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世界各国政府のオープンソース採用動向
世界各国政府のオープンソース採用動向

第1回:欧州編(前編)
著者:三菱総合研究所  比屋根 一雄   2005/2/25
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オープンスタンダード推進にオープンソースを利用する欧州連合

   欧州委員会は2002年から欧州連合の電子政府化を目指すeEurope計画を進めています。オープンソースの採用もeEurope計画の一環として取り上げられています。2002年7月、欧州委員会は公共機関でオープンソースソフトウェアを共有し、IT費用を削減するよう各国政府に勧告しました。電子政府のIT費用は年々増大し、2002年には前年比28%増の66億ユーロに達すると見積もられています。このためITコスト削減を第一にオープンソースソフトウェアに注目したのです。
   しかし、オープンソースの推奨はコスト面だけが理由ではありません。多数の国々を有する欧州では、政府・自治体・公的機関の間のデータ交換が切実なニーズとして存在します。データ交換をスムーズに行うには、システム間の相互運用性が欠かせません。このためファイル形式、通信プロトコルなどのオープンスタンダードに準拠させることが重要なのです。内部仕様が完全に公開されているオープンソースを採用することが、オープンスタンダードの採用を促すと考えたのでした。

   オープンスタンダードとオープンソースの関係は少し説明が必要でしょう。オープンスタンダードは必ずしもオープンソースである必要はありません。例えば、メール送受信のプロトコルはオープンスタンダードですが、商用製品しか無かったとしても、きちんと規約に基づいてやりとりすれば、問題なく通信できます。

   しかし、メールの普及にオープンソースソフトウェアが重要な役割を果たしたことは間違いありません。メールの黎明期に、オープンソースのメールサーバとメールクライアントを自由にダウンロードして使い、多くの開発者が改良していった結果として、メールの普及と改善が行われました。

   すなわち、オープンソースはオープンスタンダードのコア機能を安価に入手できることと、多くの企業や大学が共通のプラットフォーム上で共同開発に参加できることを促進します。また、オープンソースとして公開されることで、数多くのハードウェアに対応されやすいことも重要なポイントです。

   このためにeEurope 2005のAction Planでは、次のように述べられています。

  1. 対話的公共サービスが誰でもアクセスできるよう、複数のプラットフォームで提供されること
  2. オープンスタンダードに基づき相互運用性を実現し、オープンソースソフトウェアの利用を促進すること

   オープンスタンダードとオープンソースを推進するため、COSPAやFLOSSPOLSなどのプロジェクトが始まっています。COSPAは公的機関でオープンソースデスクトップ利用の実証実験を行い、FLOSSPOLSは政府機関のオープンソース政策に関する研究を行うプロジェクトです。

   また、欧州連合では、オープンソースの普及啓蒙のために、公的機関におけるオープンソース採用のベストプラクティスを集め、サイトで公開すると共に、毎月ニュースレターを発行しています。


最先端を行くドイツ

   ドイツは欧州の中でもオープンソース採用で最先端を走っています。ミュンヘン市の事例でも述べましたが、ドイツはオープンソース開発が盛んであることがその背景にありました。

   2000年頃にはドイツ内務省がオープンソースを行政システムに利用できるかの評価を行っており、その結果オープンソースを利用すべきとの調査結果が出されました。

   2002年6月には、ドイツ政府はLinuxの利用を促進するために、IBMと包括的調達契約を結びました。この契約では連邦政府、地方政府がSUSE Linuxを搭載したIBMパソコン、サーバを割引価格で購入することができます。この時、ドイツ政府は、この契約の目標として次の3つを挙げました(表1)。

セキュリティ向上 単一文化を避けセキュリティを向上できる。オープンソースの方がクラッシュ、ウイルス等の脅威への耐久性が高い。
単一ベンダへの依存回避 単一のソフトウェアへの依存を減らすことができる。
コスト削減 オープンソースによってコストを削減できる。

表1:ドイツ政府のLinux包括的調達契約を交した理由


   この契約の1年後、内務大臣は連邦反トラスト執行機関、ミュンヘン市、内閣府など、500以上の政府機関がオープンソースの採用を開始したと述べています。

   2003年6月には、ドイツ内務省は公的機関向けに、オープンソース移行ガイドラインを作成しました。このガイドラインは公的機関のITマネージャに対し、現在の商用ソフトウェアを使い続けるか、商用とオープンソースの両方を使うか、オープンソースに完全に移行するか、経済的・技術的側面から判断できるようにするためです。


デスクトップでの利用の活発化

   ドイツ国内では、サーバだけでなくデスクトップでもLinuxを利用する動きが活発化しています。例えば、連邦情報セキュリティ局(BSI)は、LinuxGovernment Desktopというドイツ政府向けディストリビューションを地元企業と開発し、評価しています。他にも、Rheinland Pfalz州の9つの市では、多数のWindow PCをLinuxへ切り替えることを検討しています。ただし、ミュンヘン市以外は、デスクトップに関しては時期尚早と計画を延期した機関が多いようです。

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三菱総合研究所
著者プロフィール
株式会社三菱総合研究所  比屋根 一雄
情報技術研究部  主席研究員
1988年(株)三菱総合研究所入社。先端情報技術の研究開発および技術動向調査に従事。最近は「OSS技術者の人材評価調査」「日本のOSS開発者調査FLOSS-JP」「学校OSSデスクトップ実証実験」等、OSS政策やOSS技術者育成に関わる事業に携わる。著書に、「これからのIT革命」、「全予測情報革命」、「全予測先端技術」(いずれも共著)などがある。「オープンソースと政府」週刊ITコラム「Take ITEasy」を主宰。


INDEX
第1回:欧州編(前編)
  はじめに
  ミュンヘン市、14,000台をWindowsからLinuxに移行
オープンスタンダード推進にオープンソースを利用する欧州連合
  独自にリブレソフトウェアを進めるフランス