令和3年度 午後I試験 問3 「ネットワークの設定や設計に関する問題」の解説

2022年1月21日(金)
加藤 裕

はじめに

今回は、令和3年度ネットワークスペシャリスト午後I試験の最後の問となる問3を取り上げて解説を行います。試験問題はこちらからダウンロードできますので、まずは問題に挑戦してみてください。

午後I試験問3の解説

問3は音声クラウドサービスの導入に伴う、VLANや優先制御を中心としたネットワークの設定や設計に関する問題です。まずは設問の解答にとりかかる前に問題文の構成を確認します。問3の構成はこれまでの問と同様に、冒頭の全体説明に加えて3つの大括弧([ ])で区切られた段落で構成されています。

表1:問3の段落名と開始場所

段落名 開始場所
現状の調査 14ページ8行目
電話サービス導入後のネットワーク構成 15ページ4行目
電話サービスで発生した問題と対策 16ページ10行目

問3は全体説明に記述されている通り、IP電話サービスに関連した技術(優先制御など)を問う内容が多く出題されています。IP電話に関する知識を求められるため、この分野の対策が十分でないなど回答に自信がない場合は、試験開始から早い段階で本問を選択しないことを決めて、問1と問2を全力で取り組むという判断をしても良いでしょう。

それでは、設問1~4について解説していきます。

設問1の解説と解答例

様々な技術に関する問題です。この設問では穴埋め部分が本文全体に分散しているため、見落とさないように注意しましょう。また、穴埋め部分が本文全体に分散していることから、設問1でまとめて回答せずに他の設問と並行して回答しても良いでしょう。それでは、[ a ]から[ d ]の解答について確認します。

  • [ a ]は、CS-ACELPのビットレートを回答する問題です。16ページ1行目には「G.729として標準化されたCS-ACELP」との記述があります。G.729はITU-Tで標準化された音声コーデックで、1通話あたり8kbpsの帯域を利用します。したがって[ a ]の解答は【8】となります。VoIPでは音声コーデックとしてG.711もよく利用されており、こちらは1通話あたり64kbpsの帯域を利用します。
  • [ b ]は音声データをIPパケットとして送信する場合に利用するヘッダを回答する問題です。音声データは通信遅延が発生すると通話品質に影響が出ることから、トランスポート層のプロトコルとしてはコネクションレス型のUDPが利用されます。したがって、解答は【UDP】となります。なお、UDPだけでは音声の処理に十分な機能を提供できないため、シーケンス制御、タイムスタンプ機能などを提供するRTP(Real-time Transport Protocol)も一緒に利用されます。
  • [ c ]は音声パケットに発生した事象を回答する問題です。この設問における状況は16ページ14行目から記述があります。このうち設問の状況が発生した原因は、16ページ17行目に記述されている「大量の動画パケットがL3SW0に入力された」ことになります。この状況では、L3SW0で音声パケットの処理が遅延したことや、音声パケットが廃棄されたことが考えられます。したがって解答例は【廃棄】などとなります。音声品質が劣化する代表的な要因としては遅延・ジッタ・パケット損失が挙げられます。本文では遅延が出ており、また、ネットワークの状況としてジッタの発生は考えづらいため、消去法でパケット損失と回答しても良いでしょう。
  • [ d ]はIPで優先制御を行う際に利用するフィールド名を回答する問題です。17ページ20行目には「IPヘッダの[ d ]フィールドをDSCPとして再定義した6ビットにマーキング」と記述されています。DSCPはIPヘッダのToS(Type of Service)フィールドを利用します。したがって解答は【ToS】となります。

設問2(1)の解説と解答例

IP電話の対象となる通話を回答する問題です。14ページの図1を確認すると、本社とそれぞれの営業所にはPBXが導入されており、PBXには公衆電話網とIP-GWが接続されています。このうち公衆電話網は音声がIPパケット化されずに流れますが、IP-GWを経由した音声はIPパケット化されて流れます。すなわち、本社や営業所間の内線電話がIPパケット化されます。設問の条件として「本文中の字句を用いて」と記述されているので、適切な字句を探すと15ページ3行目の「拠点間の内線通話」が当てはまりそうです。したがって解答は【拠点間の内線通話】となります。

図1:図1における音声通話の流れ

設問2(2)の解説と解答例

ジッタバッファの容量に関する問題です。ジッタ(Jitter)とは、部分的な遅延の発生などを原因とした、音声パケットの到着間隔がばらつく事象を指します。ジッタが大きくなると音声を正常な再生間隔で処理できずに、音声の途切れといった音声品質の低下が発生します。このジッタへの対策となる仕組みが、ジッタバッファです。

IP電話機などでジッタバッファを有効にすると、音声パケットを再生する前にジッタバッファへ蓄積します。そして音声パケットの再生間隔が均一になるように、バッファで保持する時間を調整して再生します。このようにジッタ対策に有効なジッタバッファですが、バッファを大きくし過ぎると音声パケットがバッファに蓄積する時間が長くなり、音声の遅延が大きくなるデメリットが生じます。したがって解答例は【パケットの音声化遅延が大きくなるから】などとなります。

設問3(1)の解説と解答例

必要となる音声帯域を計算する問題です。音声帯域は回線数に1回線当たりの音声帯域を掛けることで求められるため、まずは必要となる回線数を確認します。

L3SW0のポートaを通る通話は、本社と営業所の外線通話です。外線通話に関する情報は14ページの図1の注記1に「本社のPBXには80回線の外線が収容され,各営業所のPBXには,それぞれ10回線の外線が収容」と記述されています。また、14ページ3行目に「5か所の営業所」とあるので、回線数は本社の80回線と営業所5か所分の50回線を合計した130回線だとわかります。さらに、1回線当たりの音声帯域は16ページ4行目に「1回線当たり34.4kビット/秒」とあるので、34.4(kビット/秒)×130(回線)を計算することで求められます。したがって解答は【4472】となります。

図2:L3SW0のポートaを経由する回線数

設問3(2)の解説と解答例

PoEの機能に関する問題です。PoE(Power over Ethernet)はIEEE802.3afで規定されており、ツイストペアケーブルを用いて電力を供給する機能を実現します。PoEを利用する場合は、給電側のPoE対応機器と受電側のPoE対応機器をそれぞれ用意して接続することで動作します。

PoEでは、機器を接続する際にPoE対応機器かどうかを検出して電力の供給を判断するため、PoE非対応の機器が接続された場合は電力が供給されず、通常のネットワーク機器として利用できます。設問には「PoE未対応の機器を誤って接続した場合の状態について」と記述されているので、PoE未対応の機器には給電されないことを回答すれば良いことがわかります。したがって解答例は【L2SWからの給電は行われない。】などとなります。

設問4(1)の解説と解答例

CoS(Class of Service)に関する問題です。CoSはレイヤ2の優先制御を実現する仕組みで、利用する場合はCoS値を設定する必要がありますが、レイヤ2の通信ヘッダであるEthernetヘッダにはCoS値を設定するフィールドは用意されていません。そこでCoSでは、CoS値を設定するためにEthernetヘッダを拡張するタグVLANのフィールドを利用します。タグVLANを利用するとEthernetヘッダに4オクテット(32ビット)分のフィールドが追加されますが、そのうちの3ビット分のフィールドにCoS値を設定します。設問ではタグVLANが必要となる理由を求められているので、CoSがタグVLANのフィールドを利用することを回答します。したがって解答例は【フレーム中のタグ情報内の優先ビットを使用するから】などとなります。

設問4(2)の解説と解答例

優先制御の設定に伴いL3SW0へ新たに追加されたVLANインタフェースの数を考える問題です。本文から、設定されているVLAN-IDを見つけてカウントしていきます。

まず、優先制御を設定する前の状態として、15ページ7行目にはL3SW0に対して合計6つのVLAN-ID(a=VLAN10、b=VLAN15、c~e=VLAN20、f=VLAN100、g=VLAN150、h=VLAN25)が設定されている記述があります。また、16ページ19行目からは優先制御を設定するために合計6つのVLAN-ID(L2SW01=VLAN100とVLAN105、L2SW02=VLAN150とVLAN155、L3SW1=VLAN210とVLAN215)が追加された記述があります。このうち、L2SW01とL2SW02の合計4つのVLAN-IDは、それらのL2SWが接続しているL3SW0にも設定されます。ただ、L2SW01のVLAN100とL2SW02のVLAN150は優先制御を設定する前から利用されているので、優先制御の設定により新たに追加されたVLAN-IDはVLAN105とVLAN155になります。設問では数で回答する条件が指定されています。したがって解答は【2】となります。

図3:設定されたVLANインタフェース(赤線が追加されたVLANインタフェース)

設問4(3)の解説と解答例

優先制御におけるパケットの送出ルールについて考える問題です。優先制御では複数のキューを利用してパケットを出力します。具体的な処理の流れとしては、優先度の値に応じてパケットがキューに振り分けられ、優先制御のアルゴリズムにしたがってキューからパケットが出力されます。設問では、17ページ7行目に「キュー1とキュー2の二つの出力キュー」とあり、音声フレームはキュー1、データフレームはキュー2を利用するよう設定されています。

また、アルゴリズムについては17ページ8行目に「キュー1にフレームがなくなるまでキュー2からフレームは出力されない」と記述されています。そのため、キュー1に音声フレームが蓄積されている間はキュー2からデータフレームは出力されません。しかし、キュー1が空になるとキュー2からデータフレームが出力されます。このタイミングでキュー1に音声フレームが入ると、その音声フレームは出力待ちとなります。したがって解答例は【データフレームが出力中の場合】などとなります。

設問4(4)の解説と解答例

優先制御に関して設問の条件の合ったL3スイッチのポートを考える問題です。[ ア ]は、17ページ19行目にある「受信したフレームにはCoS値がマーキングされている」が条件になります。CoS値はITELの接続されているL2SW(L2SW01、L2SW02、L2SW1)で設定されるため、それらと接続されているポートが解答になります。したがって解答は【f,g,j】となります。

また、[ イ ]は17ページ22行目にある「音声パケット,eLNサーバのパケット(略),その他のデータパケット(略)の3種類に分類」が条件になります。これらのデータが入ってくるポートを挙げれば解答となります。したがって解答は【a,b,c,d,e】となります。なお、ポートhとiはどちらも既にDSCP値が割り当てられたパケットを受け取ることから、[ ア ]と[ イ ]のどちらにも当てはまりません。

設問4(5)の解説と解答例

eLNサーバの通信とデータ通信のキューが異なる理由を考える問題です。優先制御では、パケットを入力させるキューを変えることで通信の遅延を制御できます。下線部④では「eLNパケットをキュー2,Dパケットをキュー3に入れる」と記述されており、また、キュー2とキュー3の設定は17ページ16行目に「キュー2には重み比率75%,キュー3には重み比率25%のWRRを設定する」と記述されています。WRR(Weighted Round Robin)は出力する割合に重みを付けて送信する仕組みであるため、eLNパケットはDパケットよりも少ない遅延で出力されることがわかります。

また、eLNパケットの通信内容は16ページ11行目に「動画コンテンツ」と記述されています。そのため、もしeLNパケットとDパケットが同じキューで処理された場合は、Dパケットが大量に流れた際にeLNパケットが遅延して動画コンテンツの再生が滞る問題が発生することが予想されます。しかし、この問題は下線部④を設定することである程度は解消できそうです。したがって解答例は【DパケットによるeLNパケット転送への影響を少なくするため】などとなります。

おわりに

今回は、令和3年度の午後I試験 問3をピックアップして解説しました。午後I試験は3問から2問を選択する方式のため、得意分野の問題を素早く選択し、選択した問題に時間をかけて取り組むことが大きなポイントとなります。そのため、過去問に多く取り組んで自身の得意・不得意分野を客観的に把握しておく、選択する出題分野の優先度を自分の中で決めておく、などを意識すると良いでしょう。

次回は、令和3年度午後Ⅱ試験 問1の考え方・解き方を取り上げていきます。

NECマネジメントパートナー株式会社 人材開発サービス事業部
2001年日本電気株式会社入社。ネットワーク機器の販促部門を経て教育部門に所属。主にネットワーク領域の研修を担当している。インストラクターとして社内外の人材育成に努めているほか、研修の開発・改訂やメンテナンスも担当している。

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