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ITインフラの新しい展望
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第6回:IT基盤の展望IBMのオープン化と先進技術への取り組み
著者:日本アイ・ビー・エム  木元 一広   2005/12/19
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仮想化を中心としたIBMの先進技術への取り組み

   IT基盤の議論では「仮想化」は現在非常に注目を集めている分野ですが、まず今日のIT基盤の現状と仮想化がもたらすものを簡単におさらいしてみましょう。

   今日のIT基盤の多くはアプリケーション単位で構築され、ハードウェアやデータなどの資源が閉じこめられた「サイロ」となっています。サイロ間の資源の共有は限られたレベルにとどまっており、組織を横断したコラボレーションは困難です。また運用も基盤ごとに異なる上、資源の再配置やスケジューリングを行うのも人手によるため、迅速で適切な変更は不可能です。結果として資源の利用効率は低く、運用コストも増大しています。

   仮想化とはシステム資源を抽象化したIT基盤のプールとし、アプリケーションおよびデータとそれらが依って立つIT基盤を分離させることです。これにより、必要な資源を動的に業務に割り当てることが可能になり、需要変動に迅速に応え、高い可用性と自律性を持つIT基盤を実現できます。資源の再配置やスケジューリングが動的・自動的に行われるため、資源の利用効率向上・運用コストの抑制につながります。

   IBMはオンデマンド・ビジネスを支える基盤であるオンデマンド・インフラストラクチャーの実現のため、いくつもの取り組みを行っていますが、仮想化はその基礎をなす要素です。グリッドおよびオートノミック・コンピューティングもまた重要な役割を担っており、相互に補完する関係になります。


グリッド・コンピューティング

   グリッドは科学技術研究分野でのニーズから生まれたものです。大量のデータや貴重な観測・実験装置、莫大な計算能力を共有して研究に役立てたい、大学や研究所の枠を超えた共同研究などの動的な組織の形成をITシステム面でも実現したい、といった今日の大規模でダイナミックな研究を支えています。

   すなわち「動的な資源共有とコラボレーションを可能にする」ことがグリッドの動機です。大学や研究所は独自のシステムを構築しており、管理ポリシーも異なります。このため、グリッドは「組織の壁を越える」「機種の違いや管理ポリシーの違いを越える」必要があります。これはまさにオンデマンド・インフラストラクチャー実現に必要な要素で、グリッドは企業のコンピューター利用でも非常に大きな価値をもたらします。

   「組織の壁を越える」は、異種混在環境での資源の動的な最適化、情報の共有・流動化につながります。また「機種の違いや管理ポリシーの違いを越える」は、機能をOSやハードウェアの機種に関わりなく共通化する「メタOS」の実現を通じ、資源を抽象化・仮想化したサービスと捉えることになります。グリッドは、仮想化を企業の組織全体から外部へと適用範囲を広げていくに従い、非常に重要な役割を果たすことになります。

   一方、資源が仮想化されていれば、グリッドはより容易にその資源を自らの中に取り込んで活用することができます。このように仮想化とグリッドは相互に補完しあい、時には重なりあう関係といえます。

   IBMはグリッドのオープン化に積極的に取り組んでいます。グリッドの標準化団体GGFでの様々な標準化活動への参加、GGFの推進する基幹アーキテクチャーであるOGSA(Open Grid Service Architecture)の策定作業への参画、OGSAのリファレンス実装であるThe Globus Toolkitを開発するGlobus Allianceへの技術・人材・資金面での支援の他、世界の様々なグリッド・プロジェクトへの参画を行っています。

   コラボレーションに関しては、ハードウェア、ミドルウェア、アプリケーション・ベンダー、SIベンダーなどとのエコ・システムを構築しグリッドの商用利用を推進しています。一方、WebSphereなど自社の主要製品にもグリッドを取り入れつつあります。2005年8月に発表されたWebSphere Application Server XD(Extended Deployment)6.0は、Webトランザクションとバッチ処理を統合してWebSphereの環境で稼働させ、両者間での資源の動的最適化をはかる画期的なビジネス・グリッド製品です。

   また、WebSphere Information Integratorは異種のRDB/XML/フラットテキストなどの混在環境でのデータ・フェデレーション(連合)機能による仮想化を提供します。ユーザーはデータの格納場所や形態を気にすることなく、SQLでのアクセスが可能です。


オートノミック・コンピューティング

   オートノミック・コンピューティングとは、ITシステム自身に自分自身を管理する自律性を持たせることで今日の複雑なITシステムの管理の複雑さを隠蔽しようというもので、自己構成・自己修復・自己最適化・自己防御という4つの分野にフォーカスしています。

   今日のITシステムは複数の異なった構成要素から成り立っています。このため、オートノミック・コンピューティングは単に一製品内にとどまらず、アプリケーションを支える複数の構成要素の組み合わせ、複数のアプリケーションの統合環境を視野に入れ、最終的には企業全体のビジネス・ポリシーと整合する自律的なITシステムの実現を目指しています。

   今日のITシステムの現状を考えれば、オートノミック・コンピューティングもまた異種混在環境で実現できなくては価値がありません。このため、IBMはこの分野でもオープン化に積極的に取り組んでいます。例えば、Webアプリケーションの応答時間をトランザクションが通過するHTTPサーバー・Webアプリケーションサーバー・データベースサーバーの構成要素単位ごとに測定できれば、Webシステムの最適化に有益な情報となります。

   The Open Groupで策定したARM(Application Response Measurement)V4はこのような応答時間測定を可能にする標準です。IBMはARMの標準化に参画し実現に取り組むとともに、EWLM(Enterprise Workload Manager)やIBM Tivoli Composite Application Manager for Response Time Tracking(注)でARMをサポートし、異種混在環境でARMに対応したあらゆるアプリケーションからのデータ収集を可能にしています。

注: 旧Tivoli Monitoring Transaction Processing(TMTP)

   また、IBMはDB2やWebSphere、Tivoli製品など数多くの製品にオートノミック・コンピューティングの成果を組み込んで提供しています。

   最近の注目される成果の1つとして、WSDM(Web Services Distributed Management)を取り上げます。WSDMは、OASISが2005年に承認したIT資源の管理を統合するための仕様です。WSDMは、MUWS(Management Using Web Services)とMOWS(Management of Web Services)という2つの仕様からなっています。

   このWSDMの画期的な点は、システム資源の管理インターフェースとしてWebサービスを活用することです。既に広く普及し、今後の一層の発展が見込まれるWebサービスを利用することで、多くの資源が共通の管理機能を提供でき、それらを監視・制御する様々な管理ソフトウェアの相互運用性を高めてシステム全体の自律性が高まることが期待されます。

   またWebサービスをリソースとして管理する方法の規定により、WebサービスをWebサービスのインターフェースで管理する方法に道を開く重要な意義を持っています。これらのWebサービスの活用・管理機能によって、ESB(Enterprise Service Bus)を介して、SOAを基礎として開発されるアプリケーションを実行するための柔軟なインフラストラクチャーを実現するための基礎ともなります。

   WSDMの策定では、IBMのオートノミック・コンピューティング関連技術の1つであるCBE(Common Base Event)がイベントフォーマットの基本として提出され、採用されました。CBEはITシステム内で発生する様々な事象を共通の形式で扱えるようにするためのXMLフォーマットで、IBMが開発者向けに提供し、既に多くの利用事例があるAutonomic Computing Toolkitでも利用可能です。

   WSDMのアーキテクチャーでは、下位の仕様としてWS-RF(Resource Framework)、WS-Addressing、WS-Notificationという一連のWebサービス仕様を利用しますが、これらはもともとGGFで仕様策定が行われているOGSAの基盤となる仕様で、GGFでの議論の後、OASISに提出されて標準化されたものです。これはグリッドとオートノミック・コンピューティングが相互に補完しあっており、仮想化を実現するための鍵であることを端的に示すものといえるでしょう。

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日本アイ・ビー・エム株式会社 木元 一広
著者プロフィール
日本アイ・ビー・エム株式会社  木元 一広
日本アイ・ビー・エム株式会社 ICP-シニアITアーキテクト
1984年日本アイ・ビー・エム入社後、お客様担当として汎用機及びUNIX系の基盤から適用業務システムの設計・実装まで幅広く活動。2002年より、グリッド・コンピューティングに取組み、アーキテクトとして製造業・ライフサイエンス・金融等の分野でのお客様の実証実験及び実業務への展開をリードし、グリッドおよび仮想化の実用性の検証・普及に従事している。


INDEX
第6回:IT基盤の展望IBMのオープン化と先進技術への取り組み
  はじめに
  特許の公開
仮想化を中心としたIBMの先進技術への取り組み
  仮想化の新たな一歩 - IBM Virtualization Engine V2