Auth0のデベロッパーアドボケイト池原大然さん
第6回の今回は、Oktaが提供するAuth0のデベロッパーアドボケイトとして活躍する池原大然さんを紹介します。
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はじめに
DevRelに関わる人たちは増えている一方で「なぜDevRelに関わるようになったのか」「どういったキャリアを歩んで現在があるのか」については、あまり明らかにされていません。それぞれ異なるキャリアを歩んできていますが、その共通項を探っていこうというのが本連載の目的です。DevRelとしてのキャリアに興味がある方に、ぜひ読んでほしいです。
第6回目となる今回は、Auth0のデベロッパーアドボケイトを務める池原大然さんに、これまでのキャリアとDevRelとの関わりについてお話を伺いました。
偶然の登壇から始まったDevRelキャリア
池原さんが開発会社のプログラマー・SEとして、エンジニアとしてのキャリアを歩み始めたのは26〜27歳になる頃でした。その後、外資系企業に転職してテクニカルサポートを担当します。
DevRelにつながる最初の出来事は、当時の会社でデベロッパーエバンジェリストの担当者が退職したことでした。すでに社としてカンファレンスへの登壇が決まっていたものの、話す人がいない。そこで池原さんに声がかかりました。
それまでSEとして顧客と話す経験はあったものの、不特定多数の人に技術について伝えるのは初めてでした。池原さん自身「なんで自分なんだろう」という感覚もあったそうです。
人前で話すこと自体に強い抵抗があったわけではありません。一方で、技術的な内容を分かりやすく伝える経験はほとんどなく、最初の登壇ではかなり緊張したと振り返ります。
「目の前にいる人たち全てがプロフェッショナルに見える、自分よりも知っている人たちが多いなっていう感覚でした」
この感覚は長くDevRelを経験した現在でも残っており、自分より製品について詳しい利用者がいる可能性を常に意識していると言います。だからこそ、すべてを知っていることよりも分からないことを認めて調べ、きちんと相手に返すことを大切にしています。
その後、インフラジスティックス・ジャパンでテクニカルサポートを続けながらデベロッパーエバンジェリストやプリセールスを兼任し、2009年頃に正式にデベロッパーエバンジェリストのタイトルを持つようになりました。
当時の仕事は技術登壇やブログ記事の執筆、取材対応などに加え、営業を技術面から支援するプリセールス要素が強いものもありました。その後もソリューションコンサルタント、プロダクトマーケティング、フィールドマーケティング、TAMなど、複数のロールを経験しています。
「仕事としてDevRelをやりたい」と考えてTwilioへ
キャリアの中で、組織変更によりデベロッパーエバンジェリストという役割自体がなくなり、ソリューションコンサルタントへと移行していきました。池原さんはその頃から「自分は仕事としてDevRelを続けたいと考えるようになった」といいます。
そんな時期に参加した「DevRelCon Tokyo 2019」で、Twilioが求人を出していることを知りました。インフラジスティックス出身者がTwilioの初期のエバンジェリストとして働いていたこともあり、会社自体には以前から接点がありました。その場でX(Twitter)からDMを送り、それがTwilioへの転職につながりました。
意外にも、その時点ではTwilioのプロダクトについて詳しかったわけではありませんでした。入社後のオンボーディングで実際に触り、「めちゃくちゃ面白い」と感じたそうです。
Twilioでは、日本での認知度向上やコミュニティの拡大を担いました。池原さんが入社して驚いたのは、グローバルのエバンジェリストたちが、それぞれに強みを持っていたことです。プロダクトに貢献するツールを作る人もいる中、池原さん自身はコミュニティ系のタイプだと捉えており、周囲に追いつくためにキャッチアップしようという意識を強く持ったといいます。
登壇する人から
周囲を巻き込んでプロジェクトを動かす人へ
Twilioではデベロッパーエバンジェリストからスタッフ、プリンシパルと役職が上がっていきましたが、「日本におけるDevRelを担う」という基本的な仕事は大きく変わりませんでした。一方で、役職が上がるにつれて得られたのが、他の人や部署を巻き込んでプロジェクトを進める機会です。
登壇やブログ執筆を自分1人で完結させるだけではなく、日本でキャンペーンを実施するためにフィールドマーケティングと調整したり、他部署と連携したりする。Twilio Questの日本語化では、関係するチームと調整しながら、自身が責任を持ってプロジェクトをリードしていきました。
Twilioでは、グローバルで決めた施策を各地域へ一律に展開するのではなく、それぞれのエバンジェリストが重要だと考えたことを進める文化がありました。池原さんも、日本の開発者が何を気にするのか、グローバルのキャンペーンが日本でも機能するのかといった日本に根ざした視点を社内に伝えていました。
こうした経験から見えてくるのは、DevRelが単に情報を発信するだけではなく、社内外のさまざまな人と調整しながら活動を形にしていく仕事でもあるということです。
開発者と並走しながら、社内外の接点をつなぐ
現在の池原さんは、OktaでAuth0のデベロッパーアドボケイトとして活動しています。
池原さんによると、Twilio時代のデベロッパーエバンジェリストは、開発者への訴求やテクニカルマーケティングの要素が比較的強いロールでした。一方、Auth0のデベロッパーアドボケイトは開発者と並走し、プロダクトへのフィードバックやプロダクトそのものへの関わりを強めていく考え方を感じたといいます。
ただし、エバンジェリストとアドボケイトで根本的に役割が違うという訳ではありません。
「求められることをやっていくことが正しいと思っています」
セールスの支援が必要ならセールスに関わることも否定しません。その背景には、インフラジスティックス・ジャパン時代にサポート、プリセールス、マーケティングなど複数の仕事を経験してきたこともあるのではないかと池原さん自身は分析しています。
社内で特に意識しているのは、他部署とのコミュニケーションです。相手の立場や気にしていることを理解し、DevRel側との考え方に違いがあれば、双方が納得できる着地点を探します。
現在、日本でデベロッパーアドボケイトとして活動するのは池原さん1人です。そのため、マーケティングやセールスの定例ミーティングにも参加しています。そこで数字を直接持ったりタスクを受けたりするわけではありませんが、自分が今何をしているのか、どのような協力ができるのかを伝えています。DevRelだけで仕事を完結させるのではなく、必要な時に互いに相談できる状態を維持しているのです。
「コミュニケーションのパスは常にオープンにしています」
社外では、特にユーザーとの交流を重視しています。カンファレンスへの参加や登壇も好きだとしながらも、それ以上に製品を使っている人から良いことも悪いことも直接聞けるコミュニティ活動を大切にしています。
その一環として「dev_night」というミートアップを開催しています。このミートアップは元々東京開催でしたが、最近ではそれ以外の都市にも活動を広げています。また、過去に終了したグローバルのプログラムを、日本独自の「Auth0 Heroes」として復活させる取り組みも進めています。
【出典】https://x.com/Neri78/status/2011423022864007534
DevRelを経験するとエンジニアの時間は減るが
経験は次のキャリアに活きる
エンジニアからDevRelへキャリアを移していく際に、池原さんが懸念点として挙げたのが時間に関する問題です。
登壇だけを見れば華やかな仕事に見えます。しかし、その裏側には多くの準備期間があります。登壇や記事、コミュニティ活動などに時間を使えば、当然ながらエンジニアとして技術に使える時間は少なくなります。
池原さん自身も、サポート業務をしながら登壇やブログ執筆をしていた頃には、勤務時間外の作業が増えました。グローバルチームとの仕事では海外の時間に合わせたミーティングもあり、現在でも出張が連続するなど、自分のキャパシティを超えなければならない瞬間があると話します。そのため、DevRelにはタイムマネジメントも欠かせないと考えています。
一方で、DevRelの道を一度選んだからといって、その後もDevRelだけを続けなければならないわけではありません。池原さんの知っている範囲でも、DevRelから別のロールに戻る人も数多くいると話します。その際、DevRelで身につけた経験はプロマネやマーケティング、プリセールスなど別の仕事に移ったとしても生き続けると言います。
DevRelはエンジニアとしてのキャリアを捨てる選択ではなく、そこで得た経験を別のキャリアへ持っていくこともできる仕事だと池原さんは捉えています。
技術力を前提に
聞く力、企画する力、準備する力が求められる
これからDevRelを目指す人に必要なものを尋ねると、池原さんから最初に出てきた言葉は「人間力」であり、「コミュニケーション能力」でした。
一方で、技術的に非常に尖った強みを持ち、ツールやOSSを作ることでDevRelとして活躍する人もいます。そのため、自分がどのようなタイプのDevRelを目指すのかを考えることも重要だと言います。
また、デベロッパーアドボケイトだからといって製品のすべてを知っている必要はないと池原さんは考えています。もちろん、最低限の製品知識は必要です。しかし、自分が知らない技術やサービスに出会った時に、それを認めて調べて相手に回答するといった、足りない知識を継続的に学んで補完していくことの方が重要です。
社内で仕事を進める際には、まず相手の話を聞き、相手の立場を考えることも意識しています。そしてグローバルな環境では、英語力だけでなく事前準備を重視しています。ミーティング前にはアジェンダやメモのドラフトを用意し、何を話して何を確認するのかを整理しておきます。英語で十分に表現できない可能性があるからこそ、あらかじめ英語でメモを共有しておくこともあるそうです。
さらに、これからDevRelの仕事を目指すエンジニアの最初の一歩として池原さんが勧めるのが「カンファレンスのスタッフを経験すること」です。
DevRelでは技術的な素養を前提として、人とのコミュニケーションだけでなく、プロジェクトを企画し、運営していく能力も必要になります。カンファレンススタッフを経験すれば、表からは見えない運営側のさまざまな仕事を疑似体験できます。
そこで「面白い」と感じれば、自らコミュニティを企画する方向へ進むこともできます。特にDevRelの担当者が少ない組織では、一人親方のように自分で仕事を作って進めなければならない場面があります。そうした環境に備える意味でも、企画から運営まで経験しておくことには価値があると池原さんは話します。
東京、そしてAPACへ。
地域とのつながりをさらに深めたい
今後取り組みたいこととして、池原さんは大きく2つの目標を挙げました。1つは、日本国内でコミュニティ活動をさらに広げることです。
現在は東京を中心とした活動が多い中、ミートアップやプログラムを東京以外の都市にも広げ、それを継続できることを示したいと考えています。地方開催では参加人数やROIといった課題もありますが、安易にオンラインだけに置き換えるのではなく、実際に各地域へリーチする活動を進めたいといいます。
もう1つが、日本以外への貢献です。
すでにオーストラリアやシンガポールのカンファレンスにも参加しており、今後はAPAC各国とのつながりをさらに強めたいと考えています。単純に訪問する国を増やすのではなく、特にオーストラリアやシンガポールでは、現地のコミュニティとの関係をより深くしていきたいそうです。
ただ海外へ行くこと自体を目的とするのではなく「行く理由がちゃんとある状態にしたい」と言います。
DevRel活動には意味と成果が必要です。その土地で活動する理由を作りながら、次につながる関係を築いていく。それが今後の目標だと言います。
DevRelは自分の言葉が
誰かの行動を変える体験を得られる
池原さんの話を聞いて印象に残ったのは、DevRelという仕事を特定の活動や役割だけで定義していないことでした。
技術を伝える、ユーザーの話を聞く、コミュニティを作る、セールスやマーケティングと協力する、グローバルのチームに日本の状況を伝える、必要に応じてプロジェクトそのものを企画し、周囲を巻き込みながら実行する…その時々で必要とされることに向き合ってきた積み重ねが、池原さんのDevRelとしてのキャリアを作っています。
インタビューの最後に、池原さんはこの仕事を続ける上での励みについて話してくれました。
「自分が伝えたことで、世界だったり、聴衆の行動が変わる。『試してみました』『やりました』『やってよかったです』って言われることが、すごく励みになる仕事だと思います」
DevRelに挑戦した結果、後から別の職種を選ぶことになったとしても、その経験がなくなるわけではありません。まずは登壇やカンファレンス運営など、自分が参加できる場所から実際に経験してみる。その先に、自分にとってDevRelがどのような仕事なのかが見えてくるはずです。
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