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教育現場におけるオープンソース実証実験

第5回:実証実験の評価分析
著者:三菱総合研究所  飯尾 淳   2005/10/13
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LinuxデスクトップPCに対する苦言と期待

   先生方からの代表的な意見を紹介します。Webブラウザやオフィススィート、マルチメディアデータの問題点としてあげられた意見の多くはやはり動画の扱いに関する課題であり、Windows上のアプリケーションとの互換性の問題でした。

   LinuxのデスクトップそのものとOS自身について、もっとも多かった指摘は起動が遅いことでした。ほかには印刷の問題やリムーバブルメディアの操作の問題(マウント/アンマウントの件)といった、OSSデスクトップで一般的に課題とされている事項がすべて指摘されています。

   アイコンやタスクバーが慣れているものと違うといったコメントや、メニューやアイコンの用語がわからないといったGUIについての指摘も目立ちました。これらの問題については、日本OSS推進フォーラムのデスクトップWGへもフィードバックされ、解決に向けての議論が進められています。

   一方、LinuxデスクトップPCが優れていた点として、次のようなコメントを得ました。

  • Windowsよりも安定していて、フリーズしない
  • 画面がきれい、かっこうがよい
  • メンテナンスや管理が容易
  • イラストなどが豊富
  • 多くの生徒にオフィスソフトを使わせることができる

表1:LinuxデスクトップPCが優れていた点

   最初の2つのコメントには補足説明が必要でしょう。学校の現場では、IT機器にかける予算は限られています。そのため多くの学校ではWindows 95やWindows 98が現役のPCとしていまだに使われています。その状況と比較したので、このようなコメントがでたものと考えられます。最新のWindowsやMacと比較しているわけではないことには注意してください。

   メンテナンスや管理が簡単だという意見は、クラスルームPC管理システムの恩恵にあずかった結果が表われています。またイラストなどのコンテンツやオフィスソフトウェアに対する意見はOSSやライセンスフリーなコンテンツを有効活用できたことに対するコメントでした。


児童・生徒からの評価

   さて次に子どもたちを対象に配布したアンケートの結果を紹介しましょう。

   子どもたちを対象としたアンケート調査も先生方へのアンケートと同時期に実施しました。LinuxデスクトップPCを使用したすべての子どもたちに評価してもらいたかったのですが、アンケート実施上の問題から対象を抜粋せざるを得ませんでした。それでも小学校3〜6年生の各学年1クラス、中学校1年生および2年生の各学年2クラスを目処としてアンケート用紙を配布し、合計1023通の有効回答を得ることができました。

   子どもたち向けのアンケートは低学年の子どもにも回答できるようにとても簡単なものにしました(図4)。このアンケートでは、LinuxデスクトップPCの操作に対する習熟度、難易度、LinuxデスクトップPCを使った授業の楽しさ、今後も使っていきたいかどうかについて尋ねています。また裏面には自由な意見を書いてもらいました。

子どもたちへのアンケート用紙(抜粋)
図4:子どもたちへのアンケート用紙(抜粋)
(画像をクリックすると別ウィンドウに拡大表示します)


児童・生徒向けアンケートの分析

   図5〜8に4つの設問に関する学年ごとの集計結果を示します。

子どもたち向けアンケートの集計結果(習熟度)
図5:子どもたち向けアンケートの集計結果(習熟度)

   図5を見ると、過半数の子どもたちは「すぐに使えるようになった」と答えており、子どもの柔軟性が明らかに示されています。

子どもたち向けアンケートの集計結果(難易度)
図6:子どもたち向けアンケートの集計結果(難易度)

   また図6の難易度についても先生に対するアンケートにおける機能性・操作性についての回答とほぼ同様の分布を示しており、7割前後の子どもたちが「簡単だった」と答えています。

子どもたち向けアンケートの集計結果(授業の楽しさ)
図7:子どもたち向けアンケートの集計結果(授業の楽しさ)

   図7の授業の楽しさについては特徴のある結果がでました。というのも、学年があがるにつれて授業が楽しいと感じる比率が少なくなっているのです。これはLinuxデスクトップPCの機能性や操作性に問題があってこのような状況になっているのか、それともそもそもIT利活用授業のあり方の問題なのか、これだけでは判断が難しいところですが、新たな課題として認識すべき状況といえるでしょう。

子どもたち向けアンケートの集計結果(今後の利用意向)
図8:子どもたち向けアンケートの集計結果(今後の利用意向)

   図8のグラフは、Linuxを今後も使って行きたいか、自宅でも使ってみたいかを尋ねた結果であり、非常に興味深い結果が示されています。このグラフにおいて、学年があがるごとに自宅でも使いたい傾向が減っており、特に中学校では顕著です。その理由として、次の理由が考えられます。

  • すでにある程度Windowsに慣れてしまっており、ユーザインターフェースレベルでのWindowsへのロックインが生じていたため
  • 社会に対する認識が拡がり、本プロジェクトの置かれている状況を認識してアンケートに回答していたため(「Windowsで十分でしょ?」という意見もありました)
  • 中学校では比較的複雑なPCの使い方をしてトラブルに遭うことも多かったため

表2:Linuxを今後も使って行きたいか、自宅でも使ってみたいかを尋ねた結果

   ベンダーロックインの解消、IT社会の本質的な構造改革の必要性、OSSの抱える技術的な不足といった、OSS普及への障害といわれている問題が、ここでも明らかになりました。なおプロジェクトでは、各設問間でのクロス集計を取った結果など、もう少し複雑な分析を加えており、それらはIPAから公開されている報告書にすべて記載されています。興味のある方は、ぜひそちらも参照してみてください。

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三菱総合研究所
著者プロフィール
株式会社三菱総合研究所  飯尾 淳
情報技術研究部  主任研究員
1994年(株)三菱総合研究所入社。並列計算機関連、ソフトウェア工学、音響・画像処理関連と幅広いテーマで先端情報技術の研究開発業務に従事。専門は、画像処理とユーザインタフェース。著書に「Linuxによる画像処理プログラミング」、「リブレソフトウェアの利用と開発〜IT技術者のためのオープンソース活用ガイド〜」など。技術士(情報工学部門)。


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第5回:実証実験の評価分析
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LinuxデスクトップPCに対する苦言と期待
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