2025年10月9日、10日にラトビアのリガで開催されたZabbix Summit 2025から、Zabbix Cloudに関するセッションを紹介する。セッションを行ったのはHead of Software DevelopmentのVladimirs Elsters氏だ。
Zabbixはオンプレミスのモニタリングソフトウェアとして開発され、モニタリングを行うエージェントの種類を増やし、サーバーとエージェントを仲介するプロキシーを投入することで規模の大きなシステムであっても少ないリソースでモニタリングを可能とするといった特徴を備える。一方で、エージェントやプロキシーなどのコンポーネントの管理に工数を要する点が改善点として挙げられていた。
Zabbix CloudによりZabbixをクラウド側に載せることで、これらの運用管理をZabbixのクラウドチームに任せることが可能になった。クラウドサービスとしてZabbixを提供するという発想はかなり前から表明していたものの、実際にシステムとして発表されたのは、2024年のZabbix Summitだった。
●参考:Zabbix Summit 2024開催。キーノートの目玉はZabbix Cloudとバージョン7.0
Elsters氏はZabbix Cloudの特徴として「管理が不要になること」「常に最新のコンポーネントを使えること」などを挙げた。またZabbix Cloudの成長については毎月20%の率で伸びていると説明したが、その成長はユーザー数なのか売上なのか、特に言及することはなかった。
Zabbix Cloudの特徴としてコンポーネントの管理が不要になることは繰り返しアピールしていたが、このスライドでは特に「費用が予測可能になる」ことを強調した。これはクラウドサービスにおいて往々に発生する、想定以上に巨額の請求金額が送られてくるということに対するZabbixとしての回答ということだろう。コア数やメモリー使用量、クラスター間の通信量などにも課金が行われるパブリッククラウドとは異なり、モニタリングするアイテム数から発生するデータ量とストレージに対してのみ課金されるということが解説された。
価格については公式ページを参照されたい。
この価格は2024年のサミットで公開された価格表から変化しており、Smallでは250USドルとなっている。上記の2024年の記事で引用した現地で配布された価格表にはSmallは280.32USドルということだったので若干、価格を下げているということだろう。
また価格の分類についてはSmallのコストパフォーマンスが最も高いと紹介。
さらに価格については例えばSmallであれば250ドルに固定され、次のティアーに移るまでは変化しないことが強調された。これも不透明な価格構造を払拭して、顧客の不安を取り除こうという意図であろう。
またSmallとLargeの比較も解説。LargeはSmallに対してNVPSは10倍だが、価格的には7.5倍に抑えられているのがわかる。
最後にこれからのロードマップを紹介。
ここでは2025年中にオンプレミスからクラウドへのマイグレーションが可能になること、より柔軟な価格体系と支払方法の追加、プロキシーのサポート、顧客の都合でバージョンを固定化したい場合への対応などが解説された。
ここまででZabbix Cloudのセッションは終了したが、敢えて難点を指摘するとすれば「数字が少ない」ことだろう。オンプレミスであれば顧客のシステムによって稼働率や可用性は変化するため一概に可用性を語ることは難しいが、マネージドサービスとして公開されるZabbix Cloudについて、成長率が20%と示されているだけだ。Zabbix Cloudが顧客が必要とするインフラストラクチャー/サービス監視に対してどの程度の可用性があるのか、ストレージへのアクセス(IOPS)はどの程度の性能なのか、ベースとなっているAWS自体の可用性を超えるための工夫はされているのか、という点については何も明らかにされていない。また1年を超えて運用され、ユーザーも増えているはずなのに、ユースケースがセッションの中で発表されていないという状態で「とにかくZabbixを信用してくれ」という思いは伝わってくるが、果たしてそれがエンタープライズ企業のIT責任者にとって充分なのかは疑問の多いところだろう。
Zabbix Summit自体がZabbixを愛するファンの集いであるというのはある側面では正しい観測だが、マネ-ジドサービスを運営する企業としてユーザーの信用を勝ち取るためには透明性と数値に基づく事実開示が必須だ。次回のアップデートではぜひ正確な数値による解説をお願いしたい。
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