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スケジュールとコストに関する指標が一目瞭然にわかるEVM
スケジュールとコストに関する指標が一目瞭然にわかるEVM

第3回:データの推移からつかめる傾向とベースラインの作成・出来高計上基準
著者:プライド   三好 克典   2006/4/3
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ベースラインの作成

   ここまでは、EVMによっていかに有効な指標が示されるかについて解説してきた。ここからはEVMの指標値を導出するための基礎データについて解説していく。

   前回の最後に取りあげたが、EVMが示すデータはベースラインに大きく依存する。ベースラインを作成するには、まずWBSを作成する必要がある。皆さんのところでは管理単位をどの程度の粒度に設定しているだろうか。作業の分解については会社や人、あるいはプロジェクトによって様々な基準があるだろう。

WBS:Work Breakdown Strucureの略。プロジェクト全体の成果物を階層的に構造化して個々の成果物に展開したもの。本来WBSは成果物単位に分解するものであるが、管理単位の粒度を揃える意味もあり、最下層の成果物については、必要に応じて成果物作成の手順に展開した結果をWBSとし、スケジュールを作成するケースも多い。WBSはEVM成功の鍵となるので、次回にてもう少し詳しく解説する。

   ここで1つ考えてみよう。EVMはWBSに依存するのだが、管理単位としての作業は細かく分解すればするほどよいのだろうか。

   答えはNoである。

   確かに、分解すればするほど正確な結果になることは明らかである。しかし、仮に1時間単位まで分解したとしたらどうだろう。報告タイミングが1週間ごとだとして、1時間ごとに管理する必要があるだろうか。例えばトイレに行ったり、タバコを吸ったりした時間を差し引いてまで正確に実績コストを計上する必要はない。

   EVMを利用する目的は、アラームを検知することや将来の予測をすることであって、細かい管理をすることが目的ではないからだ。

   管理単位の粒度としては報告タイミングにあわせるのがよいだろう。例えば毎週進捗会議を実施するのであれば、すべての作業期間を1週間以内に設定するべきである。中には3日で終わる作業もあるので「以内」と記述はしているが、先程も述べた通り無理に細分化する必要はない。

   いくら細かくしたとしても、報告タイミング(PDCAサイクルのチェック「Check」)にいたらなければ、次のアクション(Action)につながらないからだ。無理に細分化することは無駄な管理工数を増やすだけである。

管理のコツ

   プロジェクトに限らず、世の中には様々な管理項目が存在する。管理するレベルを細かくしたいと考えるのはよいが、誰もチェックをしていないため、そこまで細かく管理することに意味がないケースが散見される。

   これでは基礎データを提供(EVMでは出来高・実績コストの計上)する側にとっては、まったくもって無駄な労力を費やしていることになる。さらにきちんと管理されていないことがわかれば、基礎データ提供者だって真面目にやる気になれないはずだ。管理する目的を明確にし、基礎データ提供者にその意義を理解してもらうべきという点については、何を管理するにしても同じである。

出来高計上基準

   次は出来高計上について解説していく。

   徹底的にプロジェクトを考慮してWBSを作成し、適正なベースラインができあがったとしても、出来高の計上方法が曖昧では信頼できる結果を示唆するものではなくなってしまう。

   従来からスケジュールに対する進捗報告は主観的なケースも多かった。70%完了などと報告してみるものの、手戻り発生のため遅々として進まないケースも多々見受けられる。特に目新しい進捗チェックの方法ではないが、例えば表4のような進捗計上方法がある。

進捗計上方法
表4:進捗計上方法
(画像をクリックするとExcelファイルをダウンロードできます。/18.0KB)

   運用を考えると、慣れないうちは表4のように単純化してある方がわかりやすいだろう。ただ、可能であればもっと詳細な計上方法にしてもかまわない。例えば「20%(着手)-50%(半分)-80%(作業完了)-100%(レビュ完了)」といった計上方法を取り決めてもよい。

   ここで工程による特色を考えてみよう。どの工程でも一律に同じ計上方法がよいというわけではない。手戻りの発生頻度やレベルが異なっている場合や、そもそも管理単位が報告タイミングより細分化されているケースもある。EVMを導入する際の出来高計上基準の例を表5に示す。

EVMを導入する際の出来高計上基準の例
表5:EVMを導入する際の出来高計上基準の例
(画像をクリックするとExcelファイルをダウンロードできます。/18.5KB)

   会社あるいは事業部でもそれぞれの特性があるだろうから、表5の例が必ずしも最適とは限らないが、これといって制約事項などがないのであれば、表5の例で1度試してみて改善していくという方法もある。


まとめ

   先程も述べた通り、基準類を策定し、その意味・目的・利用方法・アクションへのつなげ方を全員で共有することは、プロジェクトの成功に向けてとても重要な作業である。

   EVMによってアラームがあがった際に、プロジェクトマネージャーは原因調査を開始するはずだ。EVMの結果をブレイクして原因となっている作業を突き止め、問題が何なのかをヒアリングするに違いない。その時ヒアリングされる側との認識が大きくズレが生じていたら、正確な答えが返ってこないか、もしくはヒアリングに大きな労力を費やすことになる。

   EVMを導入するのであれば、今回解説した管理単位の粒度や出来高計上基準はプロジェクトメンバー全員が知っておくべきだ。

   次回はいくつかの事例を取り上げ、その結果から考えられる事象について解説していく。

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株式会社プライド 三好 克典
著者プロフィール
株式会社プライド   三好 克典
前職にてプロジェクト管理や標準化が非常に重要であると考え、技術習得及び実践の場を求めてプライドに入社。現在、システム開発方法論「プライド」を軸に、プロジェクト管理、標準化、情報資源管理の支援に携わっている。

INDEX
第3回:データの推移からつかめる傾向とベースラインの作成・出来高計上基準
  はじめに
  指標値と予測値の推移
  様子を見たあとの状況
ベースラインの作成