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BIの現状と今後
BIの現状と今後

第1回:全体最適という方向性をみせるBI
著者:野村総合研究所  城田 真琴   2006/3/7
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はじめに

   ビジネス・インテリジェンス(BI)が再び脚光を浴びはじめている。BIとは、日々の企業活動により蓄積されるデータ資産から、企業の意思決定などに役立つ情報を引き出すための技術や方法論であり、2000年前後に大企業を中心に一時期導入が進んだ。しかし多額の投資に見合うだけの効果が得られるのかという点に疑問符がついたことと、ユーザが使いこなせるようになるまでに時間がかかることなどから、広く企業に浸透するには至らなかった。

   しかしながら、1昨年あたりから再度、BIは注目を集めるようになり、ここにきて日本企業にもBIの概念が定着し、更なる進化の兆しも見えはじめている。

   本連載では、BIの過去を振り返りながら、今後の進化の方向性について展望していく。


企業のIT投資は情報活用・戦略目的へ

   BIが企業において普及するか否かの鍵を握るのは、技術的な側面もさることながら、そもそも企業がIT予算を振り分ける投資先として想定されているかどうかも大きい。

   野村総合研究所が2004年11月に上場企業約450社を対象に実施した、企業のITマネジメントに関するアンケート調査の結果によると、企業のIT投資の平均的な配分は、業務効率化投資に26%、情報活用投資に14%、戦略的投資に11%、基盤設備投資に49%となっており、基盤設備投資に全投資額の約半数が振り分けられていることがわかった。

   しかしながら、今後のIT投資配分に関しては、情報活用投資と戦略的投資の増加を予想する企業が約4割を超え、業務効率化投資と基盤整備投資のそれを大きく上回っている(図1)。

ユーザー企業の現在と今後のIT投資配分
図1:ユーザ企業の現在と今後のIT投資配分
出所:NRI 「2004年ユーザー企業のIT運営実態調査」
(画像をクリックすると別ウィンドウに拡大図を表示します)

   基盤整備や業務効率化を一通り終えた後は、情報活用や戦略的な目的に取り掛かりたいという企業の意図がうかがわれる。BIが再び脚光を浴びているのは、こうした企業の投資意欲とも関係が深いといえよう。数年のうちには、実際の年間のIT投資配分額にもこうした企業の意図が反映された結果となると予測される。


BIの過去と現在

   情報活用の観点から企業経営をサポートするというBIの考え方は、1970年〜80年代に提唱されたMIS(Management Information System)、DSS(Decision Support System)にはじまり、80年代から90年代前半に提唱され、一時期ブームとなったEIS(Executive Information System)、SIS(Strategic Information System)などのコンセプトやシステムの流れを汲むものである。

   しかしながら、BI以前に提唱されたこれらのコンセプトは総じて成功したとは言い難い。その原因はいくつかあるが最も大きいのは、データの収集や加工、分析などの準備段階にはじまり、結果を利用するまでのプロセスをストレスなく行うだけの環境が整っていなかったことだ。

   例えばコンピュータの性能面を考えた場合、2000年の汎用MPU(マイクロプロセシングユニット)の性能が2000〜3000MIPS程度であったのに対し、1970年代後半の大型コンピュータの性能は10MIPS程度であり、現在の数百分の一に留まっていた。また、ネットワークの面でも1990年代半ばまでは企業内LANが敷設されていなかった。これらのことから、当時はデータの収集・加工・分析といった処理には莫大な時間とコストを要していたことが推察されよう。

   一方で利用に際しても、統計解析の専門知識を有する専任の分析担当者を必要としたことなどもあり、経営層が手軽に利用できる状態ではなく、これも普及を妨げる一因となっていた。

   ではこうした過去の苦い経験と比較して、現在のBIを取り巻く環境はどうであろうか。先にも解説した通り、コンピュータの性能は飛躍的に向上し、データの加工や分析作業にかかる時間やコストは大幅に短縮されるようになっている。また企業内LANの敷設やブロードバンドネットワークの普及によって、全国の拠点間・支店間を高速なネットワークで結ぶことも可能になった。更にはソフトウェア技術の進展やユーザインターフェースの進化(従来のクライアント/サーバ型からWeb型へ)により、高度な専門知識を有しない一般ユーザでも、インターネットアクセスなどと同様の操作で分析やレポーティングを行うことが可能になっている。

   こうしたテクノロジーの進化によって、現在のBIは専任の担当者でなくとも比較的使いやすいものとなってきており、BIのユーザは従来のように一部の限られた専門家だけでなく、経営者はもちろん、部門のマネージャーや一般社員などへ拡大する傾向にある。

   なお米国では、このようなBIのユーザ層の広がりとそれに伴う日常業務でのBIの利用というトレンドを「オペレーショナルBI」というキーワードで表現し、注目すべきトレンドとなっている。

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野村総合研究所 城田 真琴
著者プロフィール
野村総合研究所  城田 真琴
IT動向のリサーチと分析を行うITアナリスト。大手メーカーのシステムコンサルティング部門を経て2001年、野村総合研究所に入社。専門は、BIの他、SOA、EAなど。最近はSOX法対応ソリューションのリサーチを手がける。著書に「EA大全」(日経BP社)、「2010年のITロードマップ」(東洋経済新報社)(いずれも共著)など。


INDEX
第1回:全体最適という方向性をみせるBI
はじめに
  BI今後の展開
  戦略目標の策定