3版より引用)。

成果物の要素分解
図1:成果物の要素分解

※注2:
フェーズ:プライド社が提供しているシステム開発方法論「プライド」での工程の呼称。「プライド」ではフェーズ/アクティビティ(この後にでてくるPMBOKのアクティビティとは異なります)/タスクの3階層で標準工程を定義している。

   システム開発方法論「プライド」ではシステム設計書という成果物は「システム概念図」「システム・フローチャート」「概念DB構造図」といった要素に分解できる。前回のWBS説明で「成果物作成の手順に展開した結果をWBSとし、スケジュールを作成するケースも多い」と記述したが、本来WBSとは成果物を要素分解したものである。では、分解した要素の手順の組み立てはどうすればよいのだろうか。

   PMBOKではタイム・マネジメントの章にてアクティビティがとりあげられている。「アクティビティ」とは、WBSのワーク・パッケージを仕上げるために要素をマネジメントしやすい単位に分解したものである。このアクティビティに順序を設定することにより、スケジュールが具体化されることになるのである。

アクティビティへの要素分解
図2:アクティビティへの要素分解

   例えば「システム概念図」というワーク・パッケージを作り上げる作業を想定すると、「事前調査」「システム概念図の作成」「レビュ」「指摘事項修正」といった作業に分解できる。

   ここで、EVMのインプットとしての視点からWBSを考えてみよう。

   アクティビティに分解する目的は、作業を「マネジメントしやすい」粒度に分解するということである。よってWBSのワーク・パッケージ(要素成果物)が管理単位の粒度として適切な大きさになっているのであれば、無理にアクティビティ(作業)に分解する必要はない。逆に適切になっていなければ、アクティビティに分解したものをベースラインのインプットとする必要があるのだ。

   ここでWBSの作成方法について1つ注意をしたい。思いつく要素成果物や作業を洗い出して積み上げた(ボトムアップした)ものをWBSとして作成したことはないだろうか。実はこれは漏れが発生しやすい作成方法である。WBSは目的を達成するために何が必要かという視点でブレイクダウン(WBSのB『Breakdown』)するのが本来の作成方法であり、トップダウン的に作成することによって漏れを減らすことができる。


WBSの要素分解

   プロジェクトの立ち上げ時にWBSを作成する際、読者の方の企業では「どの程度の範囲・どの程度の粒度」で作成しているのかを考えて欲しい。プロジェクト全体についてEV(出来高)やAC(コスト実績)の計上を管理するためのレベル(第3回の「管理単位の粒度」を参照)まで分解しなければEVMが使えないというわけではない。

   WBSの詳細化をするマイルストーンをあらかじめ設定しておき、大工程ごとに順次詳細化していけばよい。先の工程のWBS項目に対してEVやACを計上することはないので、直近の計上対象が適切に分解されていれば、少なくともアラームとしては機能するからだ。

   大工程を順次詳細化していけばよいと述べたが、直近の工程以外は何もしなくてよいというわけではない。プロジェクトの全体感を把握する上で、プロジェクト全体について見積りが可能なレベル(実績計上を管理するより粗いレベル)まで成果物もしくは作業を分解しておくことは重要である。

   プロジェクト全体を分解することによりEAC(完了時総コスト予測)が算出されるわけだが、EACの算出をおこたれば、「雲で頂上が見えない富士山を登っているつもりが実はエベレストだった」なんてことになりかねない。

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株式会社プライド 三好 克典
著者プロフィール
株式会社プライド   三好 克典
前職にてプロジェクト管理や標準化が非常に重要であると考え、技術習得及び実践の場を求めてプライドに入社。現在、システム開発方法論「プライド」を軸に、プロジェクト管理、標準化、情報資源管理の支援に携わっている。

INDEX
第4回:ベースライン作成の鍵となるWBSの解説と事例紹介
はじめに
  事例紹介
  標準WBSの活用
  一見計画通りに進んだと思われる事例