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教育現場におけるオープンソース実証実験

第2回:つくば市での実証実験
著者:三菱総合研究所  比屋根 一雄   2005/8/11
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授業の様子

   ここで実際のLinux PCを用いた授業の様子を少し紹介しましょう。

   小学校4年生の「わくわくデジタルアート」という図工の授業です。あらかじめ制作した段ボールの作品と自分の姿をデジタルカメラで撮影し、作品の中に自分の姿を合成して入れるという、楽しい授業です。

   この授業は次のような流れで行いました。
  1. 児童が段ボールで制作した作品をいろいろな角度からデジタルカメラで撮影します
  2. 段ボールの作品に合うポーズを考え、別の児童に撮影してもらいます
  3. 画像処理ソフトGIMPを使って、画像を加工・合成します
    1. 撮影した自分の画像を切り抜く
    2. 切り抜いた自分の画像を作品の画像に貼り付ける
    3. 位置や大きさ、角度などを調整する

表3:「わくわくデジタルアート授業」の流れ


「わくわくデジタルアート」の作品例

段ボールの野球場の画像に、自分がピッチャーとなった画像を切抜いて合成したものです。

「わくわくデジタルアート」の作品例
   次は中学校2年生の英語の授業です。Webカメラを使って他校とテレビ会議で接続し、英語で自分の学校を紹介しあうという授業です。テレビ会議ソフトには「GnomeMeeting」を利用しました。相手校はWindows PCに附属する「NetMeeting」を利用しました。

   カメラやマイクを使うことに慣れてなく、初対面の他校の生徒との授業ということもあり、最初はとまどいもありましたが、慣れてくると会話を楽しんでいました。

Webカメラを使った英語の授業

テレビ会議で他校と英会話中。モニタ上部がウェブカメラです。

「わくわくデジタルアート」の作品例
動画インライン再生の問題

   最後に実証実験中に発生した様々な問題について紹介します。

   学校でLinux PCを使う場合、大きな障害となるのがWebベースの教材コンテンツにInternet Explorerに依存したものがあることです。最近のIT活用授業では、インターネットの調べ学習と、各種教材コンテンツの利用が占める割合が多く、これは大きな問題です。その中でも、教材コンテンツに埋め込まれている動画ファイルの再生と、JavaScriptを含むHTMLの非互換性は特に問題でした。

   動画ファイルのインライン再生には、Mozillaのmplayerplug-in-2.66を利用しました。実証実験の当初、mplayerplug-inは不安定であり、機能も限定されていました。そこで、下表のような改良を行い、数多くの動画コンテンツが期待通りに閲覧できるようになりました。改良パッチがコミュニティにフィードバックされ、いくつか採用されたことも本実証実験の大きな成果です。

改良項目 状況 備考
JDS2上での構築 採用 2.66用パッチを提出。2.75にてコミュニティがJDS2含めより多くのディストリビューションに対応
コントローラ部品の個別表示 採用 2.66用パッチを提出し、2.75にて採用
繰り返し再生回数指定 検討中 2.66用パッチを提出し、コミュニティで検討中。さらに、機能を2.80でも取り入れるようリクエスト中
コントローラ表示の不具合回避 不採用 2.66用パッチを提出し、一旦rejectされる。機能拡張にあたるとして再度パッチを提出し、採用をリクエスト中
表示画像の縦横比保持指定 不採用 コントローラ表示の不具合回数と組の機能であり、同じ状況
再生ボタンの不具合回避 採用 2.66用パッチを提出。2.75にて、コミュニティが、グローバル変数を使用しない機構で改良を行った
自動再生の不具合回避 検討中 2.80にてコミュニティが改良したが、繰り返し再生回数指定が期待した動作をしなくなるので改良をリクエスト中

表4:mplayerplug-inの改良項目とコミュニティへのフィードバック

   ただし、依然として再生できない動画コンテンツも存在します。Mplayerは20種類以上の動画フォーマットをサポートしていますが、特許やライセンスの関係でOSSの実装が存在しないフォーマットがあるからです。教育用コンテンツにはこのようなフォーマットは使わないように啓蒙してゆく必要があるでしょう。

   なお、改良した動画再生プラグインmplayerplug-inは以下のURLで公開されています。

NSUG Packages Download Site(このサイトのJDS2.0カテゴリにある)
http://dld.nsug.or.jp/xoops/modules/mydownloads/
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三菱総合研究所
著者プロフィール
株式会社三菱総合研究所  比屋根 一雄
情報技術研究部  主席研究員
1988年(株)三菱総合研究所入社。先端情報技術の研究開発および技術動向調査に従事。最近は「OSS技術者の人材評価調査」「日本のOSS開発者調査FLOSS-JP」「学校OSSデスクトップ実証実験」等、OSS政策やOSS技術者育成に関わる事業に携わる。著書に、「これからのIT革命」、「全予測情報革命」、「全予測先端技術」(いずれも共著)などがある。「オープンソースと政府」週刊ITコラム「Take ITEasy」を主宰。


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第2回:つくば市での実証実験
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