Gen AI Times 第83回

【AIと著作権】フェアユースなら、使っていい?

本連載は、生成AIコミュニティ「IKIGAI lab.」のメンバーが、生成AIに関するニュースを紹介・深掘りしながら、AIがもたらす「半歩先」の未来をご案内します。

瀧口 真人

6:30

本連載は、生成AIコミュニティ「IKIGAI lab.」のメンバーが、それぞれの専門領域で培ってきた知見を持ち寄り、技術・ビジネス・ガバナンスなどの多角的な視点から最新のAI動向をひも解いていきます。

近年、企業における生成AIの活用が進んでいます。

総務省「令和8年版 情報通信白書」では、日本企業の生成AI活用方針の策定状況が広がっていることが示されています。

【出典】「令和 8 年版 情報通信白書」(総務省) P22 第2章 第1節 企業におけるAI利用の現状 より

2024年度の企業向け調査では「積極的に活用する方針」「活用する領域を限定して利用する方針」を併せて5割程度(49.7%)であったものが、2025年度は7割に迫る勢い(68.9%)を見せています。

一方、企業が生成AI活用について懸念するリスクとして「情報漏洩などのセキュリティリスク」(46.4%)「出力結果の精度」(35.3%)に次いで「著作権等の権利を侵害する可能性がある」(31.3%)が挙げられています。

【出典】「令和 8 年版 情報通信白書」(総務省) P26 第2章 第1節 企業におけるAI利用の現状 より

つまり、企業は生成AIを使い始める一方で、セキュリティリスクや著作権については不安を抱えていることが読み取れます。

今回は、著作権にフォーカスし、実際にAIによる著作物の利用が裁判で争われた場合、どのように判断されるのかを、米国で注目を集めたThomson Reuters対ROSS Intelligence事件を具体例として取り上げてみたいと思います。

AIによる学習は「フェアユース」ではなかった?

筆者がAIで生成

今回取り上げるトムソン・ロイター対ROSS Intelligence事件(Thomson Reuters Enterprise Centre GmbH v. ROSS Intelligence Inc.)はどういったものなのでしょうか?

以下に簡単に時系列と出来事をまとめました。

時期裁判所・出来事何が起きたか
2020年5月デラウェア州連邦地裁に提訴トムソン・ロイターがROSS Intelligence(以下、ROSS)を提訴。Westlawのヘッドノートなどを利用して作成されたデータを用いてAI法律検索サービスを開発したことについて、著作権侵害などを主張。
2021年3月デラウェア州連邦地裁ROSS側の「訴えを退けてほしい」という申立てを地裁が却下し、 訴訟は続行。
2023年9月同地裁フェアユースについて、まだ裁判官が確定的に判断できないと判断。 事実関係に争いが残っており、陪審で判断すべき問題があるとした。
2025年2月同地裁2023年の判断を修正。改めて検討した結果、ROSSによる利用はフェアユースではないと判断し、問題となったヘッドノートについてトムソン・ロイター側に部分的なサマリー・ジャッジメント(*)を認めた。
2025年5月同地裁ROSS側の申立てを受け、地裁が「中間上訴」を認めた。 重要な法律問題について控訴審の判断を仰ぐため、控訴審の判断を待つ間、訴訟を停止した。
2026年9月第3巡回区控訴裁判所ROSS側の中間上訴について判断。 地裁の判断を支持し、ヘッドノートの著作権保護を認めるとともに、ROSSによる利用はフェアユースではないと判断。

*: サマリー・ジャッジメント:重要な事実について争いがなく、法律上の判断だけで結論を出せる場合などに、正式なトライアルを経ずに裁判所が判断する手続。

【参考文献】
「Thomson Reuters Enterprise Centre GmbH et al. v. ROSS Intelligence Inc.」(デラウェア州連邦地方裁判所 2021/03/29)
「Thomson Reuters Enterprise Centre GmbH et al. v. ROSS Intelligence Inc.」(デラウェア州連邦地方裁判所 2023/09/25)
「Thomson Reuters Enterprise Centre GmbH et al. v. ROSS Intelligence Inc.」(デラウェア州連邦地方裁判所 2025/02/11)
「Thomson Reuters Enterprise Centre GmbH et al. v. ROSS Intelligence Inc.」――中間上訴を認めた意見(デラウェア州連邦地方裁判所 2025/05/23)
「Thomson Reuters Enterprise Centre GmbH v. ROSS Intelligence Inc.」(第3巡回区控訴裁判所 2026/09/29)

ROSSはAIを利用したサービスを開発しましたが、生成AIのように新しい文章を生成するサービスではなく、自然言語による質問に応じて関連する法律情報を検索するAI法律リサーチツールでした。その開発の過程でトムソン・ロイターの提供するWestlawのヘッドノートを含むデータを利用しました。これに対してトムソン・ロイター側が著作権侵害を主張し、ROSS側は、利用はフェアユース(fair use)に当たると主張した、というのが本訴訟の概要です。

ここで重要なのは、ROSSが利用したのが「裁判所が公開した判決文」そのものではなく、Westlawが判決を整理・検索しやすくするために作成した「ヘッドノート」だったことです。今回の裁判では、このヘッドノートに著作権が認められるのか、そしてROSSがそれをAIの学習に利用したことがフェアユースに当たるのかが争われました。

結果として2026年9月に、米第3巡回区控訴裁判所は、ROSSによるWestlawのヘッドノートの利用について、フェアユースには当たらないとの判断を示しました。

ROSSはなぜ「フェアユースだから許される」と考えたのでしょうか?そして、なぜ裁判所はそれを認めなかったのでしょうか?

そもそも「フェアユース」とは何なのか?

筆者がAIで生成

大前提としてフェアユースはAIのために作られたルールではありません。

フェアユースは生成AIよりはるか昔から存在する

フェアユースとは米国著作権法第107条に規定されている、著作権による保護と、社会における著作物利用のバランスをとるために発展してきた考え方です。

【参考文献】「17 U.S.C. §107 — Limitations on exclusive rights: Fair use」

著作権の保護を優先しすぎると、著作物を利用した批評や研究、教育などの活動まで制限され、結果として文化や技術の発展を妨げる可能性があります。一方で、著作物を制限なく自由に利用できるとしてしまうと、著作者の権利や創作への対価が損なわれてしまいます。

そこで米国では、一定の利用について、著作権者の許諾がなくても「フェアユース」として認める考え方が発展してきました。ただし「この条件を満たせば必ずフェアユース」という単純なルールではありません。

「4つの要素」で判断

米国著作権法第107条では、フェアユースを判断する際に考慮する要素として、次の4つを挙げています。

  1. 利用の目的・性質
  2. 利用された著作物の性質
  3. 利用された部分の量・重要性
  4. 利用による市場への影響

これらを個別に機械的に判定するのではなく、案件ごとの事情を踏まえて総合的に判断します。実際、米国議会の立法資料でも、フェアユースについて「個々の事件の事実に基づいて判断する」という考え方が示されています。

そして、トムソン・ロイター対ROSS Intelligence事件をめぐる裁判でも、この4つの要素が判断の中心となりました。

【参考文献】「H.R. Rep. No. 94-1476(1976年)— 米国著作権法改正に関する下院司法委員会報告書」
(p.65から「SECTION 107. FAIR USE」に関しての記述あり)

フェアユースは、これまでどう判断されてきたのか?

筆者がAIで生成

フェアユースがどのようなものか理解するために、これまでの代表的な判例から見てみます。ここではトムソン・ロイター対ROSS Intelligence事件を理解するうえで助けになると思われる事例を3つ紹介します。

判例何が問題になったかフェアユースを考えるうえでのポイントROSS事件との関係
Campbell v. Acuff-Rose既存曲をパロディとして利用したこと営利目的でも、それだけでフェアユースが否定されるわけではない。何のために、どのように利用したかが重要
「営利でも即アウトではない」
「AIに利用した」という事実だけでなく、何のために利用したのかを見る必要がある
Google Books書籍を大量にスキャンし、検索サービスに利用したこと大量にコピーしたことだけでフェアユースが否定されるわけではない。利用の目的や市場への影響が重要
「大量コピーでも即アウトではない」
ROSSは、Westlaw全体に占める利用割合が小さいことを主張したが、コピー量だけでは判断できないことを理解できる
Andy Warhol Foundation v. Goldsmith写真家が撮影した写真をもとにウォーホルが作品を制作し、その作品を商業利用したこと「元の作品を加工して別の作品にした」だけで、フェアユースになるわけではない。元の利用目的と、新しい利用の目的・性質が重要
「新しい用途だから自動的にフェアユースではない」
ROSSによるヘッドノートの利用が、Westlawとは異なる目的の利用といえるのかを考える手がかりになる

これらの判例から分かるのは、フェアユースが単純に「どれだけコピーしたか」だけで決まるものではないということです。何のために利用したのか、どのような性質の利用なのか、そして著作権者の市場にどのような影響を与えるのか、こうした事情を総合的に見て判断されます。

【参考文献】
「Campbell v. Acuff-Rose Music, Inc., 510 U.S. 569 (1994)」
「Authors Guild v. Google, Inc., 804 F.3d 202 (2d Cir. 2015)」
「Andy Warhol Foundation for the Visual Arts, Inc. v. Goldsmith, 598 U.S. 508 (2023)」

トムソン・ロイター対ROSS Intelligence事件を「4つの要素」から読み直す

筆者がAIで生成

ではトムソン・ロイター対ROSS Intelligence事件のROSSのヘッドノート利用はどうだったのでしょうか?「4つの要素」で判断で説明した4要素ごとに、ROSSがなぜフェアユースを主張したのか、2026年9月の第3巡回区控訴裁判所がどのように判断したのかをまとめてみます。

フェアユースの4要素ROSS側の主張裁判所の評価判断
利用の目的・性質ヘッドノートをそのまま利用者に提供するのではなく、AIを訓練するための中間的な利用だった。最終的には関連する裁判例を検索するサービスであり、元のヘッドノートを再現するものではないと主張。ROSSは商業的な法律リサーチサービスを開発。Westlawと競合する市場を対象としていた。AIの学習という中間段階があったものの、最終的な目的がWestlawと同じく法律情報を検索するサービスを構築するという非常に近いものだと評価した。フェアユースに不利
著作物の性質利用したのは裁判所の判決そのものではなく、判決を整理・要約したヘッドノート。法律情報を扱う性質が強く、創作性は限定的だと考えられる。法律や裁判所の判決そのものは著作権で保護されない。一方、ヘッドノート自体には著作権保護に必要な最低限の創作性があると裁判所は判断している。ただし、ヘッドノートは法律情報を整理した性質が強く、この要素はROSS側に有利と評価した。フェアユースに有利
利用した量・重要性AIの訓練に必要なデータとして利用したもので、ユーザーにヘッドノートそのものを提供するためではない。
また、Westlaw全体のヘッドノートに占める利用割合はごく小さいと主張。
単純にデータベース全体に占める割合で判断するのではなく、著作権で保護される個々のヘッドノートに着目。問題となった各ヘッドノートは独立した著作物であり、ROSSはそれらの一部ではなく、それぞれの著作物全体をコピーしたと判断された。フェアユースに不利
市場への影響ROSSが提供するのはWestlawのヘッドノートそのものではなく、AIを利用した新しい法律リサーチサービス。Westlawのヘッドノートを直接販売・提供するものではなく、既存の市場を奪うものではないと考えた。ROSSはWestlawと競合する法律リサーチサービスを構築していた。また、AIの学習・訓練用データをライセンスする市場も急速に形成されつつあり、トムソン・ロイター自身もそのような利用を行っていると判断された。フェアユースに不利

このようにROSSの場合は、
商業的・競争的な利用
+
最低限の創作性が認められたヘッドノートの利用
+
個々のヘッドノートを丸ごとコピーする利用
+
既存市場との競合
という事情が重なりました。

さらに裁判所は特に第1要素と第4要素を今回のケースでは重要視し、これらを含む4つの要素を総合的に判断した結果、ROSSの利用はフェアユースとは認められなかった、ということになります。

日本ではどう考える?

筆者がAIで生成

これまで見てきたのは米国の事例でした。では日本の場合はどうかというと、日本には米国型の一般的なフェアユース規定はありません。

日本と米国では著作権法の仕組みが異なり、日本では著作権法に定められた個々の権利制限規定によって、一定の著作物の利用を認める仕組みになっています。文化庁も、AIと著作権の関係について、こうした権利制限規定を前提に整理しています。

【参考文献】「AIと著作権に関する考え方について」(文化審議会著作権分科会法制度小委員会 2024/03/15)

その代表的な規定の1つが、2018年の著作権法改正で設けられた第30条の4です。

(著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用)
第三十条の四 著作物は、次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限度において、利用することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。

一 著作物の録音、録画その他の利用に係る技術の開発又は実用化のための試験の用に供する場合
二 情報解析(多数の著作物その他の大量の情報から、当該情報を構成する要素に係る情報を抽出し、比較、分類その他の解析を行うことをいう。)の用に供する場合
三 前二号に掲げる場合のほか、著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用に供する場合

【引用】「著作権法」(e-Gov 法令検索)

文化庁の「著作権テキスト―令和8年度版―」では、「13.著作者の権利の制限(許諾を得ずに利用できる場合)」の中で、AIと著作権についても整理されています。

AI開発・学習段階については、著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用であれば、原則として著作権者の許諾なく利用できる場合があります。これが著作権法第30条の4による権利制限です。ただし、同条には、著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでないという例外が設けられています。

【参考文献】「著作権テキスト―令和8年度版―」(文化庁 2026年)

内閣府の「AI時代の知的財産権検討会」でも、生成AIをめぐる知的財産権の課題を「学習段階」と「生成・利用段階」に分けて検討しており、生成AIによって生成されたものを利用する段階についても、著作権以外の知的財産権やパブリシティ権などとの関係が論点として整理されています。

実際に、2026年9月には、声優の津田健次郎氏が、自身の声に類似したAI音声が使われたとする動画の削除を求めた訴訟で、東京地裁が「人の声も、一定の場合にはパブリシティ権の保護対象となり得る」との考え方を示しました。これは、AIによる「生成・利用段階」での権利問題の一例です。

もっとも、本件では動画がすでに削除されていたため、裁判所はパブリシティ権侵害の成否そのものについて判断していません。

この事例からも、AIをめぐる法的な問題は、「何を学習に利用したか」という段階だけでなく、「AIによって何を生成し、どのように利用したか」という段階でも生じることがわかります。

【参考文献】「「声の権利」も保護対象に…東京地裁が初判断 津田健次郎さん“生成AIで無断で声を模倣された”動画の削除求めた裁判」(日テレNEWS NNN 2026/09/30)
「令和7年(ワ)第70635号 投稿記事削除請求事件」(東京地方裁判所 2026/09/30)
「AI時代の知的財産権検討会」(内閣府)

最後に

今回取り上げたトムソン・ロイター対ROSS Intelligence事件は、AIによる著作物の利用について重要な判断を示しました。ただし、この判決をそのまま生成AIの学習に当てはめることには注意が必要です。

そもそもROSSが開発していたのは、生成AIによって文章などを生成するサービスではなく、自然言語による法律上の質問に対して、関連する既存の判決文の箇所を検索・提示するAIサービスでした。裁判所も、ROSSがWestlawと競合する法律リサーチサービスを構築していたことを判断材料の1つとしています。そのため、今回の判断が、そのまま現在の生成AIによる学習全般を否定するものとはいえません。

また、この判断に対する評価も1つではありません。裁判所の判断を歓迎する立場がある一方で、Authors Allianceのように、フェアユースの判断が著作者や研究者などによる著作物の利用を狭める可能性を懸念する立場もあります。

Authors Allianceは、AIに学習させるための非公開の中間コピーについて、最終的なサービスが原著作物と競合することを重視してフェアユースを否定する判断に疑問を呈しています。

また、この考え方を一般化すると、研究者による大量の資料分析、学生による翻訳、芸術家による模写など、フェアユースが問題となる様々な活動にも影響する可能性があると懸念しています。

【参考文献】「AAP, Authors Guild Applaud Decision in ROSS Copyright Infringement Case」(Publishers Weekly 2026/10/02)
「Third Circuit affirms in Thomson Reuters v. ROSS: The Court Gets Merger Wrong and Does a Disservice to Fair Use」(Authors Alliance 2026/10/02)
「Authors Alliance Files Amicus Brief in Thomson Reuters v. Ross」(Authors Alliance 2025/10/01)

つまり、今回の判断から「AIによる著作物の学習はフェアユースではない」と単純に結論づけることはできません。重要なのは、何を、何のために、どのように利用したのか。そして、その利用が著作権者の市場や権利にどのような影響を与えるのか。

トムソン・ロイター対ROSS Intelligence事件は、こうした個別の事情を考えることの重要性を示した事例といえるでしょう。

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