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クライアント/サーバ・システムの時代
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1999年代に入ると、コンピュータの性能が向上し、処理能力の高いクライアントマシンを比較的安価に購入できるようになった。そのため、この時代ではクライアントマシンのリソース(CPUやメモリ、ハードディスク、プリンタ、スキャナなど)を有効活用するようになり、いわゆる「クライアント/サーバ・システム」の開発が行われるようになる。クライアント側のリソースを有効活用したアプリケーションでは、サーバにいちいちアクセスしなくてもクライアント側で多くの処理を行える。例えば、入力チェックやデータ加工・集計処理、グラフ表示、帳票印刷などがそれに当たる。
また、クライアント/サーバ・システムでは、クライアント側の画面表示に、文字列だけでなく、ボタン、リストボックス、ドロップダウンリスト、タブ、ダイアログボックスなどにあたる2次元(2D)のグラフィカルユーザインターフェースが利用可能となり、クライアント側での表現力が向上した。さらに、操作用のインターフェースとして、マウスなどのキーボード以外のインターフェースが使えるようになり、複雑なユーザインターフェース(UI)を持つアプリケーションも容易に操作できるようになった。
このようにクライアント/サーバ・システム時代のクライアントは、メインフレーム時代のクライアントの制約や欠点を解消する形で登場し、表3のような特徴を持つ。
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- クライアントリソースの有効活用(クライアントリソースが豊富になり多くの処理をクライアント側で行うことができる)
- 高い表現力(グラフィカルなUIを画面に自由に配置できるようになり、表現力が向上した)
- 高い操作性(マウスなどのキーボード以外の操作用インターフェースが使えるようになり、操作性が向上した)
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表3:クライアント/サーバ・システム時代の特徴
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本連載では、このクライアントを「ファットクライアント」と呼ぶ。図2は、次回に説明する「リッチクライアント評価」調査の結果から導き出した「ファットクライアントの優位性トップ10」であるが、上記で挙げた特徴がやはり上位に挙がっている。
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図2:ファットクライアント優位点(トップ10)
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ファットクライアントの問題点 (クライアントプログラム配布の非効率)
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しかし、ファットクライアントでは、クライアントプログラムの配布に関して無視できない問題があった。基本的にファットクライアントを利用する場合、すべての(必要な)クライアントマシンに対して、クライアントプログラムの配布やマシン環境の設定を導入時およびバージョンアップ時に逐次行う必要があり、運用に多大なコストがかかるという問題をはらんでいた。
例えば、Excelで開発したクライアントプログラムを利用する場合には表4のような問題が発生した。
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- すべてのクライアントマシンにExcelをインストールする必要がある
- Excelで開発したクライアントアプリケーションプログラムをCD-ROMなどで配布する(この時代、ネットワークを通してクライアントアプリケーションプログラムを配布できるほど、ネットワーク回線は太くなく、インフラも整備されていなかったため、通常CD-ROMやフロッピーディスクで配布されていた)
- 配布されたExcelアプリケーションプログラムを動作可能とするためのデータベース接続設定(アダプタのインストールも必要)やネットワークの設定(ネットワーククライアントソフトウェアのインストールも必要)などのクライアントマシン側の設定をクライアントマシンごとに設定する必要がある
- Excelで開発したアプリケーションプログラムのバージョンアップや修正パッチなどを行う場合もCD-ROMやフロッピーディスクなどでプログラムや修正パッチを配布する
- Excel自体がバージョンアップした場合、社内に複数のExcelバージョンが存在するようになり、その複数存在するExcelにそれぞれに対応したExcelアプリケーションを用意し、管理していかなくてはならなくなる(Excel自体をすべてのクライアントマシンでバージョンアップすればよいとの判断もあるが、複数のExcelアプリケーションを利用している場合、すべてのExcelアプリケーションをバージョンアップしたExcelに合わせて開発し直す必要が生ずる)
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表4:Excelを使用したファットクライアントの問題点の例
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このように配布や保守に関する手間が非常に多く、クライアント数が増加すればするほど、問題が大きくなる。図3は次回に説明する「リッチクライアント評価」調査の結果から導き出したファットクライアントの優位性ワースト10である。これを見ると、配布やクライアント環境に対する項目が欠点の上位を占めていることがわかる。
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図3:ファットクライアントの優位点(ワースト10)
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著者プロフィール
株式会社野村総合研究所 田中 達雄
1989年4月に富士通株式会社に入社。ソフトウェア工学を専門分野とし「UMLによるオブジェクト指向開発実践ガイド(技術評論社出版)」を共著。2001年2月に野村総合研究所に入社。現在、情報技術本部にてIT動向の調査と分析を行うITアナリスト集団に所属。Webサービス/BPMなどの統合技術、エンタープライズ・アーキテクチャなどが専門。
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