スマートフォン選択とUI

2011年1月19日(水)
永井 一美

スマートフォンの選択(2)

スマートフォンを選択する際に、提言したいことがある。「iPhoneやiPadが面白そう。Androidは伸びるだろう」という見方から「業務で利用してみたい」と考えると、失敗する可能性が高い。そもそもAndroidはOSの名前である。流行ではなく、端末ありきでもなく、「モバイルを利用して何をするのか、したいのか」を考えて適切な端末を選ぶべきだ。ただし、他社の成功事例を参考に自社適用を考えるのは問題ないし、検討すべきだ。

利用業務を想定した上での、大きな観点は、以下の通りだろう。

  • 端末きょう体
  • 通信手段
  • プラットフォーム(OS)
  • 運用/保守

なお、これらを検討する際には、企業にとって重要な"コスト"判断も含まれる。コスト・パフォーマンスが高い方が良いことは当然だ。

「端末きょう体」は、画面サイズやきょう体サイズ、利用外部インタフェース、キーボード搭載有無やバッテリーの駆動時間などが検討事項だろう。いずれも業務でどう利用するのか、誰が利用するのか、などから決定すべきだ。HT(ハンディー・ターミナル)のように落下耐性や寒冷地仕様などが求められる業務は、スマートフォンでの代替は困難だろう。

対面業務において顧客に画面を見せるのであれば、タブレット・クラスの画面サイズが欲しい。入力作業が多ければ、画面インタフェースだけの端末では厳しい。生産性が落ちるだけだ。「(タブレット型のスマートフォンは)ノートPCより安価だし、ソフト・キーボードがあるから大丈夫」などと安易に考えるのは間違っている。

業務で端末を操作するエンドユーザーは、決してITに慣れ親しんでいるとは言えない。キーボードとマウスの歴史は古いが、それでもそれに慣れていない人がいるのが現実だ。IT機器を使いやすいものと考えない方が安全であり、こうしたITリテラシの観点は、システム導入を検討する側がITに慣れているために軽んじることが多い。

業務システムは、エンドユーザーが快適に利用できてこそ、効果を発揮する。主に次回(第3回)で解説する画面UIも、それを手助けする手段だが、端末そのものも"UI"だ。機器、端末の選定は、本当に重要である。作業に適したUIをアプリケーションで補完するのは、限界があるからだ。

図2: さまざまな端末から選択する

図2: さまざまな端末から選択する

スマートフォンの選択(3)

「通信手段」に関しては、日本はSIMロック・フリーでなく、完全オープン化されていないので、端末を選択することによって通信キャリアが特定されてしまう。業務においては、どういった場所で利用するのか、都会、地方、山中、またビル内で利用するのか、が判断基準となる。

要は、「モバイルは通信できなければ使えない」のだから、想定する作業環境において確実に通信可能な手段を選択することだ。

ただし、アプリケーション側でオフライン・モードに対応することによって、通信遮断をカバーすることは可能である。アクシスソフトのリッチ・クライアント・ソフト「Biz/Browser Mobile」も、この機能を備えている。通信がつながらない場合は、オフラインで業務を行い、通信可能となったときにサーバー側との送受信を行えばよい。

通信においては、カバー・エリア、速度、料金が検討課題だ。現在の携帯電話は、第3世代(3G)と呼ばれるものであり、各通信キャリアの通信方式は、以下の通りである。

NTTドコモ、ソフトバンクモバイル、イー・モバイル
W-CDMA(Wideband Code Division Multiple Access)。なお、W-CDMAのデータ通信を高速化した規格として、HSDPA(High Speed Downlink Packet Access)などがある。
au
CDMA2000(CDMA2000 1x WINとして、その先に各バージョンがある)。

iPhoneはW-CDMA対応なので、現時点ではSIMロック・フリーになったとしても、au通信を利用することはできないが、先日、米Verizon WirelessがiPhone発売を発表、AppleのCDMA2000対応も明らかとなった。なお、第4世代(4G)との間としてLTE(Long Term Evolution)が検討されており(3.9Gと呼ばれている)、NTTドコモは2010年12月24日からXi(クロッシー)というブランド名でサービスを開始した。2014年には、現行の2.5倍、光回線なみ(毎秒100Mbps)に速度を高めると発表しており、他社も2011年以降での開始を表明している。

また、モバイルWiMAXや、公衆無線LANサービスも、いろいろと提供されてきている。高速モバイル通信であるUQ WiMAXは、下り40Mbpsと説明しており、「高速」「大容量」「低遅延」を特徴とする現行のLTEと変わらない。しかし、速度はみなベスト・エフォート型であり、実効速度は過去の実験サイト情報をみても10Mbpsを割っているので、理論値だけで判断はできない。

なお、公衆無線LANの場合は、利用場所からホット・スポットへの接続性の問題がある。コストをかけて無線を中継する装置などを設置すれば別だが、端末の位置によって使い勝手が左右されるなら、あまり勧められない。通信は、確実につながることと、その業務で問題とならない速度を備えていることが必要である。広範な地域での業務が想定される場合は、事前検証も困難だろうから、まずは安全策を考えるべきである。

次ページでも、引き続いてスマートフォンの選択について解説する。

アクシスソフト株式会社 代表取締役社長
SI会社においてOS開発、アプリケーション開発、品質保証、SI事業の管理者を経て、ソフトウェア製品の可能性追求のため、当時のアクシスソフトウェアに入社、以降、一貫して製品事業に携わる。2006年より現職。イノベータであり続けたいことが信条、国産に拘りを持ち、MIJS(Made In Japan Software consortium)にも参加、理事として国産ソフト発展に尽力している。

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