【ネットワーク教習所】
未来が近づく、新世代ネットワーク!
第4回:宇宙インフラ構想の要、WINDSを知る
著者:情報通信研究機構 大川 貢
公開日:2008/03/24(月)
超高速インターネット衛星(WINDS)の能力は?
WINDSは1.2Gbpsというまさに世界最高速の衛星通信を実現できる能力を有している。WINDSでは、災害などで地上通信網が使えなくなったときのバックアップ回線として高速衛星回線を提供する技術の習得が期待される。また、WINDSは家庭のベランダに設置可能な開口径45cmアンテナの地球局に対して、155Mbpsのブロードバンド通信を提供可能である。
日本において地上系のブロードバンド環境が整っていない世帯は離島や山間部など全国で約5%あると推定されている。テレビは衛星放送によって難視聴地域が大幅に減ったが、インターネットについても衛星利用によるブロードバンド環境の整備が可能であり、WINDSはその先駆として位置づけられる。
WINDSはアジア太平洋地域の主要都市に固定ビームを配置している。また、固定ビームのほかに、アジア太平洋地域を自由に走査できるビームも有しており、主要都市間の1.2Gbps高速通信回線の提供以外に、ブロードバンド環境の整っていないアジア太平洋の地域や島々に対してブロードバンド環境を提供できることになる。このようにWINDSは日本国内はもとよりアジア太平洋地域に対して、超高速通信回線の提供とデジタルデバイドの解消に役立つと期待されている。
超高速インターネット衛星(WINDS)の特徴
では、ここで超高速インターネット衛星(WINDS)の特徴を紹介していこう。
1つ目が「固定マルチビームアンテナおよびKa帯マルチポートアンプ(開発担当:JAXA)」だ。固定マルチビームアンテナにより、日本国内およびアジアの複数の都市をスポットビームで結び、高速伝送を可能とする。また、マルチポートアンプでは、複数のビームに送信する信号を共通増幅しており、ビーム間の電力分配を瞬時に変えることができる。
2つ目が「Ka帯アクティブフェーズドアレーアンテナ(開発担当:JAXA)」だ。アクティブフェーズドアレーアンテナでは、衛星直下点から±8度の範囲でビームの向きを電子的に変えることができる。固定マルチビームアンテナがカバーしていない地域はこのアクティブフェーズドアレーアンテナによって通信することができる。
3つ目が「衛星搭載高速スイッチングルータ(開発担当:NICT)」である。衛星搭載高速スイッチングルータは、ATMセルをベースバンドで交換する高速交換機で、複数の地球局から送られてくるデータを、相手地球局のアドレス情報に相当する信号のセルヘッダ情報をもとに出力すべき下り回線ビームに高速に振分け、同一ビームに送る情報を多重化して送信する機能を持ち、効率的に交換することができる。
4つ目が「超広帯域中継器(開発担当:JAXA)」である。1.1GHzと広帯域の中継器を搭載している。また、ビーム間の信号をIF周波数で切替えるスイッチを持っており、非再生(ベンドパイプ)中継交換を行うことができる。
これら技術開発を行い、WINDSでは最大155Mbpsという高速の再生交換中継を行うことができる。また、1.1GHzと広帯域な中継器を使用した最大1244Mbpsの非再生交換中継による高速データ伝送を可能とする。
衛星搭載スイッチにより固定マルチビームアンテナで形成される19のビームおよびびKa帯アクティブフェーズドアレーアンテナで走査される2つのビームを瞬時に切り替え、再生交換中継の3つの通信波を同時に送受信することができる。非再生交換中継では最大6波を同時に送受信できる。
なお、高速インターネット衛星システムの遅延対策も行ってる。TCP/IPでは、情報を決められたウィンドウサイズごとに転送し、応答を受けて正しく送られることを保証しているが、衛星回線では応答が帰るまでに500 ms程度の時間がかかるため、広帯域回線ではウィンドウサイズによってスループットの上限が決まってしまう。
このため、TCPおよび代表的なアプリケーションに対応したTCPアクセラレータ/PEP(Performance Enhancing Proxy)により、高速ネットワーク端末の入出力を終端し、衛星回線とイーサーネットで異なるウィンドウサイズやプロトコルを使用することが有効となる。
最後に超高速インターネット衛星(WINDS)で行う予定の実験と、今後のスケジュールを紹介しよう。 次のページ