連載 :
  ReadWrite Japan

UberはなぜDidi Chuxingに買収されたのか

2017年3月21日(火)
ReadWrite Japan

この記事はクロスカルチャー・デザインの重要性について書かれた8部構成のシリーズの第2部にあたる。
第1部は2017/2/16に掲載されている。

中国でのUberの失敗は最終的に競合相手のDidi Chuxingに買収される結果で終わった。これは中国におけるアメリカベンチャー企業の失敗の一事例である。Uberはアメリカで大きな影響力を持ち、カーシェアリング・タクシー事業のシェア拡大だけでなく、カルチャー全体にも影響を及ぼしている。一方で同社の中国市場でのシェアは、2015年末には最高で30-35%になったといわれたが、その後は縮小を続けDidi Chuxingに買収された2016年8月には8%まで下落していたという。

だが市場シェアが8%まで落ちた状況でも、Uberは収益性の高い継続可能なビジネスを生みだすことができただろう。同社が売却を決断したのは、今後もシェアが低下し続けると考えたためであろう。Uberが中国で喪失することになる市場機会を説明するには、最近の統計に目を向ける必要があるだろう。アメリカは2014年の統計では1000人あたりの車保有台数が797台と、世界第3位の保有率を誇る。一方、中国では1000人あたり128台と世界第99位となっている。車の保有率がアメリカよりずっと低い中国では、カーシェアリングやタクシー事業でより大きなチャンスがあるようにみえる。

Uberの失敗とDidi Chuxingとの合併は多くの主要メディアによって分析されたが、そのどれもが問題の核心には達していない。例えばアメリカ企業が中国内で中国企業に負けた場合、大抵中国政府は特定の国内企業が有利になるよう取り計らっている。だが、これも失敗の理由として完全なものとはいえないだろう。中国政府が(大抵は公にならないよう)中国内企業に便宜を図っているのは事実だが、民間企業とのコネクション(关系)の形成に失敗したことが大きな要因といえるであろう。

关系と言う単語は中国ビジネスを考える上で重要なテーマだ。オックスフォード英語辞典はこの単語を「ビジネスや他の取引を促進するための社会的ネットワークおよび影響力のある関係」と定義している。中国ビジネスでは非常に重要なコンセプトだ。Didi Chuxingは非常にポピュラーなソーシャルアプリであるWeChatとコネクションを持っていた。WeChatの親会社であるTencentはDidi Chuxingに多額の投資をしていた。この关系によって、Didi ChuxingはWeChat内のサービスを通じて中国における一般的な人々の生活に入り込んでいくことができた。
しかしUberはそのようなコネクションを持たなかった。

Didi Chuxingが一般人の生活に自然に馴染むことができたもうひとつの要因は、新しい習慣になじむことを強要せずに既存のテクノロジーの延長路線をとったことだ。Didi ChuxingのユーザーはWeChat内でギフトカードを送ることができ、デジタル紅包としてそれを受けとることができる。中国では昔から新年に大事な人へお金が入った紅い封筒を贈ると言う習慣があり、その時贈られるのが紅包だ。少し古臭いが、こういったシンプルなやり方は文化を邪魔するというよりも文化の一部として受け入れられやすくなる。

Didi Chuxingの中国文化の理解度を示す別の例として、ユーザーは他のユーザーのために乗車賃を払うことができるというものがある。すごい技術というわけではなく、人々の潜在的な要求が掘り起こされるようなデザインがあるわけでもない。ただ単に誰かのために乗車賃を払えるというだけだ。しかし乗客ではない人が乗車賃を払うというのは中国ではよくあることなので、アプリも当然この習慣に対応しなければならない。これまでの習慣を何か新しいもので代替するのではなく、今までの習慣に技術を取り込むということだ。Uberはこうした機能を開発しなかった。最も近いものといえば、Uberギフトカードという非常にアメリカンなもの(紅包その他、地元の習慣を考慮したものではないもの)である。

Uberが中国市場で生き残るには、プロモーションのためにDidi ChuxingにとってのWeChatのような関係を持たなければならなかった。WeChatはDidi Chuxingとの協力関係からいってUberと競合する立場にあり、自身のプラットフォームにUberを受け入れることはなかっただろう。しかしUberはWhatsAppのようなWeChatの競合にあたる会社と提携し、プロモーションすることもできた。関係を持たなかった結果、Uberは关系を築くことができず、また中国の慣習を理解できなかったことも重なり中国からの撤退を余儀なくされた。

著者のClayton “CJ” Jacobsは、現在客員起業制度でReadWriteに籍を置くクロスカルチャーデザインの責任者である。彼の専門は米国企業が中国市場を理解し、現代的でユーザー中心の製品デザインアプローチで市場に進出する
手助けをすることだ。直接メールを出す(clayton.michael.jacobs(at)gmail.com)か、TwitterLinkedInで彼とコンタクトをとることができる。

CLAYTON "CJ" JACOBS
[原文4]

※本ニュース記事はReadWrite Japanから提供を受けて配信しています。
転載元はこちらをご覧ください。

連載バックナンバー

Think ITメルマガ会員登録受付中

Think ITでは、技術情報が詰まったメールマガジン「Think IT Weekly」の配信サービスを提供しています。メルマガ会員登録を済ませれば、メルマガだけでなく、さまざまな限定特典を入手できるようになります。

Think ITメルマガ会員のサービス内容を見る

他にもこの記事が読まれています