Gen AI Times 第84回

【5時間でグローバルチームを組成し、見えた限界と確信】YCハッカソンで学んだ、「仮説に賭け切る力」

Y Combinatorの注目領域に5時間で挑むAIハッカソン「c0mpiled」に参戦。初対面の多国籍メンバーとチームを組んで見えた、世界で通用する力と、勝負を分ける「仮説に賭け切る力」をレポートします。

田中 悠介

6:30

「Make something people want(人々が欲しがるものを作れ)」。Dropboxや、Airbnb、Stripe、Zapier、錚々たるスタートアップへの投資や支援を行っている世界トップクラスのスタートアップ支援プログラムの Y Combinator(以下、YC)、あのサム・アルトマンも代表を務めたこのプログラムが掲げるこの有名な哲学は、頭では理解していても、極限の環境下で実践するのは容易ではない。

先日、YCの注目領域をテーマにしたAIハッカソン『Transpose x 立命館大学 x 大阪大学VC「c0mpiled」』に参加した。YC CEOであるGarry Tan氏の登壇から幕を開け、直近のハッカソン受賞者がメンターとして伴走するという、熱気に満ちたイベントだ。

【参照】「Y Combinatorホームページ」
「Y Combinator連携ハッカソン「c0mpiled」紹介ページ」(立命館大学ホームページ)

筆者もこのイベントに参加し、初対面の多国籍メンバーを集め、わずか5時間でプロダクトを形にするという短期決戦に挑んだ。本稿では、この極限のハッカソンを通じて得た「ポータブルスキルの確信」と、起業家・事業家として突きつけられた「意思決定の壁」について、リアルな振り返りを共有したい。

会場案内の写真:当日の朝早くに多くの人が集まっていた

業界トップランカーから学ぶ「世界が求めるスタートアップ基準」

イベントには252名の応募があり、当日は学生から海外エンジニア、社会人まで183名が参加した。オープニングでは、Transpose PlatformのパートナーであるJames Tan氏の進行のもと、来日したGarry Tan氏との兄弟対談が実現。世界の投資家が今まさに注目しているAI開発の最前線について、熱いトークセッションが繰り広げられた。

さらに、前回大会(サンフランシスコ)の優勝者や、YC卒業生企業であるLinzumiのファウンダーらがジャッジ・メンターとして登壇した。

審査員及びスペシャルゲスト一覧。日本では通常想像できないゲスト達だった。

筆者の5時間一本勝負。見えた「通用する力」と「突きつけられた壁」

ハッカソンの制限時間はわずか5時間。架空の課題ではなく、YCが今まさに注目している領域に対し、チームごとに課題を見つけ、仮説を立て、プロダクトとして形にすることが求められる。

Garry Tan氏が開発したツール「GStack」や「GBrain」などの考え方も柔軟に活用し、会場ではピザを片手に熱のこもった開発が展開された。

筆者自身も、初対面の多国籍メンバーを集め、あっという間にグローバルチームを組成して開発サイクルを回した。英語でのコミュニケーションや「YC」という看板のプレッシャーはあったが、自身の「チームアップ力」や「5時間でアウトプット(納品)まで丸める力」は、世界基準の環境でも通用すると確信できた。

しかし一方で、トップレベルの環境だからこそ浮き彫りになった「伸びしろ」もあった。それは、自身の強みでもある「情報感度の高さ」が招く罠だ。周囲の新しい情報や意見を拾い上げる能力が高いがゆえに、情報を集めすぎてしまい、短期決戦において肝心の「意思決定」がブレそうになる瞬間があったのだ。

チームを綺麗にまとめ、納品する力はあくまで前提にすぎない。非連続な成長を生み出すために最後に勝負を分けるのは、微かなシグナルを掴んだ自身の仮説に対し、周囲のノイズをシャットアウトして退路を断ち「賭け切る力(リスクを取る力)」である。この泥臭い事実を、YCのハッカソンは突きつけてきた。

12:00までにチームを作り、18:00までにはプロダクトを完成させないといけない。想像以上にスピードが求められており、集中力とチームビルディング力が必要。

審査結果:知人チームの準優勝と、大学発スタートアップの躍進

5時間の開発を終え、2分間のデモピッチとYC卒業生らによる厳正な審査が行われた。結果、以下のチームが見事受賞を果たした。

  • 1st Place(賞金25万円):KashinAI
  • 2nd Place(賞金10万円):Nextroots
  • 3rd Place(賞金5万円):Xpert OS

特に準優勝に輝いた「Nextroots」は、筆者の知人でもある北河正洋氏(ACTIVATION Lab卒業生)が率いるチームだ。彼らが極限の時間内で見せたプロダクト開発と戦略は見事の一言であり、心からの賛辞を贈りたい。

また、特別賞やカンパニー賞も発表され、受賞者にはYCパートナーのOffice Hoursへの招待やメンタリングなどの豪華プライズが提供された。Most Investable賞を受賞した「Vinagang」がメンバー全員立命館大学の関係者であったり、カンパニー賞の「Omnibrain」が立命館大学発スタートアップで構成されていたりと、学生や若手起業家たちの目覚ましい活躍が光った。

最も必要なのは「自分の仮説に賭け切る」力

今回のハッカソンにおける最大の学びは、自身のスキルセットの棚卸しと、次に獲得すべき能力の明確化である。

  • 情報を集める力はある。
  • 人を集め、チームを作る力もある。
  • プロジェクトを形にする力もある。

では、何が足りないのか?それは、「微かなシグナルを掴んだ自分の仮説に対し、退路を断って賭け切る力」である。

スタートアップの世界、特にYCが求めるような非連続な成長を生み出すには、時に周囲のノイズをシャットアウトし、リスクを取って「エゴ」を貫くフェーズが必要になる。多様な意見を調整し、綺麗にまとめるだけでは不十分なのだ。

「仮説検証をしたい」と言い続けること。そして、その仮説に対して「もっとリスクを取る」こと。この泥臭いもやもやこそが、次のブレイクスルーへの鍵になると確信している。

筆者チームメンバー、他スタートアップのCTOもいたりとレベルの高い構成だったが、決断で差が出たと感じた

おわりに:「挑戦をもっと自由に」を体現する場として

今回の「c0mpiled」は、立命館が学園ビジョンとして掲げる「挑戦をもっと自由に」を体現する、国際的なスタートアップコミュニティ形成の大きな一歩となった。筆者を含め、限られた時間の中で世界基準の課題に挑んだ熱狂と、そこで得た「仮説に賭け切る覚悟」は、間違いなく次のイノベーションの原動力になる。ここから世界を変える企業が生まれる日を楽しみにしたい。

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