オブジェクト指向はどこに向かうか
クラスの継承
次に、クラスの継承について説明しましょう。あるクラス定義がすでに存在している時、新たな機能を追加したり、異なる機能で置き換えることによって別のクラスを定義する機能です。これによって、共通部分を再利用し、似たようなクラス定義をたくさん書かなくてよくなります。一般に、再利用の元となる継承元のクラスをスーパークラス、継承して新たに定義するクラスをサブクラスと呼びます。
例として、時刻を秒まで表すことのできるクラスpreciseTimeを定義します。図3-1ではpreciseTimeの後に「:」で区切ってtimeOfDayと書いてありますが、これはtimeOfDayをスーパークラスとして新しいサブクラスpreciseTimeを作るという宣言になります。なお、C++ではスーパークラス、サブクラスをそれぞれ基底クラス、派生クラス(または導出クラス)と呼びますが、ここでは混乱を避けるためにスーパークラス、サブクラスと呼びます。
図3-1では秒を表すメンバとしてsecondを追加していますが、メンバhour、minuteはスーパークラスのものを使うため記述しません。時刻を設定する新しいメンバ関数setTimeWithSecではスーパークラスの関数setTimeを利用しています。メンバ関数print は新しい定義で上書き(オーバーライド)します。このクラス定義によって、preciseTimeはメンバhour、minute、secondおよびメンバ関数setTime、setTimeWithSec、printを備えることになります(図3-2)。
モジュールとしてのクラス
ここまでの例では、C言語の構造体と同じstructという予約語を使ってクラスの定義をしました。図3-3のように、生成したインスタンスのメンバには構造体と同様にアクセスできます。
一方、C++のクラス定義では、普通はstructではなくclassという予約語を使います。例えば1ページ目の図1-2の例は図3-4のように書くことができます。ところが、このように記述した場合には、メンバの値に直接アクセスすることができなくなります(public:の意味は第3回で説明します)。これは、オブジェクト指向の原則であるカプセル化によります。
図3-5を見てください。この例では時間と分を別にせず、1日の始まりからの分単位で時刻を記録するという実装方法にしています。このクラス定義を使っても、図3のmain関数は問題なく動作させることができます。
オブジェクト指向では、各クラスをソフトウエアの構成単位であるモジュールのひとつとして考えます。モジュールはソフトウエアの開発、更新、変更の単位となる、手続きとデータ構造の意味のあるまとまりと言うことができます。あるモジュールの実装を変更してもソフトウエアのほかの部分を変更する必要がない場合、そのモジュールは独立性が高いと言います。
structを使った書き方では、プログラムのどこからでもメンバに対して自由にアクセスができてしまいます。クラスtimeOfDayを図3-5の実装で置き換える必要が生じた場合、メンバhourがなくなったことによる影響がプログラム中に波及するかもしれません。しかし、classを使って定義しておけば、メンバに直接アクセスするような書き方がそもそもできませんので、変更の影響がクラスの外部に及ぶ心配をする必要がありません。
このように、クラスやモジュールの内部の実装を外部から利用できないようにしておけば、変更の影響を限定された範囲にとどめる効果があります。あるモジュールを利用するために最小限の情報だけを公開し、ほかの詳細は見えないようにすることを、カプセル化、あるいは情報隠ぺいと呼びます。大規模なソフトウエア開発では関係するモジュールの数だけでも膨大になりますので、必要な情報以外は使わせないというこの原則は非常に重要です。
なお、本稿の執筆にあたって、以下を参考にしました。
柏原正三『C++効率的最速学習徹底入門』技術評論社(発行年:2002)
C. Wille『C#入門 Microsoftの次世代言語を学ぶ』アスキー(発行年:2000)