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システム開発における品質・工期・生産性
ソフトウェアメトリックス調査報告〜システム開発における品質・工期・生産性

第4回:ユーザ企業がシステム評価するためのノウハウの蓄積
著者:日本情報システム・ユーザー協会   2005/11/18
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工期遅延率

   ユーザ企業から収集したアンケートについて、95件のプロジェクトには工期の計画値・実績値がともに記入されており、予定通りの工期を確保できた割合は70%であった。集計結果を見ると、大規模プロジェクトほど遅延度が高いとはいい切れず、なすべきことをなせば予定確保が可能である。

   工期遅延理由の上位2つで全体に対して44%を占めるが、それは「要求仕様決定の遅れ」「要求分析作業不十分」という要求定義フェーズが原因であった。これを解決するためには、要求仕様の内容充実と要件定義の工期確保が必要である。
品質目標の必要性

   日本の製造業各社はハードウェアの製造について品質目標を持っており、例えば「百万個の部品について欠陥は一個以下におさえよう」という目標を掲げているシグマ戦略というものがある。

   では、ソフトウェア産業における品質目標はどのようになっているのだろうか。

   ISO(注1)、CMM(注2)などの基準が示されているが、それらは「開発の各工程においてこのようなことをしなさい」と作り込みのための作業を規定している。ただ、「何をしなさい」は定められていても「誰がしなさい」「目標値をここにおきなさい」などの具体的項目は規定されていない。それが影響してか、ソフトウェアの品質についての具体的な目標値を規定した資料はない。

※注1: ISO(International Organization For Standardization):工業製品の国際標準化を目的とした国際規格
※注2: CMM(Capability Maturity Model):ソフトウェアの開発能力を客観的に示す品質管理基準

   ある日、「当社はCMMのレベル5を取得しております」と、さる有名な外国のソフトウェア企業がソフトウェア開発の売り込みにきた。アメリカではソフトウェア開発の入札基準としてCMM取得を条件としているところが多く、例えば国防総省ではCMMレベル3を要求している。最高クラスのレベル5ということから、この売り込みにはかなりの自信があることが伺えた。

   そこで、「ソフトウェア開発を500万円につき1個以下の潜在欠陥まで抑えて納入していただけるのならば発注しますが、目標を守れますか」と質問したところ、やや考えてから「そのような注文には応じられませんので、今回の話はなかったことにしてください」との回答をうけた。一般的には「できない」ということに対して低い評価をしてしまいがちだが、逆に私は「よくわかっているな」と評価した。自社の実力を計数化して評価していないとこのような即答はできない。

   このようにベンダーのみが自社の実力を数値化して把握していればいいというわけではなく、ユーザ企業からも具体的な要求を提示すべきだと思う。例えば、ベンダーに「潜在欠陥をXX%以下にして納入して欲しい」と発注条件の1つに品質目標を明記するユーザ企業が増えれば、日本のソフトウェア品質は高くなってシステムトラブルは減少し、システムへの信頼性は向上してくる。

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書籍紹介
「ユーザー企業 ソフトウェアメトリックス調査2005」

本連載は日本情報システム・ユーザー協会より発刊されている「ユーザー企業 ソフトウェアメトリックス調査2005」をもとに記事を掲載しています。上記調査報告書は、ユーザ企業からの開発における品質・工期・生産性の標準的な値・指標の声を反映した報告書なっています。調査資料のご購入は下記のリンクより行えます。

 ご購入はコチラ
http://www.juas.or.jp/product/swm05.html


「ソフトウェアメトリックス調査2006ご協力のお願い」

今年度も引き続き当調査を実施いたしますが、今年は開発実績データに加えて、保守に関しても調査項目を設け、保守作業を推進していく際の品質・工期・生産性に関する標準値を分析します。

他社と比較できる絶好の機会となりますので、是非、データのご提供に協力を賜りたく、よろしくお願い申しあげます。調査にご協力いただきました企業の方には、分析結果報告書を2006年4月予定で発送させていただきます。調査に関する詳細は下記URLをご参照ください。
http://www.juas.or.jp/project/survey/sec/2006/2006.html
社団法人 日本情報システム・ユーザー協会
著者プロフィール
日本情報システム・ユーザー協会
社団法人 日本情報システム・ユーザー協会
ユーザーの立場からの産業情報化の推進を目的とし、大手ユーザー企業を中心に、約250社の会員を擁し、経営とITに関する様々なテーマや、立場に応じた40以上の委員会、研究会、研究プロジェクトを実施し、毎年、各種調査・研究報告書の刊行や、提言を行っている。1962年、日本データ・プロセシング協会として創立、1992年社団法人日本情報システム・ユーザー協会として、全面的に拡充改組。
http://www.juas.or.jp/


INDEX
第4回:ユーザ企業がシステム評価するためのノウハウの蓄積
工期遅延率
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