ネットワークスペシャリスト試験の概要と午前問題の解答

2018年8月8日(水)
加藤 裕

はじめに

今回から6回にわたって、平成30年度秋期試験「ネットワークスペシャリスト試験」の対策講座を連載します。出題される傾向が高いネットワーク関連技術を各回で取り上げ、過去問題を参照しながら問題の考え方や解き方について解説します。

今回は、ネットワークスペシャリスト試験の概要と午前問題の解き方を取り上げます。

ネットワークスペシャリスト試験の概要

まず、ネットワークスペシャリスト試験の概要を確認しておきましょう。本試験は情報処理技術者試験制度の中で最も高いスキルレベル4に位置付けられ(図1)、「高度情報処理技術者試験」とも呼ばれます。合格するには高い水準の知識・技能が求められるため、十分に対策を行っておく必要があります。

図1:情報処理技術者試験・情報処理安全確保支援試験 - 試験区分(試験要綱より引用)

受験者の対象者像と期待する技術水準は以下のとおりです(ネットワークスペシャリスト試験(NW)より抜粋)。

  • 対象者像
    「高度IT人材として確立した専門分野をもち、ネットワークに関係する固有技術を活用し、最適な情報システム基盤の企画・要件定義・開発・運用・保守において中心的な役割を果たすとともに、固有技術の専門家として、情報システムの企画・要件定義・開発・運用・保守への技術支援を行う者」


  • 期待する技術水準
    1. ネットワーク技術・ネットワークサービスの動向を広く見通し、目的に応じて適用可能な技術・サービスを選択できる。
    2. 企業・組織、又は個別アプリケーションの要求を的確に理解し、ネットワークシステムの要求仕様を作成できる。
    3. 要求仕様に関連するモデリングなどの設計技法、プロトコル技術、信頼性設計、セキュリティ技術、ネットワークサービス、コストなどを評価して、最適な論理設計・物理設計ができる。
    4. ネットワーク関連企業(通信事業者、ベンダ、工事業者など)を活用して、ネットワークシステムの構築・運用ができる。

ネットワークシステムの企画から運用・保守まで幅広い知識が求められていることが確認できます。そのため、試験でもネットワークや情報セキュリティの技術的な内容を問う問題や計算問題、構築・運用・管理の作業手順など、様々なバリエーションの問題が出題されます。

試験概要はIPAのホームページで公開されていますので、より詳細な内容を確認したい方はこちらを参照してください。

次に、もう少し試験の詳細を見ていきます。ネットワークスペシャリスト試験は年1回、秋期(10月の第3日曜日)に開催されます。2018年は10月21日(日)です。試験対策のスケジュールを立てる際には、この日を基準に決めると良いでしょう。

各問題の試験時間を図2に示します。午前Ⅰ問題には条件付きで免除制度があります(情報処理技術者試験の高度試験、情報処理安全確保支援士試験の一部(午前Ⅰ試験)免除制度)。また、午後問題はどちらも記述式かつ問題選択式です。

図2:2018年度(平成30年)の試験日と試験時間

過去3年間の受験者数と合格者数を図3に示します。受験者数は1万2000人弱で、合格率はおおむね14%程度で推移しています。

図3:ネットワークスペシャリスト試験の応募者数や合格率など

受験者の得点分布を図4に示します。午前Ⅱ問題の通過率は7割程度で、午後Ⅰ問題と午後Ⅱ問題の通過率は5割程度でした。合格するにはすべての試験区分で60点以上を取る必要がありますが、50点台に分布している受験者も比較的多いことが確認できます。試験本番では、1点でも多く得点を積み重ねていくことが重要となります。

図4:H29年度ネットワークスペシャリスト試験の得点分布

試験に取り組むにあたって

試験の合格を目指すにあたって、意識しておきたいポイントを3点挙げます。

知識を増やす

ネットワークスペシャリスト試験は比較的難易度が高いので、ネットワーク分野の知識を増やすことが必須です。試験範囲は設計から運用まで幅広いため、苦手な分野があるとそれだけ不利になります。できる限り手広く学習することを心がけてください。また、学習教材はネットワークスペシャリスト試験に関連した書籍やインターネット上の記事が数多く存在するので、まずは色々と手に取ってみて、自身の理解度に合ったものから読み込み、徐々に難易度の高いものに切り替えていくと良いでしょう。

なお、2016年度にはシラバスの見直しが行われ、情報セキュリティ分野の出題割合が多くなりました。そのため、情報処理保安全保護支援士試験(旧情報セキュリティスペシャリスト試験)の学習教材も読み込み、情報セキュリティ分野の知識を増やす必要もあります。

過去問を多く解く

他の試験でも同様ですが、過去問を多く解くことで出題傾向や出題パターンを把握できます。問題の解き方を事前に蓄積しておくことで、試験本番に応用できることも期待できます。

また、午後問題は選択方式のため、問題選択や時間配分の方針を決める必要があります。問題選択が適切でなかった、問題選択に時間をかけすぎて解答時間が足りなくなった、などの失敗談もよく耳にするので、過去問を解く際にはこれらを意識しておくと良いでしょう。

記述式の解答に慣れる

午後問題は記述式のため、考えた解答を文字に書き出さなければなりません。問題によっては文字数や含めるべきキーワードなどの制約事項もあるため、それらの条件を満たす必要もあります。過去問を解く際に頭の中で考えただけでは、試験本番で思うように解答を記述できず気持ちが焦ってしまうかもしれません。そのため、過去問を解く際には、実際に手を動かして解答を書くことも意識してみてください。

また、解答をまったく書かなければ得点はもらえませんが、何らかの解答が書かれていれば部分点を得られることが期待できます。部分点の積み重ねが合格につながることも十分に考えられるため、不完全でも何らかの解答を書いておくことが重要となります。

試験の概要は以上です。続いて、午前Ⅰ/Ⅱ問題の出題範囲について確認していきます。

午前Ⅰ問題について

午前Ⅰ問題の出題範囲は図5のとおりです。

図5:午前Ⅰ問題の出題範囲(○の後の数字は問題のレベル(1~4段階))

午前Ⅰ問題は他の高度情報処理技術者試験と共通の問題が出題されます。テクノロジー以外にマネジメントやストラテジーなど、広い分野から出題されます。午前Ⅰ問題で基準点を満たさないと午前Ⅱ問題以降は採点されないので、特に初めて情報処理技術者試験を受験する場合は、ある程度の学習時間を確保して備えておきましょう。

出題形式は四者択一で、過去問から出題されやすい傾向があります。そのため、過去2、3年分の応用情報技術者試験の午前問題に何度も挑戦し、出題内容とその解答を覚えておけば基準点を満たすことは難しくないでしょう。

午前Ⅱ問題について

午前Ⅱ問題の出題範囲は図6のとおりです。

図6:午前Ⅱ問題の出題範囲(○の後の数字は問題のレベル(1~4段階))

例年の出題割合を見ると、ネットワークで15問前後、セキュリティで5問前後、それ以外で5問程度となっています。出題範囲は広いですが、ネットワークとセキュリティで合計20問程度出題されるので、学習時間が不足している場合は学習範囲をネットワークとセキュリティに絞っても基準点を満たすことは十分に可能でしょう。

また、午前Ⅰ問題と同様に午後Ⅱ問題の対策も2、3年分の過去問を何度も解答して傾向を覚えましょう。もし新規の問題が出題されても、午後問題を解くための知識があればその場で解くことも十分可能です。

ただし、計算問題や図を用いた問題は数式や考え方が前提知識として必要になるため、それらは解法を覚えておきましょう。

午前Ⅱ問題とその解答例

ここからは、午前Ⅱ問題でよく出題される問題から3つほど取り上げて、解答へのアプローチを解説します。

問2 伝送速度が128kビット/秒の回線を用いて,128×103バイトのデータを転送するために必要な時間はおよそ何秒か。ここで,転送するときの一つの電文の長さは128バイトであり,ヘッダなどのオーバーヘッドを除いて送信できるデータは100バイトである。また,電文の送信間隔(電文の末尾から次の電文の始まりまで)は,平均1ミリ秒とする。

ア 2.6     イ 8     ウ 10     エ 12
(平成25年度 秋期 午前Ⅱ問題 問2(試験問題から引用))

この問題は、データ送信に関連した計算問題です。データ量が128,000バイトあり、1つの電文で送信できるデータは100バイトであることから、送信する電文の数は以下のように1280個と求められます。

転送する際の1つの電文の長さは128バイトで、これを1280個送信します。伝送速度は128kビット/秒なので、以下の計算で送信時間を求められます。なお、ネットワークの通信速度では1キロバイトは1000バイト(10の3乗)です。1024バイト(2の10乗)ではないので、使い分けに注意しましょう。また、バイトとビットの関係は1バイト=8ビットであり、今回はビットに単位をそろえて計算しています。

電文の送信間隔は平均1ミリ秒であることから、1280個の電文を送信する際には1279ミリ秒が追加でかかることになります。したがって、以下の計算から解答は(エ)と求められます。

問3 図のネットワークで,数字は二つの地点間で同時に使用できる論理回線の多重度を示している。X地点からY地点までには同時に最大幾つの論理回線を使用することができるか。

ア 8     イ 9     ウ 10     エ 11
(平成28年度 秋期 午前Ⅱ問題 問3(試験問題から引用))

この問題では2点間の経路上に設計された多重度において、ボトルネックとなる個所を洗い出します。例えばX-A間は4回線を利用できますが、A-B間は2回線、A-D間は1回線しか使えないため、X-A間を利用できる最大回線数は実質3回線までとなります。全体でこの洗い出しを行うことで、解答は(ウ)と求められます。

このタイプの問題を解答する際は、経路の見落しに注意しましょう。多少面倒でも頭の中だけで考えず、問題用紙に経路を書き込んで確認してみると見落としを防ぐことができます。

問2 180台の電話機のトラフィックを調べたところ,電話機1台当たりの呼の発生頻度(発着呼の合計)は3分に1回,平均回線保留時間は80秒であった。このときの呼量は何アーランか。

ア 4     イ 12     ウ 45     エ 80
(平成29年度 秋期 午前Ⅱ問題 問2(試験問題から引用))

アーランに関する問題は、午後問題でもIP電話などに関連して出題される可能性があるので、解法を覚えておきましょう。

アーランは「呼量」とも呼ばれ、ある単位時間における資源(回線など)の利用量を指す単位です。限られた資源を効率良く提供するための考え方で、「トラヒック理論」において定義されています。例えば、電話の利用状況を1時間観測した際に、1台の電話機を1時間利用し続けている状態が観測されれば1アーランとなります。なお、平均回線保留時間は回線の占有開始から占有終了までの時間の平均値を指しており、大まかに電話の利用時間と考えることができます。

アーランは以下の計算式で求めることができます。

今回の問題では180台の電話機があり、3分に1回の割合で呼(呼び出し)が発生しています。また、平均回線保留時間は80秒です。これらの情報から単位時間を3分=180秒として呼量を計算すると、解答として(エ) が求められます。

これは余談ですが、単位時間を1時間として考えると、電話機1台あたり1時間(60分)に20呼発生することから、以下の計算となります。得られる回答は同じなので、自分にとって解きやすい形で覚えておくと良いでしょう。

おわりに

今回は、ネットワークスペシャリスト試験の概要と午前問題の解き方について確認しました。次回は、ネットワークの要素技術と関連する試験問題の考え方・解き方を取り上げます。

NECマネジメントパートナー株式会社 人材開発サービス事業部
2001年日本電気株式会社入社。ネットワーク機器の販促部門を経て教育部門に所属。主にネットワーク領域の研修を担当している。インストラクターとして社内外の人材育成に努めているほか、研修の開発・改訂やメンテナンスも担当している。

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