Gen AI Times 第85回

【AIに相談して買う時代、購入まで任せたい?】調査から見えたAIコマースの課題

本連載は、生成AIコミュニティ「IKIGAI lab.」のメンバーが、生成AIに関するニュースを紹介・深掘りしながら、AIがもたらす「半歩先」の未来をご案内します。

鍋谷 美帆

6:30

本連載は、生成AIコミュニティ「IKIGAI lab.」で活動するメンバーが、それぞれの専門領域で培ってきた知見を持ち寄りながら、生成AIを取り巻く動向を技術・ビジネス・ガバナンスの観点から整理しお届けしています。

NTTデータが2026年9月30日に公表した「GenAI生活者インサイトレポート2026 ISSUE 02」では、AIが買い物の意思決定に与える影響が拡大しつつあることが見えてきました。

同年8月に全国の15〜69歳のAI利用経験者3,948人を対象に実施した調査では、商品・サービスの購入・利用時にAIを使った人の約7割が、AIの提案をそのまま採用した経験があると回答。その割合は3月の前回調査から約8ポイント上昇しており、商品を選ぶ際にAIの提案を取り入れる動きが広がっています。

ChatGPTやGeminiに買い物の相談ができること自体は、すでに知られています。では、AIが購買判断に使われる背景には何があり、その提案を購入につなげるには何が必要なのでしょうか。国内の調査結果と、2026年に発表された各社の取り組みから考えてみます。

【出典】「GenAI生活者インサイトレポート2026 ISSUE 02」(NTTデータ 2026/09/30)

なぜAIが買い物の判断材料になっているのか

商品を選ぶ際には、価格や仕様、レビュー、用途との相性など、比較する観点がいくつもあります。候補が増えると、それぞれの違いを確かめながら、何を優先するか迷うこともあるでしょう。

AIを使うことで、こうした比較や条件整理の手間を軽減できます。希望する条件に沿った候補の絞り込みや、商品の特徴・違いの整理などを任せられるためです。

9月30日公表のNTTデータの詳細レポートでは、AIの提案を採用した1,662人に、その理由を複数回答で尋ねています。最も多かったのは「自分で検索・比較するより速く、手間が省けた」で47.7%でした。

さらに、「自分だけではたどり着けない提案だと感じた」が33.0%、「自分の条件・好みに合わせてパーソナライズされていると感じた」が29.4%と続きます。

効率性に加え、新たな候補の発見や、自分の条件・好みへの適合も、AIの提案を採用する理由になっていると読み取れます。

サービス側も、比較の負担を減らす方向に機能を整えています。OpenAIが3月24日に発表したChatGPTの商品探索機能の強化では、価格やレビュー、特徴を並べて比較できる表示などが紹介されました。複数のサイトを行き来しながら、違いを確かめる作業を支援するものです。

【出典】「ChatGPT での商品探しをもっとスムーズに」(OpenAI 2026/03/24)

一方、検討が速く進むことと、判断の前提となる情報が正しいことは別の問題です。候補を選べても、購入先で価格や条件が変われば、その判断を見直さなければなりません。

AIによる商品選びは、購入までつながるのか

NTTデータの調査では、商品・サービスの検討時に経験した困りごとについても尋ねています。約2割が、AIの回答と企業の公式サイトや窓口で聞いた内容が食い違っていたと回答しました。また、AIの提案に納得しても、別のサイトやアプリに移らないと申し込み・予約・購入に進めないことも、困りごととして挙げられています。

これらを含む何らかの困りごとを経験した人は37.9%にのぼり、そのうち約3分の2が、こうした問題を理由に購入や契約をやめたことがあると回答しています。

【出典】「GenAI生活者インサイトレポート2026 ISSUE 02」(NTTデータ 2026/09/30)

情報が食い違えば、利用者は商品の仕様や購入条件などを確認し直す必要があります。また、購入先へ移る際に同じ商品を探し直したり、条件を再入力したりする場合には、AIで省けた手間が再び生じると考えられます。各社は、こうした情報の不一致と購入導線の不便さに関わる部分で、販売事業者との連携を進めています。

商品情報の正確性を高める取り組み

OpenAIは3月24日、販売事業者とAIサービスをつなぐAgentic Commerce Protocol(ACP)を商品探索に対応するよう拡張したと発表しました。販売事業者は、商品情報をまとめた商品フィードやプロモーション情報をACP経由で共有できます。

販売側の情報を直接取り込み、ChatGPTで利用する商品情報の正確性や網羅性を高め、最新の情報を反映しようとする取り組みです。

商品選びから購入までをつなぐ取り組み

購入手続きについてOpenAIは、販売事業者が購入方法を選べるよう、独自のチェックアウトも活用できるようにする方針を示しました。

【参照】「ChatGPT での商品探しをもっとスムーズに」(OpenAI 2026/03/24)

具体的な接続例がShopifyです。同社は同日の発表で、「Agentic Storefronts」を通じて、数百万の販売事業者がChatGPTで販売できるようになると説明しました。

ユーザーはShopify Catalogが提供する商品情報をもとにChatGPT上で商品を探し、ChatGPT内のブラウザで販売事業者のストアから購入できます(デスクトップでは別タブでストアを開きます)。販売事業者が設定した価格や決済方法などが引き継がれ、販売事業者は引き続き販売主体(merchant of record)として、顧客との関係やデータを保持します。

【出典】「Millions of merchants can sell in AI chats」(Shopify 2026/03/24)

一方、Googleは10月15日、「Universal Cart」の提供を米国のGoogle検索とGeminiアプリで開始したと発表しました。複数店舗の商品を1つのカートにまとめて管理でき、値下げや在庫復活の通知にも対応します。

購入時は、対応する販売事業者であればUniversal Cart内でGoogle Payを用いて決済でき、販売元のサイトにカートを引き継いで決済する方法もあります。いずれも販売主体は事業者側にあり、購入確認やサポートも事業者が行います。(10月18日時点では米国のみの提供で、日本での提供予定は発表されていません。)

【参照】「An intelligent new shopping cart」(Google 2026/10/15)

商品情報の連携・同期は、AIの回答と販売側の情報の不一致を解消するための取り組みと捉えられます。一方、ストアの接続やカートの連携は、商品を選んだ後に購入へ進む経路を整えるものです。

売り手にとっても、AI経由の買い物への対応は、新しい販売窓口を増やすだけでは済みません。商品説明や仕様を正確に伝え、価格・在庫の変更を反映できるようにする必要があります。こうした整備は、提案された内容と実際の販売条件が食い違うのを防ぐための基盤と言えるでしょう。

買い物のどこまでをAIに任せるのか

商品情報と購入手続きの接続は、AIで商品を探した利用者が、購入まで円滑に進むための仕組みです。そこからさらに、商品の最終的な選択や購入・決済をAIへ委ねるかどうかは、別の問題になります。便利に購入できるようになったとして、利用者は判断をどこまでAIに任せたいのでしょうか。

NTTデータの調査では、AIを使う段階に商品カテゴリごとの違いが見られました。食品・飲料や日用品・消耗品では情報収集での利用が目立ち、家電・デジタル機器などでは候補を絞る比較検討での利用が目立ちます。一方、AI利用経験者全体に尋ねた自動購入への意向では、日用品・食品の再購入でも、任せてもよいとする回答は約4割でした。

AIの提案を採用して自分で購入することと、購入手続きまでAIに任せることでは、商品や金額を確認する機会が変わります。

例えば、いつも買う洗剤なら銘柄や容量、数量、上限金額を指定しやすい一方、初めて購入する高額な家電では比較の途中で重視する条件が変わり、候補選びは任せても、最終判断は自分で行いたい場合もあるでしょう。購入条件の明確さによって、任せやすい範囲は異なると考えられます。

NTTデータの調査では、事前に決めた金額を超える場合の本人承認や、購入後一定期間の無条件キャンセルの仕組みがあれば、任せられる範囲が広がるとの回答が、それぞれ約4割ありました。

【出典】「GenAI生活者インサイトレポート2026 ISSUE 02」(NTTデータ 2026/09/30)

この結果からは、AIの能力だけでなく、判断に介入したり、結果を取り消したりできることも、委任を考える際の条件になると読み取れます。すべての買い物で確認を求めれば手間は残りますが、一切の確認をなくせば利用者の意向から外れるおそれがあります。

サービスを設計する際には、候補の比較まで、購入前の承認まで、指定条件内での自動購入までといった範囲を、利用者が選べることに意味があるでしょう。例えば、指定した商品が欠品していた場合に、代替品を自動で選ぶのか、本人へ確認するのかでも、委ねる判断は変わります。

承認画面を用意するだけでなく、何を任せたのか、いつ自分の判断が必要になるのかが分かることも重要と思われます。自動化の範囲を広げることと、利用者が買い物をコントロールできることを、両立させる必要があると考えます。

AIコマースの次の課題

今回の調査からは、AIの提案を購買判断に取り入れる動きが広がっていることが分かります。情報を集め、候補の違いを整理する負担を軽減できることは、その背景の1つと考えられます。

ただし、選びやすくなっても、購入先で情報や条件が食い違えば、その利便性は損なわれます。各社による商品情報や購入手続きの連携は、この隔たりに対応する取り組みとして見ることもできるでしょう。さらに、購入へ進める仕組みが整っても、利用者が任せたい範囲は一様ではありません。

AIコマースの進展を考えるうえでは、提案の巧みさや自動化の範囲だけでなく、商品選びから購入までの体験にも目を向ける必要があります。正確な情報を基に商品を選び、納得した条件で購入でき、必要な場面では利用者自身が判断できる。こうした一連の体験を整えることが、AIを使った買い物を継続的な選択肢にするための課題ではないでしょうか。

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